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「ゲーム用サブスク」に業界成長の期待が持てるこれだけの理由 ソニー・任天堂・MSが独自進化させたビジネスモデルを考える 【連載】ゲームジャーナル・クロッシング(14)
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  • 2022.04.13
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「ゲーム用サブスク」に業界成長の期待が持てるこれだけの理由 ソニー・任天堂・MSが独自進化させたビジネスモデルを考える 【連載】ゲームジャーナル・クロッシング(14)

Photo by Marcel Strauß on Unsplash

Jini

ゲームジャーナリスト

note「ゲームゼミ」を中心に、カルチャー視点からビデオゲームを読み解く批評を展開。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」準レギュラー、2020年5月に著書『好きなものを「推す」だけ。』(KADOKAWA)を上梓。
ゲームゼミ
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サブスクリプションはコンテンツ産業における主流形態だ。特に音楽、映画など、既に人々はパッケージを「買う」のではなく、コンテンツに触れる権利そのものをサブスクリプションとして「買う」習慣を身に着けた。

ゲーム業界も各社サブスクリプションの導入を推し進めている。当連載ではすでにMicrosoftによるXbox Game Passの先見性について記事を掲載しているが、そこに加え、2021年10月には任天堂の「Nintendo Switch Online + 追加パック」、更に2022年にはソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)の「PlayStation®Plus」の改定が発表されるなど、三者三様ながら独自のサブスクを構築しつつある。

一見すると、ゲーム業界は音楽や映画などのサブスクの成功を「後追い」しているように見えるかもしれない。ところが実態は、数あるサブスクサービスの中でもゲーム業界はむしろ歴史が長く、しかも独特だ。SpotifyやNetflixなど、エンタメ業界のサブスクの多くが競争の果てに成長を鈍化させ、マンネリを避けられないでいる現在、このようなゲーム業界のサブスク方針には多くのヒントが眠っているかもしれない。

「囲い込み戦略」から生じた独特なサブスク

ゲーム産業のサブスクリプションは一体どのような点で特殊なのか。それを考える上でモデルケースとなるのが、先月発表されたばかりのSIEによる「PlayStation®Plus(PS Plus)」の「改定」という点だ。

「改定」とあるように、SIEは今回初めてサブスクリプションのサービスを開始するわけではない。もともと2010年より、SIEは「PS Plus」という月額制のサービスを提供しており、会員数は2020年でも約4500~4750万人を誇る巨大なサービスを持っていた。

また「PS Plus」とは別に、北米で2015年1月より、各PSハードやPCで数百タイトルが遊べるクラウドサービス「PlayStation™Now(PS Now)」も展開しており、今回の「改定」はこの「PS Plus」に「PS Now」のサービスを「統合」しつつ、新たにPS1、PS2、PSPなどのクラシックタイトルもここに加える計画だ。

なお具体的な改定内容としては、

・ほぼPS Plus据え置きの「PlayStation Plus エッセンシャル」(1ヵ月850円〜)
・「PS Plus」に「PS Now」を加えた「PlayStation Plus エクストラ」(1ヵ月1300円〜)
・「PS Plus」に「PS Now」と「クラシックタイトル」まで全部入った「PlayStation Plus プレミアム」(1ヵ月1550円〜)

のそれぞれ3つのサービスが発表されている。

だが「PS Plus」で驚くべきは、その内容だ。本サービスには、毎月数本のゲームを無料で配布する「フリープレイ」や、オンラインストアの「割引」など恩恵があるものの、映画や音楽のサブスクのように、「ゲームが遊び放題」になるわけではない。

では一体なぜ何千万人も加入するのかといえば、その理由は「オンラインマルチプレイ」。そう、ただ「このアカウントでオンラインで遊んでもいい」という権利が、月々500~800円近いメンバーシップのメインコンテンツなのである。

こうしたサブスクを導入したのはSIEに限らない。2005年、Xbox 360の発売と同時に導入された定額制サービス「Xbox Live Gold」で、こちらもオンラインプレイなどを付加価値にXboxの安定した収益源となった。また2018年、任天堂が開始した有料会員制度「Nintendo Switch Online」も、同様にメインとなるのはその名の通り「オンラインで遊べる権利」だ。

これらのサービスは各ゲームハードでオンラインゲームを楽しむうえでの前提条件となっており、そういったゲームをプレイする層にとってはサービスに加入しない、という選択肢は存在しない。言い換えれば、ただオンラインゲームを遊ぶだけで月々500~1000円程度支払う必要があった。もちろん、ゲームタイトルを購入するには別途お金が必要になる。

このサービスの価格についてはユーザーの間でも議論があったが、一方でコンソール機には安定したサーバーの運営、チートなどの不正行為、また誹謗中傷などのハラスメントを防止する可能性を期待できる点で、十分費用に見合う内容だと考えるユーザーも多数いる。

こうしたゲーム業界のサブスクの特殊性は、特にハードウェアという強固な囲い込み戦略に立脚している。MS、SIE、任天堂、いずれも魅力的なハードウェアを安価に販売し(よって転売の格好の商材となるのだが)、更にそのハードウェアでしか遊べないユニークなコンテンツを多数制作する。こうしたハードウェアの上だからこそ、競争に晒されず利益を生みやすいサブスクを構築できたと言えるだろう。逆にNetflixやSpotifyであれば、スマホやPCなど自由市場の上で競争に晒されるため、「コスパ」はかなりシビアに評価される。

