LIFE STYLE | 2020/06/24

AIを使って「子どもの才能」を可視化!広告会社勤務のままマレーシアで起業する【連載】マッキャンミレニアルズ松坂俊のヘンなアジア図鑑(3)


松坂俊
トイエイト 創業者/CCOマッキャンマレーシア デジタル クリエイティブ ディレクター
1984年、東京...

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松坂俊

トイエイト 創業者/CCOマッキャンマレーシア デジタル クリエイティブ ディレクター

1984年、東京都生まれ。イギリスで美術大学を卒業後、外資系広告会社マッキャンエリクソンに入社。2015年、マッキャン・ワールドグループ国内外の1980年~2000年代前半生まれのメンバーで構成されるユニット「マッキャン・ミレニアルズ」を立ち上げる。2017年よりマレーシアと日本の2拠点生活を開始。2018年より「すべての子どもが才能を発揮できる世界をつくる」をミッションに掲げるエドテックベンチャー、トイエイトを創業。

「その後の人生が変わる体験」にすらなり得る

「自分の子どもにどんな才能があるか」を知りたいと思ったことはありませんか?

前回の記事から半年ほど経ってしまいましたが、この間何をしていたかというと、マレーシアで起業を行い(厳密に言えば会社を設立したのは2018年ですが)、その準備をずっと進めていました。

設立した会社の名前は「TOY EIGHT(トイエイト)」。事業の内容は大きく分けて以下の2つを行います。

TOY8(トイエイト):ショッピングモール内にプレイグラウンド(遊び場)を作り、遊んでいる子どもをセンシングして「多重知能理論(The theory of multiple intelligences)」に基づき才能の傾向を分析。分析結果に応じて最適な遊びを提案する

TOY8 BOX(トイエイトボックス):工作キットやアプリ連動型の知育ゲームなど、上述の分析に基づき個々人の才能に最適化された教材や知育キットなどが毎月届く

両方のサービスがセットになったサブスクリプション型のサービスを予定しています。

2つのサービスの根幹をなすのが、僕たちが開発している「GIFT(Gifted Intelligence Finding Technology)」という知能を可視化する技術です。すべての子どもが生まれながらに天から授かったGIFT(才能)を持っているという前提に立って、その才能をテクノロジーで可視化することに挑戦しています。

先述の多重知能理論は、ハーバード大教授のハワード・ガードナー氏が1983年に提唱したもので、「人間の知能を単一の尺度(IQなど)で測っていいのか」という疑問から生まれました。

この理論では、人間の知能を8つに分類しています。一人ひとりが8つの知能のいずれかが優れていたり、平均的だったり苦手だったりするので、より多面的に知能を評価できます。IQや多くの学校でのペーパーテストなどの評価システムでは言語的知能と数学的・論理的知能が高いとスコアが高くなるので、他の知能が高い子どもたちには不利なシステムです。

では、どのように子どもの多様な知性を見つけるかですが、前述のガードナー教授が子どもの知能を分析する際に推奨しているのは自然な環境、つまり子どもにとっての遊び場です。同理論の初期の研究の際から様々な遊びを用意した環境で子どもを観察して分析が重ねられてきました。

僕たちはこの研究をベースに、多重知能理論の専門家に監修いただきながら、プレイグラウンドで遊んでいる子どもをAIカメラやセンサーなどで多面的に捉えて分析し、「この遊びで集中していたのは何分何秒か」「説明書を読んだか」「作品に使用したパーツは何個か」などのデータに基づいて、上記の8領域ではどれが得意かということを自動で分析できるシステムを開発しています。

例えば「対人的知能が高いレイくんは1人で宿題をやるよりリビングで親御さんと会話しながら学ぶ事が合っている。あとはグループ・チーム単位での学べる習い事がオススメ」といったかたちで、得意なことや思考のクセを起点にどうすれば楽しんで学びを広げたり探求したり出来るかを提案します。とにかく「誰もが生まれながらに持ち合わせている才能に応じて楽しみながら学べる、成功体験が得られるようにする」ということを重視しているサービスです。

僕自身、幼少期から学習意欲・知的探究心はあるという自覚はあった一方で、「教科書を読む」という行為がどうしても合わなかったんです。じっと座っているとウズウズして叫びたくなっちゃうし思春期には実際に叫んでいたしで、文字を読むと脳が異常に疲れていたりしました。

そんな自分も実際に分析してみると、やっぱり「文字を通じて情報をインプットするのが苦手なので、オーディオブックや会話、また実際に手を動かすなど実体験から学ぶのが良い」という結果が出て、ほかにも「それ、5歳位までに教えてくれれば人生変わってたのに……」という情報がたくさんありました。その後、紙の本ではなくオーディオブックや電子書籍の読み上げで本に接する機会を増やしてみましたが、摂取量も増え内容も以前よりよく記憶しています。

プログラミングやSTEAMといった、新しい時代で活躍するための学習に注目が集まりますが、これは時代とともに移り変わります。一方で能力開発はどんな時代でも「才能×教育×訓練(努力)」のかけ合わせだと言われます。教育や訓練のメソッドは溢れているのに、個々人に才能があることを信じて理解する方法があまりに少ないと感じています。よりよい子どもの未来のために少しでも質の高い教育を与えたいと思うのが親心だと思いますが、個性を理解しないまま盲目的に教育を施して子どもに合わない学習を強いると、本来最も大切な「学ぶこと自体」が嫌いになってしまう可能性もあると言われています。

前述の多重知能理論の8つの知能の組み合わせに無限の個性が出るということは、例えばプログラミングを学ぶにしても、「どんな情報処理の仕方が得意か?」「心が動くポイントはどこか?」などに合わせて学びを最適化していくべきだと私達は考えています。そして親御さんや先生が子どもの才能を信じて、できれば寄り添って声をかけながら才能を引き出すことで、今も世界中にいるであろう未来のエジソンやレディ・ガガといった才能の原石が埋もれずに輝ける世界がつくれると思っています。

僕は、小中高とずっとサッカーばかりやっていてテストでひどい点数を取リ続けていましたが、親からは「俊は大丈夫。サッカーを頑張っているから大丈夫」と好きで熱中していることを肯定してもらいながら育ちました。また、人と話すことや笑わせたりすることが好きだったのですが「言い回しがうまい」「絶妙な間で面白い」などとよく褒めてもらったことを記憶してます。サッカーでもしゃべりでも大成はしませんでしたが、自分で決めたことをやり抜く力や、コミュニケーションを強みに仕事ができているのは、間違いなく親が僕の特性や得意な事をよく観察して、没頭させてくれたり一緒に楽しんでくれたりしてくれていたおかげだなと感謝しています。

また、GIFTはハーバード大で多重知能理論を学んでいた先生にコンテンツの監修をしてもらっているんですが、教え子の学生さんたちもそうした理論を学んでいるだけあって、全員が自己紹介の時に「私の知能はこうした傾向があるので、こんな風に貢献できます」と言うんです。日本の就活でも「自己分析しろ」ってよく言われますけど、自分の強みや能力の多様性を構造的に理解しているので他者への理解度も深いんです。同じタスクをこなすにも自分なりのアプローチを知っているので非常に優秀です。教育者が生徒に人にはそれぞれ違う強みがあることの理解を促して、能力を引き出した素晴らしい例だと思います。

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