CULTURE | 2024/01/26

2024年上半期に見に行けるメディアアート展6選。坂本龍一トリビュート展や千葉県誕生150周年を祝う芸術祭も

文:高岡謙太郎

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さまざまなデジタルテクノロジーが身近になり、そのテクノロジーを用いた、音楽、イラスト、写真、映像、3DCG、ゲームといった、さまざまな分野の作品づくりやSNSでのシェアも活発となった。中でも「メディアアート」と呼ばれる、デジタルテクノロジーを活用した芸術作品も数多く生まれ、芸術祭や美術館での展示を賑わせている。

そこで本稿では、「メディアアート」に焦点を当て、楽しむうえで知っておきたい基本的な知識とともに、2024年上半期に鑑賞できる展示を6つ紹介する。

新興技術が結びついたアート作品

メディアアートは、デジタル・テクノロジーを活用した芸術作品の総称。1990年代頃から一般にも広く認識され、1950〜60年頃に登場したコンピューターアートやヴィデオアートがその源流となる。時代ごとのテクノロジーを取り入れたり、テクノロジーにその時代ならではの解釈を与えた作品が多い。そして新しいテクノロジーが世に出るたびに、いち早くアート作品にしていくという流れがある。

近年では、メディアアートを奨励してきた文化庁メディア芸術祭(1997年〜2022年)が25年目にして終了したが、現代美術の文脈でもデジタルテクノロジーを使う作品も増え、メディアアートティストが現代美術館で展示することも増えた。そして、VR、NFT、AIなどの新興テクノロジーはNFTマーケットプレイス「Opensea」、ゲームエンジン「Unity」、対話型AIチャットサービス「ChatGPT」など、誰にでも扱いやすいプラットフォームが増えたことで参入障壁が低くなり、世間でも騒がれるようになった。

デジタルテクノロジーが一般に定着していなかったメディアアート勃興の時代と違い、現在においては「メディアアート=目新しいもの」というものではなくなり、一般に定着をしたともいえる。一方で、こうした技術の急激な進化が、アートとしての深みや社会的なメッセージ性を犠牲にしているのではないか、つまり「技術的な凄さ、進化を誇るためのアート作品が作られているのではないか」という懸念も生まれた。これからのメディアアート作品は、テクノロジーを用いながらも、よりコンセプチュアルな作品や鑑賞者に響くキュレーションが求められているように思う。

現在メデイアアートを体験できる場

国内でメディアアートを扱う施設はいくつかある。東京都内で鑑賞するならば、97年にオープンした「コミュニケーション」というテーマを軸に科学技術と芸術文化の対話を促進し、豊かな未来社会を構想する文化施設「NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]」(東京都渋谷区)だ。同施設は年間を通してメディアアート関連の展示を行っている。そして西日本には2003年にオープンした、メディア・テクノロジーを用いた新しい表現の探求を軸に活動するアートセンター、山口情報芸術センター[YCAM](山口県山口市)がある。こちらは展示だけでなく、ワークショップの実施や研究など、さまざまな機能が備わった施設である。

また、最近オープンした施設を2つ紹介しよう。2022年には、アートとデジタルテクノロジーを通じて、人々の創造性を社会に発揮する「シビック・クリエイティブ」のための活動拠点「シビック・クリエイティブ・ベース東京 [CCBT]」(東京都渋谷区)。2023年には、体験型メディアアートなど創造性に富むコンテンツが展示される「SusHi Tech Square」(東京都千代田区)がオープンした。これらの施設にいけば、メディアアートの現状を定点観測できるはずだ。

今回は初心者にも伝わりやすいように、国内のメディアアート作品が展示されているグループ展を中心に紹介する。東京だけでなく、札幌、千葉、金沢でも行われ、美術館だけでなく芸術祭にも出展されている。メディアアート作品によって新しいテクノロジーの多様な捉え方を体感してほしい。

メディアアーティストとしての坂本龍一によるコラボレーション作品を展示

「坂本龍一トリビュート展 音楽/アート/メディア」
会場:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]
会期:2023年12月16日(土)〜2024年3月10日(日)

19970年代のオープンから国内でメディアアートを紹介し続けている歴史ある施設、ICC。本展では、昨年亡くなった音楽家・坂本龍一と生前にコラボレーションをした作品が並ぶ。メディアアートから現代美術、現代音楽までジャンルを横断した作品を鑑賞でき、なかでも本展のキュレーションも担当した、メディアアーティスト真鍋大度(ライゾマティクス)による作品《センシング・ストリームズ 2023-不可視,不可聴》(ICC ヴァージョン) は、「札幌国際芸術祭 2014」で両氏によって発表された作品のアップデート版。坂本龍一が残した演奏データから生成したインタラクティブな動画作品で、本人不在のままの新たなコラボレーション作品として実現した。

現代美術館の若手作家の作品を中心にしたグループ展

「MOTアニュアル2023 シナジー、創造と生成のあいだ」
会場:東京都現代美術館
会期:2023年12月2日(土)〜2024年3月3日(日)
アーティスト:荒井美波、後藤映則、(euglena)、Unexistence Gallery(原田郁/平田尚也/藤倉麻子/やんツー)、やんツー、花形槙、菅野創+加藤明洋+綿貫岳海、Zombie Zoo Keeper、石川将也/杉原寛/中路景暁/キャンベル・アルジェンジオ/武井祥平、市原えつこ、友沢こたお

