CULTURE | 2021/12/28

2021年バズったエンタメから見えたZ世代の本音『イカゲーム』から『チェンソーマン』『Apex Legends』「星野源」まで


Jini
ゲームジャーナリスト
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Jini

ゲームジャーナリスト

はてなブログ「ゲーマー日日新聞」やnote「ゲームゼミ」を中心に、カルチャー視点からビデオゲームを読み解く批評を展開。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」準レギュラー、2020年5月に著書『好きなものを「推す」だけ。』(KADOKAWA)を上梓。

2021年を振り返ると、相変わらず混迷の1年だったと思う。2019年から続く新型コロナウィルスの感染拡大は依然として脅威であり、飲食業界を中心に未だ経済的な打撃は変わらないでいる。その中、半ば強行する形で決行した東京オリンピックでは多くの日本人が金メダルを獲得することで市民が湧いた一方、衆議院選挙を巡って世論が割れるなど政治的混乱も見られた。

この社会的、経済的な混迷にも関わらず、成長を続けたのがエンタメ業界だ。感染防止の観点でステイホームが求められる中、必然的に家庭でエンタメに触れる機会が増えたことや、経済的不安から心理的に疲弊していく中で娯楽を求める市民の心理もあっただろう。さらに、社会的分断や多様性に対する議論が高まる中でマイノリティの代弁手段を求める傾向も、エンタメが注目された理由の一つだと思う。

しかし、「エンタメ」と一言に言っても、その量は膨大で、とても網羅しきれない。気付けば、自分の守備範囲での続編やリメイクで手堅く抑えていた方も多いだろう。

そこで筆者は日本の13歳~25歳のZ世代を中心とした、若者層の視点を借りて、彼らが熱狂するエンタメの魅力を横断的に紹介したい。同時に、大人の勝手な「Z世代」のイメージではなく、作品を通してこそ理解できるZ世代の本音を、筆者の解釈を交えつつ紐解きたいと思う。

とは言え、「エンタメ」「Z世代」と抽象的なテーマをかけ合わせても、具体性は帯びにくい。そこで、Z世代へ意識調査とインタビューを行ったマッキャンエリクソン、上坂あゆ美氏らによるレポート「TRUTH ABOUT GENZ IN JAPAN~日本のZ世代の真実~」を参考にしながら、その中でZ世代を理解する重要なキーワードとして挙げられた、

「急速」「感覚的」「繋がりの矛盾」の3つのキーワードをベースに、『イカゲーム』『Apex Legends』『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』『チェンソーマン』『Arcane』『ノマドランド』『うちで踊ろう(大晦日)』と、いずれも2021年の作品のみを対象に議論することで、よりソリッドなZ世代の心象、エンタメの現在地を総括したい。

「急速」かつ「感覚的」に消費されていく殺し合い

最初の論点として、上坂氏がZ世代の特徴として挙げた「急速」と「感覚的」の2点から鑑み、どちらかといえばマスにヒットした、カジュアル寄りのエンターテインメントの事例を見ていきたい。

現代人はスマートフォン等を介して日々膨大なコンテンツと情報に晒されている生活から、短い時間でコンテンツを楽しめる、いわば「タイパ(タイムパフォーマンス)」に優れた「急速」なコンテンツを好みやすい。一方、コンテンツの供給量が増大するに連れて、物語それ自体への関心が深まっていることから、説得力のある広く豊かな世界観、つまり「感覚的」な魅力を備えている点も注目される。

このような「急速」かつ「感覚的」な感性に訴え、成功した作品と言えば、Simejiによる「Z世代トレンドアワード」の年間トレンド大賞でも2位を獲得した『イカゲーム』を挙げるべきだろう。

Netflixより

ギャンブルに没頭する中年男性のソン・ギフンが、同じように経済的に苦しむさまざまな境遇の人間と共に閉じ込められ、大金と命を賭けたゲームを強要される内容だ。この展開は作者自身が認めるように、日本におけるデスゲーム作品『バトル・ロワイアル』や『賭博黙示録カイジ』からの影響が強く、決して物語が斬新なわけではない。

