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リモートワーク全盛の米国で組織を離れて働く、気鋭の2人組が選んだ「集う場所」の意味【連載】旅する技術屋 (5)
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  • 2019.05.23
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リモートワーク全盛の米国で組織を離れて働く、気鋭の2人組が選んだ「集う場所」の意味【連載】旅する技術屋 (5)

ニューヨークをベースに活躍する、インタラクティブ・インスタレーションユニット「Dave & Gabe」の2人。写真左がGabe Liberti、写真右がDave Rife

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清水幹太

BASSDRUM / whatever

東京大学法学部中退。バーテンダー・トロンボーン吹き・DTPオペレーター・デザイナーなどを経て、独学でプログラムを学んでプログラマーに。2005年12月より株式会社イメージソース/ノングリッドに参加し、本格的にインタラクティブ制作に転身、クリエイティブ・ディレクター / テクニカル・ディレクターとしてウェブサイトからデジタルサイネージまでさまざまなフィールドに渡るコンテンツ企画・制作に関わる。2011年4月より株式会社PARTYチーフ・テクノロジー・オフィサーに就任。2013年9月、PARTY NYを設立。2018年、テクニカルディレクター・コレクティブ「BASSDRUM」を設立。

「いよいよ、どこでも働ける時代になった」という実感

いよいよ、どこでも働ける時代になった。そんな実感がある。

10年前くらいからそういうビジョンは描かれていたが、必要なドキュメントはクラウドにシェアされていて、世界中のどこからでも(いや、中国だけはそうもいかなかったりするが)同じようにアクセスできる。たとえば企画書やスケジュールみたいなものは共有されていて、オンラインでみんなで一緒に編集する、なんていうのも主流になってきた。もちろんデジタル系の仕事に限った話ではあるが、思い描かれていた時代が、いよいよやってきている。

私などはプログラマーでもあるわけだが、最新のコードも都度都度GitHubなりに上げておけば、インターネット経由でいつでも引っ張り出せるし、作業状態を最新に保つことができる。チームとはSlackでリアルタイムにコミュニケーションできる。話題ごとにワークスペースやチャンネルが分かれていて、離れていても効率的に作業分担ができる。話す必要がある場合は、Google hangoutなりzoom.inなりで即時につながることができる。

こういったビデオチャットはまだ遅延もあるし、回線が途切れることなどもある。しかし、都市部だけにとどまるかも知れないが、仮に5Gのようなインフラが普及すれば、本当にまるで同じ場所にいるかのようなストレスのないコミュニケーションが可能になるだろう。

そうなってくると、ちょっと古い表現かもしれないが、本当の意味でのノマドワークが可能だ。この連載についても、表題を「旅する技術屋」としているが、実際問題筆者はこの状況の恩恵に強く預かっている人間の一人だ。

私はニューヨークに在住しながら、東京の会社の経営にも関わっていて、ほぼ完全にリアルタイムに東京のスタッフとコミュニケーションしながら細かい判断を行っていたりする。これは5年前でもそこそこストレスになっていたはずで、10年前だったら完全に無茶な話だったはずだが、上記のようなインフラが安定して供給されるようになった現在、あまり違和感なくやっていくことができてしまっている。

そうなるとニューヨークだろうがなんだろうが関係ない。オフィスの外のカフェだろうが、出張先のロサンゼルスの韓国サウナの屋上だろうが、台湾の設営現場だろうが、どこからでも同じクオリティで仕事ができてしまう。こうなると会社に出社して仕事する意味も、定義しづらくなってくる。「家で仕事してるとサボってしまうからみんな出社しよう」くらいの意味合いしかなくなってしまう。

出社はまだしも、打ち合わせのために相手先に出向くようなことは最小限になってきているし、アメリカだとほとんどのミーティングがオンラインで行われる。これはとても良いことで、移動時間を作業時間に充てられ、労働効率が上がる。日本だとまだまだ実際に出向くスタイルが主流で、実際に会うことにこだわる人も多いが、必要のない場合はなるべくオンラインにしないと、効率が悪くて仕方ない。日本全体で対面にこだわっていると、そのうち国力が下がってしまうだろうとすら思う。

