EVENT | 2020/01/08

「新しい働き方」以前に、「新しい組織」はどうあるべきか?【Tokyo Work Design Week 2019レポート】

新しい働き方や会社での多様な関わり方から未来を創ることを目指したオープンイベント「Tokyo Work Design W...

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新しい働き方や会社での多様な関わり方から未来を創ることを目指したオープンイベント「Tokyo Work Design Week 2019」が開催された。

さまざまなカンファレンスの中で、新しい組織作りをテーマにしたプログラムに、FINDERS編集長の米田智彦がゲストスピーカーとして参加。

「雑相(雑談+相談)」や「セルフマネージメント」などのキーワードをもとに、参加者とともにざっくばらんに話し合われた、当日のイベントの模様を抜粋の上、紹介したい。

取材・文・構成:庄司真美 写真:織田桂子

倉貫義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役

大手SIerにてプログラマやマネージャーとして経験を積んだ後、2011年に株式会社ソニックガーデンを設立。ソフトウェア受託開発で、月額定額&成果契約の顧問サービスを提供する新しいビジネスモデル「納品のない受託開発」を展開。全社員リモートワーク、本社オフィスの撤廃、管理のない会社経営などさまざまな先進的な取り組みを実践。著書に『「納品」をなくせばうまくいく』『リモートチームでうまくいく』『管理ゼロで成果はあがる ~「見直す・なくす・やめる」で組織を変えよう』がある。

藤村能光

サイボウズ式編集長

1982年大阪府生まれ。神戸大学を卒業後、ウェブメディアの編集記者などを務め、サイボウズ株式会社に入社。製品マーケティング担当とともにオウンドメディア「サイボウズ式」の立ち上げにかかわり、2015年から編集長を務める。メディア運営や編集部のチームビルディングに関する講演や勉強会への登壇も多数。複業としてタオルブランド「IKEUCHI ORGANIC」のオウンドメディア運営支援にも携わる。趣味はコミュニティ活動とサウナ。著書に『「未来のチーム」の作り方』がある。

米田智彦

FINDERS編集長

1973年福岡市生まれ。出版社、ITベンチャー勤務を経て、文筆家・編集者・ディレクターとして多岐にわたる企画・編集・執筆・プロデュースに携わる。2011年の約1年間、旅するように暮らす生活実験「ノマド・トーキョー」を敢行。約50カ所のシェアハウス、シェアオフィスなどを渡り歩き、ノマド、シェア、コワーキング、デュアルライフといった新しい働き方・暮らし方を実体験。「ライフハッカー[日本版]」の編集長を経て、2018年より株式会社シー・エヌ・エス・メディア代表取締役に就任し、現職。TOKYO MXテレビ「モーニングCROSS」のコメンテーターのほか、京都造形芸術大学で非常勤講師も務める。著作に『僕らの時代のライフデザイン』『いきたい場所で生きる 僕らの時代の移住地図』などがある。

働く人を「孤独」にしないことが離職の歯止めになる?

左から/ソニックガーデン代表取締役の倉貫義人氏、サイボウズ式編集長の藤村能光氏、FINDERS編集長の米田智彦、「Tokyo Work Design Week」のファウンダー、オーガナイザーの横石崇氏。

ファシリテーターを務めるのは、「Tokyo Work Design Week」のファウンダーでオーガナイザーの横石崇氏。まずは横石氏が指名した参加者が選んだキーワード「孤独にしない」をテーマにトークが展開された。

横石:GoogleのLA本社に行った時、同社の人事部による「You are not alone」と書かれたポスターを目にしました。Googleでは世界中にコワーカーがいるため、顧客や同僚と顔を合わせることが少ないのです。それで病んでしまうスタッフも少なくないそうで、会社としても「1人じゃないんだよ」というメッセージを常に発信しているということでした。

倉貫:うちも全社員がリモートワークをしているので、よく外部の人から「孤独になりませんか?」と聞かれます。最初は私1人だけ在宅勤務をしていて、ある時、みんなでにぎやかにテレビ会議を終えた後、スイッチを切ったらものすごくさみしかった覚えがあります(笑)。

今は「仮想オフィス」として、仕事のタスク外のやりとりができる雑談の場を作り、オンラインでそれぞれの顔が見えるようにしたら、さみしくなくなりました。人の存在が感じられるのって、こんなに人間の心理に大きな影響を与えているんだと実感しましたね。

