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「トランプの陰謀論」が今なお5000万人を魅了するワケ。『白人ナショナリズム』著者、渡辺靖に訊く
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  • 2021.01.08
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「トランプの陰謀論」が今なお5000万人を魅了するワケ。『白人ナショナリズム』著者、渡辺靖に訊く

セグメント化する社会を融和させるには

ーー 明確な物証もなく不正選挙を訴えているトランプ氏のやり方は「陰謀論的である」と批判を集めてもいます。しかし、選挙には負けましたが5000万人の信者を獲得したわけで、陰謀論で囲い込む方法はある意味成功していると思います。これをきっかけに政治以外の分野でも、エビデンスを無視してでも信者に向けて発信することでコミュニティを強化していくビジネス手法が増えるのでは、と思うのですが、陰謀論的な情報に踊らせらないようにするにはどうしたらいいでしょうか?

渡辺:『白人ナショナリズム』の最後の方でも陰謀論について少し触れましたが、陰謀論には明確に定義しづらい面があります。

例えばこの『FINDERS』がどういうメディアなのか、運営会社に政治的な色があるのかないのか、そういったことを知らない人は読む前、あるいは取材を受ける前にあれこれ意識すると思います。でも、そうした感覚そのものは他者と接するうえで不可欠でしょう。「肩肘張って偏見を持っていたな」と気付くのは、いつも相互理解が深まってからです。

人間や社会を理解する、あるいは意味づけるのという作業は、常に頭で因果関係を作っては修正しての繰り返しです。そうした仮説作りという意味で陰謀論はなくならないと思います。極端な話をすると、「神様がいるかどうか」は現時点では科学的に証明できないですが、だからと言って宗教も陰謀論なのか。

何が陰謀論なのかについては、絶えず向き合っていかなければなりません。そして「自分の考えだけでなく、他の見方もある」と自覚できる環境をどうやって作っていくか。さまざまな情報に触れることができるプラットフォーム、あるいはそこに誘うアーキテクチャーをどうデザインするかが当面の対策だと思います。

自分の思考の内側に閉じこもってしまうと自己循環するだけです。さまざまな考えに触れられるようなプラットフォーム上の改善が必要です。YouTubeやTwitterでも最近は政治・医療といったセンシティブな話題については公的機関の情報へのアクセスを促すような工夫の試みがあるようです。

ーー SNSでは自分に都合の良い情報を摂取してしまいがちなので、そういった改善は確かに効果がありそうです。

渡辺:とはいえ、それはある意味、小手先の対応であって、より真摯に考えていかなくてはいけないのは、「陰謀論を本気で信じている人たちがなぜそうなってしまったのかを理解すること」です。そういった人たちを「愚かな人たち」「哀れな人たち」だと断定してしまうことそのものが問題で、陰謀論の世界にいる人たちにとっては、そうした決めつけそのものが「我々は不当に抑圧されている」と信じる根拠になってしまう。

彼・彼女らからすればまずもって「なぜそこまで自分たちの価値観に介入してくるのか」が不思議だと思うでしょう。「自分たちを排斥しようとしているのではないか」と警戒されてもおかしくありません。

「相互理解」という言葉を使うと陳腐になりますが、まずは「他者」の価値観に耳を傾けることが大前提です。私が教壇に立っている慶應大学でも、基本的には優等生が入学してきて、彼らにとってロールモデルなるような成功した人々をゲスト講師に招いたりします。そのこと自体は学生のモチベーションを上げるという意味で有意義です。ただ、今の社会において、色々な理由で大学に進めなかった人の話や、そういった人々から今の社会がどう見えているのか。そうした認識を深め、社会の現実について考える機会が高等教育全般に不足していると感じます。『白熱教室』で日本でも人気を博した政治哲学者マイケル・サンデル(ハーバード大学教授)も、アメリカで4年制大学を卒業しているか否かが社会的・経済的な溝を生んでいることを強調しています。

教育制度だけではなく、メディアもこういった人々を取り上げることで、セグメント化されている社会を融和する必要があります。もちろん、学歴だけではなく、ジェンダーや人種などさまざまな分断線があります。コロナ禍においてそうした現実に目を向ける報道なども増えていると思います。普段の生活でなかなか想像が及ばない「他者」のリアルを伝える。そういった意味で教育やメディアの役割は更に重要になっていると考えます。

『白人ナショナリズム』で取材したティム・ザールという人は、ネオナチ系グループに所属し同性愛者に暴行を加えたこともある白人ナショナリストでした。しかし、彼の息子が人種差別的な態度を取るようになってしまったことをきっかけに転向し、現在では過激主義からの更生を促すNPO「ライフ・アフター・ヘイト」(LAH)にも協力しています。彼のように、自分が偏狭な考え方から脱却できたストーリーを伝えることは極めて有効です。

しかし、こうやって陰謀論や人種差別に陥っている人と対話する時に気をつけなくてはいけないのは、こちら側の根底に「あの人たちは病気のようなものだから“治療”しなくてはならない」という意識があるのではないか、という点です。自分は正常で、いわゆる陰謀論者たちが異常である、という凝り固まった正義感に侵されていないか。社会や他人に対する身勝手な優越感はないか。陰謀論者に働きかけるのと同じように、自分たちに対しても自問自答をし続けるべきです。

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