分散して働くスタイルこそが、ローリスク・ハイリターンな時代

こういう環境の変化がダイレクトにワークスタイルに現れるのがアメリカという国だ。合理的に合理的に流れる傾向があるこの国では、こういう状況になってくると何が起こるかというと、みんな会社に属さなくなる。今、アメリカではフリーランスで仕事をする人がめちゃくちゃ増えている。クリエイティブのフィールドでは特にだ。グラフィックをつくるデザイナー、映像作家、コピーライター、プログラマー、エンジニア。最近では仕事を特定の会社にお願いするというよりは、プロジェクトベースで優秀なフリーランス人材を集めてチームをつくってものづくりをやっていくパターンが増えてきている。

個人のフリーランスを含めて、たくさんの小規模なチームが生まれて、遊軍的にいろんな仕事に取り組んでいる。インフラの発達で、場所的な自由・組織的な自由がもたらされたのだから、それを行使しない手はない。この状況では、人が会社に集まって自由を拘束されるのは前時代的なのだ。

広告制作の仕事なんかもそういうやり方になってきていて、結果として何が起こるかというと、これまでプロジェクトを請け負ってきた広告代理店や制作会社などが空洞化する。結局どこに発注しても、実際に手を動かしているのはスタッフクレジットに入ってこないフリーランスの集まりで、会社に属している人間は左から右に仕事を流しているだけ、みたいな傾向がここ数年顕著だ。ニューヨークに本社がある、広告賞を獲りまくってきたことで有名なクリエイティブエージェンシーである「Droga 5」が、コンサル系のアクセンチュア・インタラクティブに吸収されたのは象徴的で、そういった大手ですら、「ものをつくる」という領域では空洞化が進んでいて、別のモデルに移行しないと未来がない、という判断が下ったということでもあるかと思う。

アメリカの人たちはとにかくよく転職するが、私は移住して5年、移住初期に一緒に働いた人たちと久しぶりに会って「最近何してるの?」と聞くと、たいがい「Googleで働いてる」と言うか、あるいはフリーランスになっている。繰り返しになるが「集まらない」は、もはや主流なのだ。

そもそも、人が集まって働くのはなぜなのか。それは、集まった方が、強くて効率が良かったからだ。狩猟・採集の時代だったら、みんなで集まって大きな動物を仕留めた方が安全で効率が良かったかもしれない。農耕が始まったら、共同作業は必要不可欠だ。みんなで作物を育てて、みんなで収穫を祝う、ついでに言うと、「1年」という単位で仕事を区切るのも、農耕の影響が大きいのだと思う。言わずもがな、農作物は年サイクルで育つ。

集団労働・集団生活の意味とは、効率であり、リスクを下げることだった。しかし、現代のデジタルの仕事においては、もはや組織が非効率で、ハイリスクとも言える状態になり、「分散して働く」スタイルこそがローリスク・ハイリターンなのだ。

この世界では、人と一緒にいることの喜びなども、遠隔のコミュニケーションで担保できてしまう。VRChatの世界では、まるで現実世界にいるかのようにリアルな人間同士のコミュニティを営むことができる。

そして、あらゆるものがオンラインで購入した方が早いという時代においては、もはや「都市」というものの意味すら希薄化してしまうのかもしれない。実際、ニューヨークの街からはどんどん路面店が消えている。トイザらスはなくなり、家電量販店などもどんどん閉まっている。世界的なトレンドとして、人々は分散傾向にあるのではないかと思う。

あえて人々が集まる「シェアリングファクトリー」の価値

ところが、それと逆行するかのように、人が集まる動きもある。リモートワークを捨てて、毎日特定の場所に集まって働く人々がいる。

今回は、2人だけの小規模クリエイティブユニットであるにも関わらず、「集まる」ことへのチャレンジを続けている「Dave & Gabe」の2人に話を聞いた。彼らは、2016年に発足した「シェアリングオフィス」ならぬ、「シェアリングファクトリー」である「FUTURE SPACE」の設立メンバーでもある。早速その「FUTURE SPACE」を訪ねた。

FUTURE SPACEの入口

ブルックリンのウィリアムズバーグのちょっと奥まったところ、メセロール通りの倉庫街の一角に、「FUTURE SPACE」がある。このあたりの地域は倉庫としてそのまま使われている建物や、ハウススタジオやギャラリーとしてリノベーションしている建物が混在していて、とても面白い。

