CULTURE | 2021/01/08

「トランプの陰謀論」が今なお5000万人を魅了するワケ。『白人ナショナリズム』著者、渡辺靖に訊く

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実直で礼儀正しく「白人の権利向上」を訴えるナショナリストたち

アメリカで最も有名な白人至上主義団体、クー・クラックス・クラン(KKK)の元最高幹部であるデビッド・デュークの公式サイト。「マッチョなネオナチ」の旧来的イメージとはかけ離れたスマートな白人ナショナリストたちの主張は、渡辺氏の『白人ナショナリズム』に詳しく描かれている

ーー トランプ支持者は、トランプ自身が「忘れられた人々」と呼んだような白人ブルーカラー層が中心とよく言われますが、本当にそれだけなのでしょうか?

渡辺:今までの共和党候補と比べると、白人ブルーカラーの支持は突出して多いと言えます。しかし、その層だけかというとそんなことは決してありません。

まずは従来の共和党支持基盤。小さな政府を望み、減税や規制緩和を期待する人々ですね。アメリカではミドルクラス以上になると資産運用するのが当たり前なので、トランプが大統領だった4年間で株価が高騰し、経済的に得をしたという人もたくさんいます。人種問題にスポットを当てるより、ビジネスで成功したいからトランプを支持する。あとはキリスト教保守派の支持も厚いです。今回、トランプを支持するマイノリティの割合は2016年の大統領選のときより上昇しました。

「トランプ時代にはひとつも大きな戦争がなかった」という話はよく言われます。民主党の左派には反戦平和を重視する人も少なくない。その意味においてトランプを評価する左派がいないわけではない。支持層にもこういったグラデーションがあります。

ーー 日本にもトランプの勝利を信じている支持者たちがおり、昨年11月25日にはデモも行われました。ただ、自国の選挙でもないのに何が彼らをそこまで突き動かすのかが不思議です。

渡辺:ピューリサーチセンター(ワシントンD.C.を拠点とするシンクタンク)の昨年9月の調査によると、25%の日本人がトランプ氏を支持していて、これはヨーロッパの平均より高い割合です(ドイツは10%、フランス11%、イギリス19%など)。

民主党より共和党を好む層に加えて、より熱心な支持層は、アメリカ同様、「既得権益層やエリートが甘い汁を吸う一方で自分たちは報われない」という、反エスタブリッシュメントの感情を共有している人たちだと察します。トランプの闘う姿勢に共感する層です。

私は先日のデモには行っていませんが、新聞などのレポートを読むと、参加者はトランプが中国に対して厳しい姿勢を取っている点を評価しているようです。香港やウイグルの情勢、領土問題などで中国の現政権に強い憤りを持っている人々にとっては、強硬に対峙してくれるのはトランプしかいない。実際はどうであれ、そう信じている人は少なくない印象を受けます。

ーー 渡辺さんの著書『白人ナショナリズム』では「実直で、礼儀正しく、友好的で、親切で、ユーモアある人」であるにも関わらず、「白人の国であるアメリカを取り戻したい」と主張し人種マイノリティの権利拡大に反対する白人ナショナリストたちが描かれており、非常に印象的でした。

渡辺:私が取材したデビッド・デュークがその典型ですね。彼はKKKの元最高幹部ですが、「自分はレイシストではなく人権活動家だ」と主張しています。「どの人種・民族も平等に扱われるべきで、それはまったく否定しない。ただ、白人にはその権利が与えられていないから抗議する」という考えです。根底には強烈な被害者意識があります。

ーー 『白人ナショナリズム』を読んでいて、「日本(人)へのヘイトだ!」というロジックを頻繁に見かける昨今では、こうした動きが日本にも広がる可能性が十分にあると強く感じました。在特会のような「外国人は自国へ帰れ!」という言い方は粗暴なイメージもつきまとい保守層の間でも否定的な人が多いですが、「マイノリティばかり持て囃しているけれど、俺たちは苦境に陥っても無視するのか?」という言い方は少なからず共感を集めそうです。

渡辺:日本もそういった被害者意識が共鳴しやすい環境にあるかもしれません。いわゆる在特会的な考えも、「在日韓国人には日本人にはない特権があるのでは」という疑念が根底にあるのかもしれません。

この数年「上級国民」という言葉が出現して、インターネット上で頻繁に目にするようになりました。日本学術会議の任命問題でも、アカデミズムに馴染みのない人々からしてみれば、「大した数の提言もしていないのに、年間10億円も予算がついていて、専従職員が50人もいる。どうしてコロナ禍で自分たちの生活が苦しい時に、こんな優遇されている人たちがいるのだ」という憤りにつながる。こうした視点で世の中を見て、不条理な現実や不都合な真実を告発するというムードが日本でも広がっている気がします。

ただ、そうした声がそれほど先鋭化せず、トランプ旋風やイギリスでのブレグジットのようなポピュリズムの台頭に直結していない。理由としては、まず失業率が欧米ほど高くなく、社会保障が何とか持ち堪えている点、そして移民・難民の受け入れ数が欧米の比較にならないほど少ない点が挙げられるでしょう。

また、大手メディアの党派性・イデオロギー性が欧米に比べると弱いという点もあるかと思います。もちろん朝日新聞と産経新聞では論調が大きく異なりますが、アメリカのCNNとFOXでは基本的な事実認識そのものが違い、ほとんどパラレルワールドのようになってしまっています。日本は災害が起こればそれを助ける機運を高めるし、コロナ禍においてはマスク着用や外出自粛を左右関係なく呼びかけます。その点では極論を抑えるようにメディアが機能しているとも言える。あくまでアメリカとの比較ですが。

日本でも大阪や名古屋などの都市でポピュリスト傾向のある政治家や政党が支持を得ているので、その素地がないわけではありませんが、国政進出という点では自民党など大きな政党が防波堤になっている側面があります。

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