19回目となる「MOTアニュアル」のテーマは、「創造」「生成」。人工知能、人工生命、生命科学など自動的に生まれる「生成」が紐づいた作品が見られる。3Dプリンタとスリット光源によるオブジェ、大型重力発電装置によるインスタレーション、デジタル人工生命NFTロボットなど、いったいどんな展示となるのか、字面だけでも気になるはず。

作品を通じて都市の見えないものを可視化

「都市にひそむミエナイモノ展 Invisibles in the Neo City」
会場:SusHi Tech Square
会期:2023年12月15日(金)〜2024年3月10日(日)
アーティスト:菅野創+加藤明洋+綿貫岳海、gluon + 3D Digital Archive Project、Qosmo、佐藤朋子、セマーン・ペトラ、Tomo Kihara & Playfool、長谷川愛、藤倉麻子、平野真美、島田清夏

昨年オープンしたSusHi Tech Squareでの展示。8組の若手アーティストによるメディアアートの展示や、都市生活を支える隠れた技術の紹介を通じて、都市生活の中での“ミエナイモノ“を可視化することで、未来の都市生活を想像するヒントを提供する展示となる。

パンデミック以降のリモートがテーマ

「遠距離現在 Universal / Remote」
会場:国立新美術館
会期:2024年3月6日(水)〜2024年6月3日(月)
アーティスト:井田大介、徐冰(シュ・ビン)、トレヴァー・パグレン、ジョルジ・ガゴ・ガゴシツェ/ヒト・シュタイエル/ミロス・トラキロヴィチ、地主麻衣子、ティナ・エングホフ、チャ・ジェミン、エヴァン・ロス、木浦奈津子

パンデミック以降にリモートワークなどの遠隔でのコミュニケーションが日常になった。「遠距離現在 Universal / Remote」は、テクノロジーによって物理的な距離を越えることの意味に問いかける作品が並ぶ。また、インターネットアーティストとして活動をしていた、ヒト・シュタイエル、トレヴァー・パグレン、エヴァン・ロスなど、海外の作家の作品を中心にが鑑賞できる希少な機会となる。

金沢で「デジタルを食べる!? 」

「DXP(デジタル・トランスフォーメーション・プラネット) ―次のインターフェースへ」
会場:金沢21世紀美術館
会期:2023年10月7日(土)〜2024年3月17日(日)
アーティスト:Keiken、MANTLE (伊阪柊+中村壮志)、デイヴィッド・オライリー、東京大学 池上高志研究室、シュルティ・ベリアッパ&キラン・クマール、河野富広、アンリアレイジ、HATRA、岸裕真、ジョナサン・ザワダ、GROUP(井上岳、大村高広、 齋藤直紀、棗田久美子、赤塚健)、VUILD、AFROSCOPE 他

「デジタルを食べる!? ―身体と一体化するテクノロジー」をテーマに、 アーティスト、建築家、科学者、プログラマーなどによるAI、XR、NFTを用いた作品が並び、「デジタルを身につける」「デジタルを買う」「データを摂取する」といったテーマが与えられていて、この数年でさらにデジタルが身近になったことを感じさせる展示となっている。北陸の地で鑑賞できる希少な機会となるとなるが、現在能登半島地震被災地の影響で残念ながら当面休止とのこと。いち早い復旧を祈ります。

札幌を舞台にした3年に一度のアートフェスティバル

「札幌国際芸術祭2024(SIAF2024) 『メディアアーツの森』」
会場:札幌芸術の森美術館
会期:2023年12月16日(土)〜2024年3月3日(日)
アーティスト:石井裕+MITメディアラボ タンジブル・メディア・グループ、LAUSBUB、明和電機、雪ミク(クリプトン・フューチャー・メディア株式会社)、Yukikaze Technology

オーストリアのリンツ市を拠点に40年行われる世界最大のメディアアートの祭典「アルスエレクトロニカ」。そのアルスエレクトロニカ・フューチャーラボ共同代表でありアーティストの小川秀明氏をディレクターに迎えた芸術祭。札幌芸術の森美術館では、「メディアアーツの森」という会場テーマのもと、電子楽器オタマトーンの生みの親であり、"メディアアート界一のエンターテナー”として人気を集める明和電機による「明和電機 ナンセンスマシーン展 in 札幌」と、札幌発のテクノロジーやクリエイティブ産業に注目した「メディアアーツ都市・札幌って知ってました?」が開催される。

千葉県生誕150周年を祝う芸術祭

「いちかわ芸術祭」
会場:千葉県立現代産業科学館
会期:2024年1月16日(火)〜2024年3月10日(日)
アーティスト:秋廣誠、大野修平、小阪淳、種子島宇宙芸術祭、千田泰広、千葉工業大学 CIT Brains、千葉商科大学楜沢順研究室・木村麻耶・伊藤美由紀、Kuan-Ju Wu + 開元宏樹 + 筧康明、東北大学平田泰久研究室、Nibroll、宮原はな、渡辺志桜里

産業と科学技術の発展を体験しながらアートを通して学び、子どもから大人まで幅広い世代が楽しむことができる展覧会。東北大学の平田泰久教授らのチームがAI技術を使って開発した障害の有無・程度を気にせず一緒にダンスを楽しめる「ロボット車椅子」、千葉工業大生らが開発した「サッカー競技用ロボット」も展示。一般層にも開かれた芸術祭となっている。