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  • 2021.10.11
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都市インフラ、資源循環、次世代創薬。日本が誇るスーパーコンピュータ「富岳」の現在地は? “「富岳」BEGINS〜活躍の場を無数に広げて” 開催レポート

文:神保勇揮

世界のスーパーコンピュータに関するランキングの「TOP500」、「HPCG」、「HPL-AI」、「Graph500」のすべてにおいて世界第一位に輝くなど、日本が誇るスーパーコンピュータ「富岳」。その共用開始から半年、「富岳」の成果や今後の研究がもたらすこれからの経済、社会のあるべき姿について徹底討論する場として、2021年9月17日、「富岳」BEGINS〜活躍の場を無数に広げてと題したオンラインイベントが開催された。

「富岳」は、前身の「京」の最大100倍のアプリケーション実効性能を持ち、Society5.0の実現、SDGsの目標達成へ向けた研究基盤として、学術分野・産業分野に提供され、利用者・利用分野の拡大とその成果の創出を目指している。

今回開催されたイベントでは、「富岳」による成果が期待されている様々な分野の中から「都市インフラ」、「資源循環」、「次世代創薬」などに焦点を当て、各分野のトップランナーとして活躍するビジネスパーソンや研究者による発表や、今後の展望などについて議論が交わされた。

本稿では、本イベントのプログラムから、主な発表内容や交わされた議論について紹介したい。

次世代のまちづくり “スマートシティ” の実現へ向けた「富岳」の取り組み

本イベントの冒頭では、理化学研究所 計算科学研究センター長 松岡聡氏、文部科学省 大臣官房審議官(研究振興局及び高等教育政策連携担当)坂本修一氏による挨拶に続き、「シミュレーション・ファーストな「まちづくり」~スマートシティとカーボンニュートラル~」 と題したパネルディスカッションが開催された。

写真右より 坪倉誠氏(理化学研究所)、大石哲氏(理化学研究所)、画面内右上 谷川拓司氏(ソフトバンク)、 画面内左上 林直孝氏(パルコ)、画面内中央下 柴崎亮介氏(東京大学)、写真左 クロサカタツヤ氏(企)

本パネルディスカッションでは、次世代のまちづくりに「富岳」がどのように貢献できるのか、その先進事例の紹介やカーボンニュートラルへの可能性について意見が交わされた。

はじめに、坪倉誠氏(理化学研究所)より、これまで多大なコストがかかっていた自動車の衝突性能実験が、「富岳」によるシミュレーションで代替することで、コストを数百分の1に抑えられるという実例が挙げられた。さらに坪倉氏は、今後自動車の走行を「富岳」にて再現、刻々と変化する走行状況からドライバーへの提案を行うフレームワークの開発に意欲を見せた。

人工知能と高精度シミュレーションの融合

続いて、大石哲氏(理化学研究所)は、地震、雨、土石流、河川氾濫、津波などの広域被害を予測するシミュレーションを紹介。シミュレーションでは、災害予測に加え、復興のための最適な予算や人員配置の提案まで含まれ、そのために必要な地図データをはじめとした膨大なデータが「富岳」を活用し集約されていると説明した。

次に、谷川拓司氏(ソフトバンク)は、公共・民間が有する様々なデータや街中のカメラなどのセンサーデータを統合し、公共サービスの維持向上、地場の方々が上手く使ってもらえるようなプラットフォームの構築について紹介。また、竹橋にある本社ビルで行っている様々な実験についても紹介し、こうした施設内で集められたデータを活用することで、店舗の状況に応じたクーポンをスマートフォンに配信するといった生活利便性の向上やビジネス促進も期待できると語った。

ソフトバンク本社ビルで行われている実証実験

また、林氏直孝氏(パルコ)は、渋谷パルコでのVRアート作品の展示を紹介、今後もリアルとバーチャルを融合させた新たなエンターテインメントやパーソナライズされたサービスの提案を進めていきたいという。

渋谷パルコで行われているスマートフォンやAR対応グラスを通してあたかもその場に存在するかのように展示するバーチャルショーケース

続いて、柴崎亮介氏(東京大学)は、渋滞緩和のため設置されているシンガポールのERP(Electronic Road Pricing) を例に挙げ、人の膨大な行動データを習得できるようになった一方、人々にその結果どう便利になるのかを示し、市民と実業家とが対話することが必要であると説いた。

シンガポールのERP(Electronic Road Pricing):市街地にて道路の通行料金を徴収する電子道路課金制度

さらに例を出すと、新型コロナの休業支援金なども店舗の規模によってインパクトが違うはずで、『なぜもっと個別の事情に対応できないのか』といった不満にも「富岳」が貢献できるのではと語った。

また、柴崎氏によると、ディスカッション中に浮上した「街の最適化」というワードについて、「かつてまちづくりの世界で『最適化』というワードを使う人は素人扱いされた」という。これは、人々の千差万別な趣味嗜好や個別事情を「最適に」チューニングした政策やサービスを立案・実施することは不可能とされてきたためだが、「富岳」を活用することで、膨大なデータを収集・分析・シミュレーションし、完全なオーダーメイドとまではいかないまでも、「あなたにはこれが合っているのではないでしょうか?」というレコメンドができるほど技術が発展してきている。こうした未来を実現するため、「富岳」をどう活かしていくかを考える必要があると述べた。