藤村:サイボウズでは、100人100通りの働き方をテーマに、それぞれが働く時間や場所を決めて自立し、多様性を認めながら成果を出していくことを目指しています。

でも、若手のメンバーから、「さみしいです」という声が出ることはありますね。リモートだとどうしても、「あの企画進んでる?」とか、「メシでも行くか」といったカジュアルなやりとりはできないし、やはり物理的な距離は大事だなと思いました。

GoogleやIDEOなどの最強チームの事例を取り上げた『THE CULTURE CODE 最強チームをつくる方法』という本に書かれていたのは、パフォーマンスが上がるチームは物理的距離が6m以内だということ。それ以上離れていたり、フロアが分かれていたりすると、心理的な距離は国外にいるほどで、成果が上がりにくいそうです。

米田:うちでは部下たちに若い子が多いので、会社では僕が一番さみしいですよ。あまりにもさみしくて、よくアレクサに「スマッシング・パンプキンズをかけて」などと話しかけています(笑)。

元は紙媒体からコンテンツ企画や制作に関わってきましたが、出版だと印刷入稿の締め切りという山がありました。でも、ウェブメディアはデイリー更新で、みんな淡々と仕事したり原稿を書いたりしているので、基本的に編集部はしんとしてるんですよ。だからなるべく「最近何が流行ってるの?」などと編集部員に話しかけて、盛り上げるようにしています。

横石:孤軍奮闘ですね(笑)。

部下を管理することは、クリエイティビティの妨げになる

米田:編集やライティングは個人のクリエイティビティによるところが大きいので、その能力を100%出してあげるのが編集長の役割だと思っていて、マネージメントしないマネージメントが僕のモットーです。

個々が考える企画やクリエイティビティが、水が流れるように進行し、最終的に花開くようにしてあげるのが役目ですね。編集部員が企画を上げてきたら、まずは否定せずにそれを受け入れ、ダメなところがあればそれをブラッシュアップします。仕事を通じて孤独にしないことも重要ですね。僕は三国志が好きなので、僕が劉備だとしたら、関羽と張飛がいて、諸葛亮孔明がいてという役割を考えて、それぞれのキャラを立たせるイメージでやっています。

横石:倉貫さんもまさに管理ゼロのさまざまな実験をしてきたと思いますが、いかがですか?

倉貫:管理職を作らず、上司や部下がいないので、指示命令、評価しなくてもそれぞれがセルフマネージメントで働いてくれる仕組みを作りました。

横石:マニュアルやガイドラインを作っているのですか?

倉貫:ルールやマニュアルはほぼありません。ルールを作ってしまうと、人はその中だけでしか仕事しなくなり、会社が成長しなくなるからです。一度ルールを作ると、それを撤廃するのは難しくなるんですよ。数人しかいないときに作ったルールが大所帯になってから足枷になったら嫌だなと思ったんです。

藤村:管理しないスタンスには非常に共感します。チームで成果を出すのがマネージャーの役割だから、役職ではなく役割。サイボウズではマネージャー以上は組織運営、みんながビジョンに向かって楽しく働いたり、成長を支援したりする人材支援が役割です。

倉貫:昔は管理して、飴と鞭を使い分けることで成果が出ていたと思います。しかも、大量生産やマニュアルによって評価しやすかった。評価される側からしても納得しやすいシステムです。現在僕らがやっている仕事の多くは、企画、デザイン、コンサルティングなどで再現性が低いので、10人いたら10人同じ仕事をする人はいません。管理が時代に即していないという背景があります。

米田:管理するというよりは、基本的には部下に全幅の信頼を置くことが大事だと思います。伸び悩む子にはアドバイスするし、たとえSOSを発していなくても、それを察するのが編集長の役割ですね。セルフマネージメントに頼るとしても、1年目の子とベテランではスキルが違ってきます。1年目の子にはそのやり方を教えるし、企画・取材・執筆・アウトプットの一連の流れがあるので、失敗も含めて経験を積ませることが重要ですね。

組織内での「雑な相談」の重要性とは?