「FUTURE SPACE」の入口は鉄扉になっていて、まさに秘密基地的な様相を呈している。

Dave & Gabeは、ニューヨークをベースに2013年くらいから活躍するインタラクティブ・インスタレーションユニットだ。音響や照明をインタラクティブにコントロールし、エンターテインメントをはじめとして様々なプロジェクトに参加してきた。広告などの商業クリエイティブの世界でも、高い評価を得てきたチームだ。筆者とは、マンハッタンのコンテンポラリーアート美術館であるNEW MUSEUMが主催するインキュベーションスペース「NEW INC」に一緒にオフィスを構えていた頃からの顔見知りだ。ずっと2人でやってきているユニットで、クライアントワークから自主制作の作品まで、二人三脚で、つくってつくって、つくりまくってきた人たちだ。

Dave & Gabeの2人

Dave & Gabeの作業スペース

Dave RifeとGabe Libertiの2人が一緒にものづくりに取り組み始めたのは約6年前。この2人がDave&Gabeとして、協働してインタラクティブ・インスタレーションをつくるようになったのは、ある種の必然だった。

Daveはもともと物理を専攻しながら、音楽をやっていた。そんな彼がまず辿り着いたのはコンサートホールをはじめとした建築の仕事だった。大手の建築事務所で空間デザインを学び、7年間そこで建物を設計してつくり続けた。しかし、建築はどうしても完成までに時間がかかりすぎる。彼はもっと短期間で世に出せて、世間からのフィードバックが得られるような仕事を夢見ていた。コンサートホールなどの仕事の中で見た3Dオーディオデザインの仕事に触れて、テクノロジーを使ったインスタレーションの制作プロセスを見て「これだ!」と思った。

Gabeは元々ニューヨークでサウンドエンジニアリングを学んで、音楽プロデューサーを目指していた。プロデューサーとしてミュージシャンをサポートし、ビッグヒットを飛ばす。そんな夢を持っていた。レコーディングスタジオでミキシング・エンジニアとしてのキャリアを詰んでいるうちに、音楽ストリーミングの時代がやってきた。ニューヨークのレコーディングスタジオはどんどん潰れ、パソコンで誰でも音楽をつくることができるようになった。ミュージシャンをサポートして、彼らがビジョンを具現化するのを手伝う。この時代において、それができるのは音楽プロデューサーではなくなっていた。テクノロジーを使ってインタラクティブなステージをつくる。そんなことができたら最高だと思った。

2人は、そんなタイミングで出会い、すぐに一緒にものをつくっていくことを決めた。

一緒にやってみて思い知ったのは、同じ場所で一緒にものをつくることの素晴らしさ、だったという。空間デザインと音楽エンジニアリング、彼らは元々、違うスキルセットを持った2人だった。お互いにお互いの仕事の進め方や価値観を目の当たりにし、吸収しながらものづくりを進めていく。働いている間ずっと、自分とは別の知識やクリエイティブプロセスに触れ続けられることは、本などを読んで学ぶ以上に、大きくお互いを成長させることになった。

彼らはニューヨークのインタラクティブ・シーンの中でも注目を集め、携わる仕事も大きなものになっていった。それに応じて、外部のデザイナーや、舞台美術などのファブリケータとコラボレーションすることも多くなり、周囲に仲間が増えていった。つくるものも物理的に大きくなっていき、作業スペースも足りなくなってきた。いつもコラボレーションしていた他のチームも、同じような問題にぶつかっていた。

そこで彼らが考えたのは、一緒に同じ場所を共有するということだった。

インタラクティブデザインのFuture Wife、デジタルよりのファブリケーションスタジオであるGamma、映像システムなどを開発するSuper A-OK、舞台美術や美術館の設置物を制作するYoungbuk、そしてインタラクティブインスタレーションのDave & Gabeといった、別の技術を持ったチーム同士で1つの場所を借りて、同じ場所で一緒に働く。より大きな仕事を効率的にやるために、より多くの仲間からリアルタイムに刺激を受けて、成長の速度を上げていくために、シェアオフィスならぬ、シェアファクトリー、のようなアイデアが生まれた。

FUTURE SPACEの工場スペースの様子

6カ月近く、みんなで物件を探し続けた。そして、今のオフィスがある、メセロール通りの大きな倉庫に出会った。しかし、各々の会社の規模ではこんな大きな倉庫を借りることは不可能だ。だから、みんなで連合して、この場所を借りるための1つの会社をつくった。それが「FUTURE SPACE」だ。

