“田んぼオーナー制度”が生む新しい農業のかたち
2025年9月21日(日)、石川県小松市の株式会社アートフィールド 水田活性化協議会は、石川県輪島市で稲刈りイベントを開催した。本イベントは、農業従事者の高齢化や後継者不足、耕作放棄地の増加など、さまざまな課題を抱える日本の農業の活性化を目指し、同社が取り組む 「田んぼオーナー制度」 の活動の一環として行われたものだ。
「田んぼオーナー制度」 とは、単にオーナーを募って慈善事業的にお米の生産を行うのではなく、たとえばお歳暮や贈答品用のオリジナル商品の開発や、田植えや稲刈りなどの “農業体験のイベント化” など、さまざまな付加価値を加えることで、農家の所得向上を目指すものだ。
実はFINDERS編集部の加藤もご縁があり、数年前より田んぼオーナーとなっていたが、コロナ禍の影響などもありなかなか現地を訪れる機会がなく、このたび初めて稲刈りイベントへの参加が叶った。そこで本記事では、イベント当日の様子をレポートするとともに、アートフィールド代表の島嘉文さんに伺った話をお届けしたい。

当日は到着して着替えを済ませ、早速稲刈りを開始。最初は慣れない手つきで様子をうかがうように作業していた参加者も、宇羅さんやアートフィールド代表の島さんの動きを真似て徐々にコツをつかんできた。加藤も器用に鎌を扱う子どもたちに負けまいと懸命に挑んではみたが、ものの数分で腰が悲鳴を上げることになった。
そして、みるみるうちに倒れてはいたものの見事に実った稲穂を収穫。昼食休憩をはさみ、コンバインでの脱穀作業を行い作業完了。自ら稲刈りを行ったことで、よりお米の貴重さを感じることができた。参加者も皆、半端に落ちてしまった稲穂を丁寧に拾い集めていた。



“農業をあきらめない” 田んぼオーナー制度の原点
アートフィールド代表の島さんに話を伺うと、会社を立ち上げたのは9年ほど前の2016年。当時はまだお米の値段も安く、農家はお米だけでは食べていけない状況。実際に父親が小規模米農家を営む島さんの友人も、食べていけるほどの利益はなく、後を継ぐことを悩んでいたといい、そんな状況を目の当たりにしたことが 「田んぼオーナー制度」 という販売制度を立ち上げるきっかけとなった。
島さんは、農業の問題が顕著に表れているのは過疎化が進む地域であると考え、能登地方で知人を頼り農業法人の集まりでプレゼンを行い、パートナー農家となる宇羅さんに出会い、現在に至る。
しかしながら、当初のオーナーは100パーセント知人か知人の紹介で、新規オーナーの獲得には頭を悩ませた。仕組み自体もなかなか理解してもらえなかったり、広告宣伝費の捻出にも苦労したという。しかし数年が経ち、徐々に販売の仕組みなども安定。SNSやホームページでの発信を通じて新規オーナーを獲得できるようになった。お米をお歳暮として利用する企業からは 「お客さんからの評判も良く、お渡しする際の話のネタになり良かった」 といった声が寄せられるなど、「自分の考えていたことが達成できた」 と手応えをつかんできた。


震災を乗り越え、“能登を訪れる理由”を育てる
しかし、そんな順調な活動を続けてきた島さんたちに大きな困難が訪れた。2024年1月の能登半島地震だ。実際、稲刈りイベントに訪れた際も現地には震災の爪痕が数多く見られ、復興にはまだ多くの時間が必要だと感じた。




震災直後、「全て失ってしまった。会社もこれで終わりだ」 と考えていた島さんだったが、地元農家の宇羅さんは 「農業をあきらめない。被害のなかった田んぼで今年も米を作る」 と断言。これまで参加してきたオーナーからも 「支援を続けたい」 「お米が採れなくても構わない」 といった励ましの声が届いた。結果、震災翌月には 「復興支援企画」 を立ち上げ、支援金を含め今までより高い金額設定にもかかわらず23組のオーナーが集まったという。
そして現在、昨年からの “令和の米騒動”を経て、良くも悪くもマスコミが社会不安を過剰にあおるような報道を繰り返した結果、お米の買い占めや品薄が広がり、全国的にお米の価格は上がったが、 「今後は価格だけではなく、安心・安全を求める消費者が多くなっていることから、農家と消費者のお互いの顔が見える関係性が大切になってきます」 と島さんは語る。
また、島さんが目指しているのは 「田植え、稲刈りがある」 という、より多くの人たちが“能登に来る理由”づくりだ。「能登へ来て、ご飯を食べて、宿泊をする。お米だけではなく地域全体に効果が波及するような事業展開を今後も行っていきたいと思います」 と力強く語ってくれた。
先日稲刈りを行った新米が手元に届くのは11月末ごろとのこと。もちろん新米も楽しみだが、来年以降の島さんたちの取り組みがどのように広がっていくのか、微力ながら今後も応援していきたいと思うとともに、来年また能登を訪れるのを楽しみにしたい。


株式会社アートフィールド
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