CULTURE | 2022/02/22

女優のんが監督作『Ribbon』に込めた想い ― どんな困難があっても自分の好きを信じきってほしい

2022年2月25日公開の映画『Ribbon』は、「わたしたちのアートをとりもどす」――未来を奪われた美大生の再生物語だ...

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2022年2月25日公開の映画『Ribbon』は、「わたしたちのアートをとりもどす」――未来を奪われた美大生の再生物語だ。多くの卒業制作展がなくなり、青春を奪われていく学生たちの悲しみを目の当たりにした俳優・アーティストののんが、世の中の擦り切れた思いを少しでも救い上げたいという思いで企画した、初の劇場長編監督作品となっている。コロナ禍の世界を見つめ考えた映画監督がコロナ禍最中の現在に、コロナ禍におけるコロナ禍に苦しむ美大生を主人公にして映画作品を作り上げた。今回、のんさんにインタビューするチャンスに恵まれたFINDERSは、のんさんを突き動かすもの、表現したいことの本質に迫った。

のん

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1993年生まれ。兵庫県出身。2016年公開の劇場アニメ「この世界の片隅に」で主人公・すずの声を演じ、第40回日本アカデミー賞では最優秀アニメーション作品賞を受賞した。

聞き手・文:米田智彦 写真:有高唯之 ヘアメイク:菅野史絵 スタイリスト:町野泉美

2020年2月のコロナ第一波で映画を撮ろうと決断

―― まず、世界を見渡して、現在進行形でコロナ禍に生きる人々の姿を、アーティスト自身が描いている映画はなかなかないと思いました。

のん:はい、そうですね。

―― コロナの状況も日々変化しています。今年になってのオミクロン株もありますし、なかなか先が見えない状況です。そんな中、のんさんが今作を「よし、撮ろう!」と踏ん切りがついた具体的な時期と、どういった内的なモチベーションがあったのか、教えて下さい。

のん:本当に、第一波の直後でしたね。

―― 2020年ですか?

のん:はい。2020年2月に、コロナの影響で私が企画していた音楽フェス「NON KAIWA FES」を中止の判断をして、予定していた仕事も全部ストップになったりしたので、お休みができて、その中でおうちの中で過ごしているうちに「こうしちゃいられない…」という気持ちになって脚本を書き始めました。

―― 映画は、個人でできる表現と違って、スタッフを集めたり、スケジュールや予算を組むのがとても大変です。でも、そこからの動き出しはかなり速かったんですね。

のん:緊急事態宣言が出て、その時に企画し始めた感じですね。その年の12月には撮影したので、スケジュールはタイトでしたね。

―― 具体的に脚本は何日ぐらいで書き上げたのですか?

のん:2020年の4月頃から書き始めて、まずは、最初の取っ掛かりを書いて、いろいろ調べながら掘り下げて書き進めたのが、緊急事態宣言の頃でした。期間的にはのべ何カ月かかけて書いていますね。

困難な時代だからこそ浮かび上がるアートの力

「Ribbon」場面写真 ©「Ribbon」フィルムパートナーズ

―― 今作は美大が舞台で主人公は美大生です。芸術はいつの時代も社会の役に立たない、と言われがち。特にコロナ禍のような社会情勢だと、現実的に人を救ったり経済支援を行うことなんてないんじゃないかと。でも、マルチアーティストののんさん自身に、先ほどおっしゃっていただいたようにリアルなライブやフェス、展覧会ができないという実体験があった。そして、同じような主人公「いつか」に心境を重ねた思いがあったんじゃないかなと察しました。

のん:はい。美大の先生や学生の方に取材ができてお話を伺ったんですけど、卒業制作展が中止になった時は「どうにかしてできないのか?」というふうに訴えてくる学生がいたみたいですね。

美大のデザイン科の学生や、車のデザインとか建築のデザインをしている方は模型にして、かなり大きなものを作らなきゃいけない。それを展覧会に出すんですけど、コロナの影響で直前で中止になってしまった。展示が終わったら置き場所がないので、元々壊す予定ではあったらしいんですけど、誰にも見られずに壊さなきゃいけなくて、泣きながら自分たちで作ったものを壊していたというお話を聞きました。

美大生の方と直接お話をしていると、「インプットの期間だ、と思って今まで触れて来なかったものや溜まっていた資料とかを見たり読んだりする期間だった」とも言っていて、何となくやり過ごせた感じに振舞ってくれたんです。でも、ある方は、卒業制作展のパンフレットを自分たちでデザインして印刷工場に持って行ったり、展覧会の場所を決めてしまっていたり、自分たちで作っていくという部分がすごくあるらしくて。それだけ尽くしたものが、直前に奪われてしまったという悲しみはすごく感じました。

―― 取材が今作の制作に影響したんですね。コロナによって作品を発表できない悔しさとか、世の中に対する自分のもがきみたいなものを非常に感じました。同じようにのんさんも、コロナ禍で手探りしながら、この映画を美大生と同じような感覚で作ったんじゃないかな?とも想像しましたが、いかがでしょう?

「Ribbon」場面写真 ©「Ribbon」フィルムパートナーズ

のん:コロナ禍で、モヤモヤしたまま、おうち時間を過ごしていて、みんないまだに我慢しているわけですよね。マスクして暮らさなきゃいけなくて、感染しないように気をつけていて、変わってゆくルールに従って動いていたりとか、それに反発する人がいたりとか制限されながら過ごしている。その我慢が、全然報われていないとすごく感じました。でも、私は『Ribbon』を作れたから、そのモヤモヤみたいなものを作品で吐き出すことができたなと思います。

「Ribbon」場面写真 ©「Ribbon」フィルムパートナーズ

―― 個人的にすごく嬉しかったのは、主人公のいつかが友達を名字で呼び捨てにするところです。ああいう学生の姿は、いつの時代も変わらないなと(笑)。のんさんは美大生に憧れていらっしゃったそうですね。

のん:はい。憧れていました。

―― 取材で彼ら彼女らに触れる中で、今の美大生の雰囲気を直に感じられて、映画に投影された部分は大きかったですか?

のん:美大って特殊だなとすごく思いました。私は普通の大学にも行ったことはないんですが、お庭にアートがいっぱい置かれていて「これは何ですか?」と聞くと、先生が「うーん、卒業生が置いていったんですね」みたいな感じで答えていて。それを咎めない。アートに関することだったら自由にしているところがすごくあるなと思って。

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