進化するサブスクリプション 「クラウド」「メタバース」との相性やいかに

Photo by Árpád Czapp on Unsplash

ただ、さまざまなエンタメが越境しながらユーザーの「可処分時間」を奪い合う現代において、コンソールプラットフォーマーたちは徐々にサービスを見直しつつある。

先手を打ったのはMicrosoftだ。2017年から導入したサブスクリプション、「Xbox Game Pass」はXboxの魅力的な独占タイトルに加え、日本を含むサードパーティの大作までも「遊び放題」というゲーム少年からすれば夢のようなサービス。そして何より、サービスをXboxのみならずPC、さらにその後、クラウドを利用してAndroidやiOSにも対応した。自ら「囲い込み戦略」を崩し、Netflixなど強豪サブスクサービスとの真っ向勝負に挑んで見せた。

ここで、従来のサービス「Live Gold」と「Xbox Game Pass」の統合も進められている点が興味深い。新たにサービスを作るのではなく、すでに築き上げた「Live Gold」というサービスを進化させたことで、何千万人という既存のユーザーの経済圏を誘導しつつ、更に彼らに「数百円上乗せすれば、ゲームが遊び放題になる」という「お得感」でもって説得力をもたせているのだ。

今年SIEが発表した「改定版PS Plus」、また昨年任天堂が発表した「Nintendo Switch Online + 追加パック」も、内容は少しずつ異なるものの、基本は従来のサブスクが持っていた巨大な市場をそのまま活用する手法を踏襲したものと言えるだろう。これまでの消極的なサービスを、大作ゲームやクラシックゲームが遊び放題という積極的なサービスに変えることで、まだまだゲーム業界には鉱脈が残っていると言える。

「Nintendo Switch Online + 追加パック」はNINTENDO 64、メガドライブの過去のタイトルを遊ぶことができる。(任天堂 より)

しかしゲーム業界のサブスクはただ、既存のサブスクに寄せただけに留まらない。むしろここから、既存のサブスクにはない新しい可能性の発掘が十分考えうるのだ。

その可能性の一つが、クラウドの活用だ。現代の大作ゲームには高度な処理能力を持つハードウェアが不可欠で、従ってユーザーはゲームを遊ぶために、まず数万円のゲームハードを購入する必要があった。対してクラウドゲーミングのサービスでは、こうしたハードウェアに代わって、各事業者のデータセンターで処理を行い、映像としてユーザーのディスプレイに反映する形式を採用する。つまりスマートフォンなど大半のハードウェアでゲームを遊ぶことが可能になり、ユーザー側の負担が大きく減るわけだ。

MicrosoftのXbox Game Pass、SIEの旧PlayStation Now、またNvidiaのGeForce NOWなど、クラウドを前提としたゲームのサブスクは着実に増えている。これらのサービスでは事実上、「コンテンツ(ゲームソフト)を利用し放題」という従来のサブスク的な魅力に加え、事実上「ハードウェアの貸し出し」まで行っているのである。現状、クラウドゲーミングは遅延や画質などの問題から、コア層のゲーマーにとって有力な選択肢にはなっていないものの、最初からハードウェアを持っていない、買えない層にとってはすでに極めて魅力的な選択肢だ。

クラウドを前提としたサブスクはゲームなどコンテンツ産業に限らない。MicrosoftのOffice365やAdobe Creative Cloudなどのツールも、クラウドxサブスクとしてサービスを展開している。こうしたクラウドは、ハードウェアの汎用性を大きく伸ばすだけでなく、コンテンツへのアクセスを一層スムーズにしたり、インターフェイスのフラット化、データ同期など、ユーザーの利便性を向上させる側面も「ありうる」点に注目したい。

そして皆大好き、メタバースとのシナジーも期待できる。すでに当連載でメタバースに対する見解を述べているが、少なくとも現状「メタバース的なロマン」は、さまざまなGaaS(Game as a Service)、いわゆる運営型ゲームの中から見出せる。運営型ゲームとは一度発売した後も、継続的なアップデートによりユーザーとの関係性を長く維持するゲームのことで、ここでは『GTA Online』などの「PGC系」、『Roblox』などの「UGC系」、また『Fortnite』などその(比較的)「折衷」という形で紹介している。

運営型ゲームのユーザーの多くは熱心かつ継続的であり、サブスクリプションにとってもまたとない太客の宝庫だ。そこでプラットフォーマーはこれらサービスと結びつき、アイテムなど特典を用意することでサービスへの加入を促している。例えばSIEの「PS Plus」加入者は、4月だけでも『原神』『Fortnite』『Apex Legends』などで使えるアイテムを加入者特典として受け取ることが可能で、これらの継続的インタラクティブコンテンツ……後にメタバースになりうるコンテンツと、ゲームのサブスクリプションの相性は極めて良好だ。

中でも興味深いのは、Amazonが展開するPrime Gamingだ。こちらはAmazonのサブスク「Amazon Prime」の会員であれば全員アクセスできるサービスであり、『Roblox』や『GTA Online』、また『Apex Legends』や『League of Legends』など人気ゲームの特典アイテムを配布している。Amazon Primeという基本的にゲームと無関係なサブスクであっても、後にメタバースと結びついてユーザーと利益を共有するという試みは増えるかもしれない。

Amazon Prime Gaming より

次ページ:ゲーム業界のエコシステムはエンタメ産業にも大きなヒントになる

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