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創業から20年。「スマイルズのアーティスティックな事業」はなぜ生き残ってこれたのか。遠山正道インタビュー【ビジネスとアート、アートのビジネス(1)】
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  • 2020.12.14
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創業から20年。「スマイルズのアーティスティックな事業」はなぜ生き残ってこれたのか。遠山正道インタビュー【ビジネスとアート、アートのビジネス(1)】

スマイルズが新規事業に出資する条件

ーー 前例がない中で、新しい事業や制度を立ち上げるのは大変だと思います。おそらく、そういう時にこそアートの素養が役立ってくるのではないでしょうか。

遠山:そうですね。私は去年4月に、キギ、TO NINE、ディアマン、スマイルズの4社で「二重」という合弁会社を作り「iwaigami(イワイガミ)」というブランドを始めました。新しい結婚のあり方を提供するサービスです。指輪とか結婚って、すごくラグジュアリーでグラマラスな世界観のものが多いですよね。一方で、私の周りにいるアート好きやカルチャー系の人間は、それにノレない人がたくさんいます。そこでデザイン的な解決を通して、結婚指輪の別の分野を作れるんじゃないか、と。

調べてみると、今は結婚しても6割の人が式や披露宴を挙げないそうです。なぜなら同棲から結婚して、調印して指輪を持っても、披露宴は手間もお金もかかるということで、そのままなし崩し的に2、3年経つから。それでもいいけど、「せっかくだからちょっとした折り目をつけない?」という提案ですね。具体的には、桐の箱に白い冊子が入っていて、当人2人でそれを読み上げ、指輪を交換する。最低限、当人2人でできてしまいます。新婚でもいいし、何らかの節目でもいい。最もシンプルな結婚のあり方を示すような「コト」を作ったんです。

コツの一つは、小さくスタートしたこと。スマイルズとデザイン事務所、指輪の製造会社、そして通販会社という4社だけで、特別オフィスも持たずに、それぞれの技を手弁当で持ち寄ってやっています。「森岡書店」や「檸檬ホテル」もそうですが、小さければ小さいほどリスクが少なく、それゆえに遠くまで届くようなユニークなことができる。気の合う仲間とお互いにリスペクトを持って、なるべくコストをかけずにやることが重要です。

ーー スマイルズが大切にしている行動指針の1つとして常々おっしゃられている「低投資・高感度」でスタートさせることが重要、というお話ですね。

遠山:そうですね。iwaigamiもすごくいいサービスができたという自信はあります。だけど、売り方がよくわからない(笑)。「コト」だから指輪屋さんに置くのも違うし、ウエディングプランナーに聞いてみても、プランナーのところに来る時はすでに指輪を持っている場合が多い。でも、浅く長い息でやっていけば、そのうちきっと口コミで広がっていって、ビジネスになるに違いないと思ってやっています。

何が言いたいかというと、これも「最初からコンセプトが根っこにある」ということです。あえて言えば、アート的な在り様と似ていると思うんですね。

遠山氏自身もiwaigamiで制作した指輪を常にはめている

ーー たしかにこれが現代アーティストのパフォーミング系のプロジェクトだと言われれば、そう受け取ることができますよね。

遠山:もともと、私の今の歩みは三菱商事での勤務時代に開催した絵の個展から始まっています。絵画であれば「こんな作品を作りたい」と思った時に、キャンバスや絵の具など必要なものを揃え、制作し、出来上がったものを世の中に提示する。スマイルズのビジネスも同じだと考えています。もちろんそれが良いのか悪いのか分からないけど、世の中のビジネスは「大人の都合」だらけ。マーケティングだとかコンサルだとか、いろんなビジネス本だとかがある。でも、スタート地点に「子どもの眼差し」がなければ、何も始まらないはずです。

ーー iwaigamiも、いわゆる「社長案件」だから実現できたということではなく、他の社員が提案したとしても通っていた可能性が高いのでしょうか?