一度は「組織」から離れながら、また新しい「組織」をつくる

そこには、だだ広い作業スペースがあり、見たことがないような作業機械が設置され、本格的なフォトスタジオもつくられた。舞台装置の制作のために金属を削っている横で、最新のデジタルエンターテインメントのリサーチが行われる。彼らは、団結することで、「何でもできる」自分たちだけの秘密基地を手に入れたのだ。

撮影スタジオ

働くFUTURE SPACEの人々

そしてここでは、DaveとGabeの間に起こった化学反応がより大きなスケールで拡張されている。常に一緒に働くことで、別の職能を持った他のチームの工程を目にすることができる。DaveとGabeのチームはデジタルのインスタレーションチームだ。しかし、同じ場所に、鉄を曲げるための機械なんていうデジタルの人間にとっては存在すら知らなかったような機材が設置してあって、金属の成形がどのように行われるのか、何が簡単で、何が難しいのかを目のあたりにすることができる。逆に、舞台美術のチームは、最新のテクノロジーを使った実験をリアルタイムで目にすることができる。誰かが新しいセンサーを買ってきてテストしたらすぐにみんなが集まってきて、それがどういうものなのか、何がすごいのか、どんな問題があるのかが共有される。そして各々がそれを知ることで、各々からそれを使った新しいアイデアが生まれる。

ファブリケーションスペースにあるごつい切削機械

もちろん、お互いにわからないことを気軽に質問できる。別の場所で個々で働くよりも、当然もっと濃いコミュニケーションが生まれる。この場所には誰かが次々に新しいものを持ち込んでくる。この場所で働いているだけで、常にそういう刺激を受け続ける。みんなが並行して新しい発見をして、それが共有されていく。

こういったことは、一緒に同じ場所に集まって働いているからこそ実現できることだ。リモートワークの利便性を捨ててでも手に入れるべき、新しくてリアルタイムな刺激がそこにある。彼らは、集まって働くことの意味をさらに掘り下げていく。このFUTURE SPACEは、イベントスペースとしても活用できるようになっている。その目的の1つは、お客さんを呼んで、自分たちがつくったものをイベントでデモンストレーションするためだ。

イベントスペースとしても使われている場所

おもむろに置いてある謎のアート

おもむろに置いてある謎の機材

デジタルを使った新しい体験をつくる上で、「場数」というものは本当に大事だ。技術的にできることがわかっていても、実際の現場では次々に色んな問題が起こる。お客さんがたくさん来たらWi-Fiがつながらなくなるようなことも起こるし、光の環境がちょっと変わったらセンサーが反応しなくなったりなんていうことは簡単に起こる。FUTURE SPACEのメンバーは、自分たちのスペースでイベントを行い、そこで新しい仕組みをテストすることで、仕事を待つのではなく、プロフェッショナルとしての成長に不可欠な「場数」を自分たち自身で作り出している。そしてそのイベントに来てくれたクリエイターやお客さんがさらにコミュニティを広げてくれる。そして仲間が増え、できることが広がっていく。

リモートワーク全盛の時代に、とにかく集まる。集まるために、集まる価値がある場所をつくる。

インターネットの普及により、人々は働く場所の自由を手に入れ、それを享受した。しかし、FUTURE SPACEの人々のようなニューヨークの最先端のつくり手が自由の先に見つけたのは、共有して影響し合うことの「旨味」だった。

集まって夢を実現する。集まって1人じゃできない大きなものをつくる。元々「会社」みたいなものはそうやってできたのだろう。ここで実現しているのはきっと、「会社」とか「組織」みたいなものの、もっとピュアな形での再構成なのではないか。組織というスタイルが固着して、形骸化していく中で、リスクや理不尽を生み出した。そういったリスク、組織の膿から一度は開放された時代の人々が、改めて「集まる」意味を見出して、次の時代の「組織」を生み出していく。それはきっと、リモートワーク以上に効率が良い、さらにローリスク・ハイリターンな未来のクリエイティブ・フィールドなのかもしれない。

FUTURE SPACEの人々

新しい集まり方が始まっている。そして新しい形で人が集まった場所ではきっと、新しく描かれたまだ見ぬ「未来」が生まれている。その場所はきっと、未来の空間=「FUTURE SPACE」なのだ。


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