ただ、Z世代的なトレンドと照らし合わせた時、そのウェルメイドな点が浮かんでくる。例えば、続編を匂わせつつも1シーズン9話で一旦幕を引く「コンパクトさ」、そしてその尺で収まるよう、各登場人物の立ち位置がくっきりと分かれ、ゲーム自体も明瞭なルールを採用した「わかりやすさ」から、「人間の猜疑心、暴力」というデスゲームのコアを「急速」に楽しむコンテンツになっている。

ただその一方、パキスタン人の出稼ぎ労働者や、脱北した女性などをデスゲームに参加させることで、韓国の新自由主義社会への批判的眼差しを向け、2020年代、かつ韓国という局地的な背景を各人物に託すなど、ハイコンテクストな「感覚的」要素を「急速」な勢いを殺さぬ範囲で導入した。

すなわち、「急速」かつ「感覚的」という相互補完的なバランス感覚こそ、本作のヒットの大きな要因だと考えている。

そして奇しくも、今もっとも若者が好むエンタメであるビデオゲームにおいても、流行の真っただ中にあるのは同じ『バトル・ロワイアル』にインスピレーションを受けた『PUBG』に端を発する「バトロワもの」の一つ、『Apex Legends』だ。本作は米Respawn Entertainmentが開発し、2019年からサービスを開始したオンラインゲームで、今日本では最も親しまれるゲームの一つになっている。

Electronic Artsより

こちらも、『イカゲーム』同様に驚くほど斬新なわけではないものの、『PUBG』などの先達の魅力を引き継ぎながらも、スプリント、スライディング、そしてキャラクター(レジェンド)ごとに用意された各スキルによって、従来よりスピーディな戦闘が可能となった。さらにプレイヤーの個人技によるダイナミックな展開など、「急速」なゲームデザインで若者からの支持を一挙に集めた作品だ。

このようにゲームデザインはシューターとしてシンプルでありながら、世界観は同社の前作『TitanFall』からSFサーガが引き継がれ、キャラクターも各個人に細かなバックグラウンドやパーソナリティが設定されている点は興味深い。またキャラクターによってはアジア、南米、オセアニア等の民族にルーツを持ち、セクシャリティも男女に分けられない等、視野が広く、強固な世界観を構成する助けとなっている。その点で、この作品も「急速」ながら「感覚的」な魅力も併せ持っていると言える。

この2021年のトレンドを担った2つの作品には、まさに「急速」かつ「感覚的」という点で大きな共通点がある。

殺し合いという、情緒に直接訴えかける「バトロワ」のモチーフを採用しながら、私たちが、各キャラクターに感情移入したり、あるいは実際に作する。

生活習慣に無理なくフィットする程度に「急速」であるものの、常に一定の興味を引き込む人物や世界観によって「感覚的」に楽しむ余地を残す。

この一見して矛盾する「急速かつ感覚的の塩梅」こそ、今年に限らず2022年以降もヒット作の重要な要件になるのではないかと考える。

はき違えてはいけない点は、「感覚的」、つまり一定共感できるだけの世界観(≒多様性を尊重した世界観)は評価されやすいが、それ単独では成立しない点だ。

今、まさに「ポリコレ」が賛否で語られるように、若者は全員が必ずしも正しさを熱望しているわけでなく、ノンポリ、コンサバな者も当然いる。『イカゲーム』『Apex Legends』は解釈によってリベラル、またエシカルなテーマを孕んでいるが、それは全面に押し出されず、コンパクトに楽しめる「急速な」エンタメの中から自身で読み解く余地として残されているに過ぎない。

大切なのは、「みんな違うことは当たり前」という点なのだ。そしてこのテーマこそ、(リベラルさ、エシカルさよりも)このバトロワに影響を受けた2作にとって、最も正面的に掲げられたテーマなのである。

また付け加えると、両作品ともに「バトロワ」を通じてSNSでの二次創作とマッチした点も併せて考慮したい。『イカゲーム』は個性的なキャラクターのうち誰が死亡するのかSNSで考察が流行したし、『Apex Legends』はYouTube、Twitchにおけるゲーム配信文化と結びつき、同じ配信者同士でチームを組んでバトロワに身を投じる企画が流行した。この「二次創作の余地」も、「急速」かつ「感覚的」なエンタメならではの可能性と言えるだろう。

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