「Society 5.0」で広がる世界の可能性

続いて、情報通信研究機構(NICT)理事長 慶應義塾大学 誉教授の徳田英幸氏による基調講演「Beyond 5Gとサイバーフィジカルシステムが切り拓く未来の社会〜安全安心なSociety 5.0の実現をめざして〜」が行われ、経済的発展と社会的課題の解決を両立させる超スマート社会の実現へ向けたNICTと「富岳」との連携による取り組みの紹介や、2030年頃の実現を目指す「Society 5.0」の未来社会イメージについて紹介した。

NICTと富岳の連携については、民間企業とも協働し、今年7月〜8月の東京オリンピック・パラリンピック時に実証実験を行った「30秒ごとに更新する、30分先までのゲリラ豪雨予報システム」の開発を紹介した。(これまでは5分間隔でしか更新できなかったという)

また徳田氏は、「Society 5.0」が実現した際の未来社会イメージについて、次の3つについて紹介した。

1つ目はサイバネティック・アバタソサエティ。「サイバネティック・アバタ」とは、サイバー世界上の2D・3Dアバター(分身)ではなく、現実空間における人間の身体能力、認知能力、知覚能力の底上げを図るための技術だ。事例としては外出困難な重度の病気や障害を抱える人が「遠隔ロボットのパイロット」となり、カフェで接客を行う「分身ロボットカフェ」や、遠隔操作ロボットがコンビニの商品陳列を行う「ローソン竹芝店」の取り組みが紹介された。

2つ目は宇宙(月面都市)での利用ケース。「Beyond5G」と呼ばれる将来的な通信技術の発達によって、海上海中・空中・宇宙などこれまでネット通信が容易でなかった場所での高速・大容量通信が可能となる。創薬実験や無重力環境下での新素材開発、月面ストリートビューなど、さまざまな可能性が広がっているという。

3つ目はバーティカルなヒト・モノ・コト流。バーティカルとは「垂直」の意味で、未だ活用の進んでいない空中〜成層圏のビジネス活用アイデアが示された。具体的には成層圏に倉庫を置き、災害時に瞬時に状況を把握し、ドローンを使って物資輸送を行うといった空中タクシーの実用化などが挙げられた。

深刻化する「食の問題」への貢献

次に行われたパネルディスカッション「HPCが起こす「食の革命」の可能性~バイオ・農業・資源循環~」では、世界人口の爆発的増加に起因する食糧不足、温暖化・異常気象による災害多発化など、深刻化しつつある食と農林水産をめぐる社会課題に対し、「富岳」がどう向き合っていくべきか、議論が交わされた。

写真右より三好建正氏(理化学研究所)、画面内右上 水無渉氏(新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO))、 画面内左上 小林憲明氏(キリンホールディングス)、画面内中央下 市橋泰範氏(理化学研究所)、写真左 クロサカタツヤ氏(企)

まず、自身も有識者の一人として参画している、「バイオ戦略」の概要について、小林憲明氏(キリンホールディングス)が紹介し、気候変動、就業者の高齢化、作業自動化の遅れなど多くの課題が積み重なる中、農業のデジタル化による効率化、そして「捨てる」から「再利用」を進めるサーキュラーエコノミー化の推進にあたっては「富岳」の活用が不可欠であると説いた。

ミクロな視点では遺伝子、分子、細菌、ウイルスなど、バイオ領域はすでにITなくして成り立たない領域であり、各種データのアーカイブ化、共同利用の取り組みを進める必要がある。一方、マクロな視点では生産のデジタル化が進めば生産〜流通〜小売の工程において、シミュレーションによる革命が起きる可能性があるという。

続いて、「農業のデジタル化」について、市橋泰範氏(理化学研究所)より、「農業環境エンジニアリングシステム」の開発について紹介された。

このシステムは、気象、作物、土壌のモニタリングだけでなく、追肥、防除の実行もできるシステムを目指しているという。農業では1つの作物ができるまでの時間が長く、ベテランでも大量の試行錯誤経験を積むことは難しい。そこでデジタルツインを用いたシミュレーションを行い、支出・収入、収穫量といったデータを表示するといったゲーム感覚のような実験を行うことができるシステムを開発し、2025年からの実証実験開始を目指している。開発を進める市橋氏は、こうした実験を通じて生まれる新しいノウハウにも期待していると語る。

このほか、主に気象予測を対象としたデータ同化を研究する三好建正氏(理化学研究所)や、微生物合成・酵素工学を専門とする水無渉氏(新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO))らも、気候変動や環境問題、持続可能エネルギー技術や食品生産技術の開発、フードロスといった課題を解決しイノベーションを起こすためには、「富岳」の活用が不可欠であると意見を述べた。