遠山:当然あり得ると思いますよ。ゴーサインの基準は当人の魅力とやる気です。スマイルズ社員の前例で言えば、「Soup Stock Tokyo」の店長だった社員が独立して、今「羊のロッヂ」というジンギスカン屋をやっています。誠実なキャラクターの彼が必死になっていたからこそ、スマイルズも出資しました。彼の人柄が一番の価値なので、そこに仕組みだとかデザインだとか、あまり余計なものを足さない方がいい。

私が古巣の三菱商事で開催された講演会に呼ばれた時、「三菱商事とスマイルズでは何が違いますか?」と聞かれました。違うことだらけだけど、一つ挙げると、スマイルズになってから「人生」という言葉をよく使うようになったんです。それまでのサラリーマン時代は、個人の人生を持ち出す場面なんてありませんでした。でも、いまはそれこそが仕事のエネルギーです。だから、別に「iwaigami」だって私の発案じゃなくてもいい。もしこれがビジネスとして成長して、いいサービスだと認められるようになったら、うちの社員に「何でやらなかったの?」と言いたいですね(笑)。

改めて問う、なぜビジネスパーソンにアートの素養が求められるのか

ーー 「自分ごと」や「根っこのコンセプト」も含め、遠山社長にとってアートの知見は実際のビジネスにどのように活かされていると感じますか?

遠山:そもそもアートって、答えがないですよね。作品自体も答えではありません。鑑賞者がいて初めてアートは成立するからです。作品とそれを見た私、その関係の中に作品の価値が生まれてくる。恋だって、相手が1人だけいても成立しなくて、相手と自分がいるから生まれるものじゃないですか。アートもそれと一緒だと思うんです。だから、作品に対する自分の思いが大事なんです。5人いたら5人とも見方が違っていいし、自分の体験を照らし合わせてもいい。私は「見えないトリガー」と言ってますが、アートは何かの引き金で自分を触発させる一つのきっかけなんです。

どうしても昭和の時代はマーケット優勢でした。国内での市場が拡大していたから、市場を観察すればそこにマーケットがあるという考え方だったんです。でも、今はもう小さくなってしまった市場をにらんでいても、席なんか空いてません。だから、今の時代は自分たちでより良いものを想像し、形にして、市場に投入していくことが大事なんです。そういう時、「自分だったらこう解釈するな」とか「もっとこうだったらいいのに」といったことを日頃考えるのがアートの楽しみなので、「ビジネスの種」とすごく似ているんですね。

今見えているものとか使われる言葉、触れるものって、顕在化してるのは世の中の10パーセントくらいで、残りの90パーセントはまだほとんど闇の中にあると思うんですね。その90パーセントに無限の可能性が宿っている。アーティストというのは、その闇から自分だけが見えている像を作り出す存在です。例えば彫刻家が大きな石の塊から像を掘り出していくように、ビジネスでもまだ見えない真っ暗な90パーセントの中から、「こんなものあったらいいな」を掘り出していくんです。

まだ何もないところから物事を現実化していくことに、多くのサラリーマンは慣れていません。「会社は何もしてくれない」だとか「商品がよくないから売れない」だとか、そんな10パーセントの、しかもより極小の世界の話だけしていてもしょうがない。そうじゃなくて、たまたま今目の前にある職場や商品はツールに過ぎないんだから、もっとやりたいようにやればいいんです。スマイルズだって、スープやってネクタイやってリサイクルやって……次に何が来たってそうそう驚かないですよね。むしろ、あまりにありきたりだと「大丈夫? 本当にやりたいの? どこにモチベーションがあるの?」と聞きたくなる(笑)。

ーー たとえリスクがあったとしても、「今までになかったものを発明してこそスマイルズ」というブランディングができている、ということでもありますよね。

遠山:必ずしもまったく新しいものを発明する必要はないと思っています。今まであったものでも、そこにスマイルズらしい、その人らしい視点や見立てがあることが大事。ファストフードもネクタイもリサイクルももともとありましたらから。掲げているビジョン「世の中の体温を上げる」は抽象度の高い言葉ですが、その分なんでもありではありますね。

次ページ:多種多様なビジネスを展開するスマイルズが、既存事業を「止めない」理由

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