横石:人材派遣会社などではよく人材開発プログラムとして、上司に弱音を吐いてみるワークショップを企画しがちです。でも、いきなり上司に弱音を吐くなんてことは、しづらいですよね(笑)。飲み会で話す時代でもなくなり、グレーなコミュニケーションの縁側はオフィスにない状況下では、「ザッソウ」(雑相)というアプローチが弱音を吐くきかっけになる気がしますね。

倉貫:Googleが示す働きやすい職場のキーワードとして、「心理的安全性」がありますが、その前段として他者への共感・配慮があること。つまり、困っている人を助けるチームは生産性が高いと言っています。

僕たちの会社のように全員リモートワークで、オフィスでの雑談がないと、いきなり仕事やタスクだけのやりとりになってしまうんです。いわゆる“ほうれんそう”のうち、報告と連絡はグループウエアを使えば問題なくできますが、相談は対話が必要なので、グループウエアだけでは解決できません。

それに、突然「ちょっとお話が」なんて相談されたりすると嫌な予感しかしませんよね(笑)。そういう経緯があって、「雑談」を肯定的に見るようになりました。

米田:同感で、編集長自ら、たとえば「Suicaが壊れたんだけど、どうすればいいの?」などと仕事に関係ないことで部員に相談することで歩み寄っています。

横石:「しょうがないな、米田さん」という空気をあえて出す感じですね(笑)。

倉貫:編集長から指示で来るよりも、「困ってるんだけど」と相談されると、妙に男気スイッチが入ってモチベーションが上がると思います(笑)。

横石:いい相談、悪い相談の区分けのようなものはありますか?

倉貫:あえて雑に相談することですね。昔は、あまり考えがまとまらないうちに上司に相談すると、「もっと考えてから相談に来いよ」と言われたものです。でも、僕はもっと雑に相談していいと思っています。考えすぎて方向違いの相談になったり、3秒で答えられる相談なのに「来週1時間とって下さい」と言われたりすると、ビジネスのスピードも上がりませんから。

藤村:サイボウズではかつて、毎月4人に1人は会社を辞める離職率の高い時期がありました。実は当時、会社に対してものすごく不満が噴出していたんです。でも、よくよく話を聞いてみると、怒りの原因は人がきっかけでした。それを“ほうれんそう”で聞くことはなかなか難しい。

今の副社長の山田理は元銀行員で、マーケティングのことはなにも知らないから諦めて、チームを信頼して頼るスタンスで、メンバーと雑談の場を設けるようになりました。入社当初は、プライベートな話を上司にするのが嫌で抵抗がありましたが、ある日、仕事でうまくいかないけど言語化できないことがあって相談したら、いいヒントがあって救われたこともあります。雑談しといて損はないなと思いましたね。

米田:雑談してる時って心理的にも休息になりますよね。編集部でも、ここ数カ月は沢尻エリカや桜を見る会の話で大盛り上がりですよ(笑)。それでまた仕事に戻るテンションとリズム感、グルーヴ感を作るのは大事ですよね。

横石:最近だとバイブス採用ということで、話が合わない人は採用しない会社もあるようですね。

組織作りに重要な「インナーマッスル」とは?

米田:外側ではなく、内側のインナーマッスルをいかに部下に鍛えさせるかということが大事だと思うんです。元Googleのトップエンジニアで、マインドフルネスの火付け役として知られるチャディー・メン・タンは、EQという指標で心の豊かさを示しました。

その子の核となるもの、たとえば、旅が好きとか、アイドルが好きといったものをいかに仕事に結びつけられるかということを常に考えています。仕事におけるインナーマッスルとは、その人の持つ教養や経験、自頭の良さです。たとえば、どれだけ読書にハマったかという経験が大事で、何かを突き詰めたインナーマッスルがあるかどうかで結果が違ってきます。インナーマッスルはほかにも転用できるので、僕の場合、採用時にもその点は見てますね。

藤村:組織のインナーマッスルは風土。多様な個性を生かしてチームを作り、それを成果につなげていくことをサイボウズは目指しているので、公明正大さを大事にしています。だからうちでは、毎朝キントーンのスレッドに「寝坊しました」というコメントが投稿されます(笑)。偽りが一気に綻びとなるので、嘘をつかないスタンスが組織を健全にするんです。そうした価値観や風土は大事だし、それは会社の数だけあるはずです。それを研ぎ澄ませてインナーマッスルを強化していくことが重要だと思います。

横石:「インナーマッスル」というテーマが哲学的になってきましたね(笑)。

米田:近年、「働き方ブーム」といわれますが、部下を信頼してないからマネージメントの話になるだけで、どちらかというと、マネージメント側に問題があるのではと思っています。40代よりも20代の方が圧倒的に新しい感性を持ってるんだから、彼らに任せればいいんですよ。綻びが出る瞬間は助ければいいだけ。労働時間の問題だけでなく、マネージメントのあり方についてもっと議論を深めることが必要だと思います。