創薬におけるシミュレーション技術の進展と「富岳」への期待

続いて、3つ目のパネルディスカッション「「富岳」によって加速する次世代創薬」では、近年大きく進展している創薬のデジタル活用について、AIの応用やシミュレーションへの期待も高まる中、「富岳」の活用や期待について議論が交わされた。

画面内左上 寺坂忠嗣氏(日本医療研究開発機構(AMED))、画面内右上 白井宏樹氏(アステラス製薬)、
画面内左下 榑林陽一氏(神戸大学)、画面内右下 奥野恭史氏(理化学研究所)、写真左 クロサカタツヤ氏(企)

最初に、白井宏樹氏(アステラス製薬)が、新薬が開発されるまでのプロセスと困難さを紹介し、「スパコンの性能上昇は、『薬をどう作るのか?』を検証するだけでなく、『そもそもこの薬が開発可能なのか?』をシミュレーションし、マネジメントができるようになる」という抜本的なゲームチェンジが起こると予測、開発スピードや精度の上昇、コスト削減などへ期待を寄せた。

続いて、寺坂忠嗣氏(日本医療研究開発機構(AMED))が、同機構が実施する産学連携の「創薬総合支援事業(創薬ブースター)」「産学連携による次世代創薬AI開発(DAIIA)」の取り組みを紹介した。

特に、「産学連携による次世代創薬AI開発(DAIIA)」のプロジェクトは、統合創薬AIプラットフォームの構築を目指しているという。これは大学などで研究・開発が進められている「創薬に必要な項目・化合物などを提案する各種AIシステム」を集約し、さらに製薬企業が保有するデータの提供を受けるなど、「研究者が欲しいシステムやデータ」を可能な限りワンストップで揃えようという試みだ。

また、榑林陽一氏(神戸大学)は、内閣府が実施する「官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)」のAI領域で採択されている、「創薬ターゲット探索プラットフォームの構築」について説明。これは「製薬産業永遠の課題」と同氏が語る「あまりに膨大な期間とコストがかかってしまう」問題の改善を図るプロジェクトだ。

同氏によると、創薬プロセスにおいては標的(疾患の発症に関連するタンパク質など)の特定から第2相臨床試験(フェイズ2、標的選択の正しさを初めて動物ではなく人体で検証できるステージ)に至るまで平均で9年の歳月・100億円以上のコストがかかっており、しかも同ステージでの失敗率が70%を超えている。失敗原因の大半は「標的の選定ミス」が関連しているという。同プロジェクトで構築するプラットフォームは標的選定やデータ解析においてAI技術を採用し、成功率上昇・開発期間短縮・コスト削減を達成していきたいとしている。

奥野恭史氏(理化学研究所)も、創薬のためのAI技術やデータベース、医薬品開発プロセスから臨床試験までの各フェイズにおいて、「富岳」やAIを用いて開発を行う「HPC/AI駆動型医薬プラットフォーム」プロジェクトについて解説した。

「富岳でこれができる」の周知、「富岳の使いこなし方」の集積が急務

最後のまとめとなる振り返りセッション「「富岳」と「Society 5.0」~サステイナブルな社会の実現に向けて~」では、計算科学技術に関わるコミュニティの幅広い意見集約の場として設立された一般社団法人HPCIコンソーシアムの朴泰祐氏、理化学研究所 計算科学研究センター センター長の松岡聡氏、各パネルディスカッションのモデレーターを務めた企のクロサカテツヤ氏が登壇し、3つのパネルディスカッションでの議論を受け、「富岳」を背景に議論が交わされた。

朴氏は、セッションを振り返り、これまで一部の領域、研究者しか扱えなかったバックエンドの役割から、国民生活に身近なフロントエンドの位置づけのものへと進化したことが、「富岳」がいままでのスーパーコンピュータとの一番の違いと感じたと述べた。

また、松岡聡氏は、「富岳」は日本でのスマホの年間出荷台数に匹敵する圧倒的な計算パワーを持ちつつ、AIやデータ同化など新たな手法への対応と汎用性を併せ持ったことで、ニーズ側からみたend-to-endのモデルでそれを可能とすることができる、いままの常識を覆す大きな道具であると言えると語った。

最後に、「富岳」への今後の期待、展望について朴氏と松岡氏は、「富岳」だけですべての答えが出るわけではないが、各学問分野だけでは扱えなくなった世の中の複雑事象を、「富岳」を通じて分野を超えて皆で考えることが大事であると述べた。そしてこの「つながり」こそがプラットフォームとしての「富岳」の価値であり、従来の常識を破る研究DXとなるとまとめた。

「富岳」の登場により、デジタルツインの構築や高度なシミュレーションなど、これまでは夢かSFの世界と思われていたような取り組みがいよいよ現実性を帯びてきた。こうした中、ますます重要となってくるのが、「富岳」を使いこなす人間の知恵・想像力であると言えよう。

今後も、本日のパネルでも事例が紹介されたこれまでの研究で獲得してきたことを土台に、本イベントのように最前線で活躍する研究者やビジネスパーソンが集い、議論を交わし、さまざまな「つながり」を生み出していくことで、「富岳」を活用した「Society 5.0」の実現、SDGsの目標達成に期待したい。


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