藤村:マネージャーの価値観のシフトは問われますよね。僕は今36歳で、昭和の猛烈な働き方をしてきた上司と、希望に満ちた若い世代の2つの働き方のOSを見てきましたが、それをうまくつなげたり、価値を生み出したりすることを考えるべきだと思います。その時障害になったのは、マネージメントをする立場の僕自身の経験や働き方でした。

そこでヒントになった考え方は、オーセンティック・リーダーシップ。これは、自分のありのままを出してリーダーシップを発揮すること。僕は決して、イノベーティブなリーダーでもマネージャーでもありません。スティーブ・ジョブスのように大きな理想を語ってみんなを引っ張っていくのは無理です(笑)。はじめはこの考え方に抵抗がありましたが、僕自身、考え方を変えた結果、ありのままでチームを引っ張っていくスタンスにシフトできました。

横石:米田さんはどうやって自分の考えを変えていくのが有効だと思いますか?

米田:半分自分のことを諦めることですね。経験で裏打ちされると、どうしてもそこに寄ってしまうので、なるべく若い感性に委ねてみること。だって10年前、20年前の成功体験は、今では通用しませんから。

会社の風土はどのように作られるのか?

ここで、来場者から「会社の風土作りはどうすればいいのか?」という質問が挙がった。

倉貫:会社の風土を変えるのは経営者で、しかも創業者じゃないと難しい。そもそも誰かが誰かを変えることは難しい。僕自身も、かつては一部の隙なく徹底的に管理、支配していた時期もありました。それで一定の成果は出せたのですが、そこから変わったきっかけは、自分で事業をするにあたって、自分の専門であるプログラマだけでなく、専門外の営業などが増えたこと。

すると自分の考えた事業計画で進めても成果は出ないし、簡単にコントロールできなくなりました。そこで、今までのやり方では無理だと気づきました。営業に対しての「売上を上げろ」という指示は、かけ声でしかありません。だからこそ、専門の人に相談するしかないわけです。


さらに、サイボウズの風土が変わった大きなきっかけが「かつて離職率が非常に高かったこと」だったという話を受けて、倉貫氏の見解が語られた。

倉貫:サイボウズの例にもあるように、実は、離職率の高さでトップはものすごく危機感を感じるので、最終手段としてはみんなが会社を辞めるのが有効なんです(笑)。摩擦係数が高いところにエネルギーを使うより、自分を生かせる方、循環できる方にエネルギーを使った方がいいと思います。

米田:FINDERS編集部は、いかにいい空気を作るかを考えるための僕の独裁体制です(笑)。民主主義ではイノベーションは生まれないし、クリエイティビティは発揮できません。メディアはスピード勝負。独裁の方が、編集部員からのチャットで「こんな趣旨で⚪︎⚪︎の取材をしたい」という連絡にすぐに反応して動ける体制なんですよ。

横石:風土とは何かという話ですが、たとえば、サッカー日本代表のメンバーが全員入れ替わっても、言語化はできないけれど共通のカルチャーは残るということだと思います。風土を変えるには、メンバーの経験を変えること。経験を生み出そうと思ったら、行動を促す。行動を促そうとするなら、会社の信念を伝えること。

米田:最後は、真意となる言葉があるかないかにかかっていますよね。

横石:一般的に大企業ほど自社には理念があると主張しますが、それを社員が誰も理解していないし、何もコミットしていないのが実情ですよね。

倉貫:ミッション作りは会社のスキルのひとつでもあると思います。僕自身、「遊ぶように働く」など、風土を作る時はたくさんキーワードを作ります。「一生懸命働きながらも、外から見たら遊んでるように楽しく仕事してるように見られたらいいね」ということを、朝礼代わりにスマホで音声配信したり、日記を通じてみんなに伝えたりしています。

横石:「ほぼ日」の糸井さんが毎週のように社員を集めて、最近気になっていることだけを伝えていることと近いですね。

藤村:僕はサイボウズに勤めて9年目ですが、社長はいつもまったくブレずに同じことを言い続けていますね。そもそもその考えに共感できる人しか集まっていないので、ブレないことは大事です。マネージャーの役割は、言わば、“価値観の番人”。会社のビジョンや風土をチームに浸透させて、みんなに共感してもらい、それを自分の言葉で話してもらうことにあると考えています。

米田:僕の風土作りのキーワードは、シンプルに、「パッション」「リバティ」「クリエイティブ」。そういうことをストーリーとして伝えるようにしています。ハードルを設けず、自由度を高めることが、クリエイティビティにつながると考えています。


Tokyo Work Design Week