BUSINESS | 2024/04/09

生成AIで知りたい情報がリアルタイムに 確認できたら仕事はどう変わる? テラスカイの新クラウドサービス 「mitoco AI」から考える

聞き手:神保勇揮(FINDERS編集部)、荒木大地 構成:荒木大地 写真:神保勇揮

SHARE

  • twitter
  • facebook
  • はてな
  • line

企業向けに経営・業務領域のクラウドサービスを多数展開するテラスカイは、同社のクラウドERP「mitoco ERP (ミトコ イーアールピー)」の新たな製品として、ChatGPTベースの生成AI機能を搭載した「mitoco AI」を、2024年4月9日にリリースした。

mitoco ERPは企業の「ヒト(人事)・モノ(生産/在庫)・カネ(会計)」、そして「顧客情報」を管理するクラウドサービスであり、このERPに生成AI機能を搭載した「mitoco AI」を併せて導入することで、企業の財務情報や商談情報、従業員情報などを自然言語で問いかけるかたちで簡単かつ自由に引き出したり、まとめたりすることができるようになる。

「生成AI元年」とも言われた2023年、AIを活用した様々なサービスがここ日本からも誕生してきたが、ITや新技術になじみの薄い方にとってはあまりピンと来ないまま一年が過ぎてしまった節もある。生成AIはこれから先、日本人の仕事をどれだけ楽にしてくれるのか、今何をすべきなのか?テラスカイの山田誠氏(取締役 専務執行役員 製品事業ユニット長)に話を伺った。

山田 誠
株式会社テラスカイ 取締役 専務執行役員 製品事業ユニット長 兼 企画開発本部長
1998年から国産・海外ERPソフトウェア企業でプリセールス、マーケティング、商品企画や開発部門を歴任。2022年4月よりテラスカイに参画。製品事業ユニット長として、テラスカイグループの製品事業全体を統括。2023年5月より取締役に就任。日本の有力ソフトウェア・サービスを提供するIT企業が集うMIJS(Made In Japan Software & Service consortium)副理事長。

企業のデータ管理「全体最適VS部分最適」の歴史は繰り返す

―mitocoの開発、そして生成AI機能の実装に至った経緯を教えてください。

山田:私はもともと25年ぐらいERP開発に携わっていますが、2022年に参画したテラスカイで「新しい時代のERP製品」を作りたいと考えました。1980年代のメインフレームの時代から、2010年代のクラウドの時代へと環境は変化していきましたが、ERP領域においては、昔は「全体最適化」を目指していたのが、いつの間にか現場が個々に選ぶ「部分最適化」が主流になりました。

ですが各部門で使いやすいツールを選定すると、複数のログインIDが乱立してしまい、場合によってはマスターデータもバラバラで情報の集約が思うようにできず、部門を横断したイノベーションは起きにくくなります。操作感がバラバラ。網羅的な情報チェックも困難。そういったものを全体統合するような流れが来ると思っています。

そこで、すべてを統合できるサービスとして開発されたのが「mitoco ERP」です。もともと2016年にグループウェア「mitoco」としてリリースし、徐々に機能追加・改善を加え、現在の次世代ERP「mitoco ERP」としてリブランディングしたのが2023年9月です。

Salesforceのプラットフォーム上で、会計、営業・マーケティング、販売・在庫管理、グループウェアまで網羅したERPのモジュールを作った会社は世界初ではないでしょうか。

今までのERPは人が使うもの、人間前提の製品だったのですが、これからの時代は全業務システムにAI機能が入ってきます。mitocoERPは後発製品になるので、ChatGPTベースの生成AI機能を組み合わせ、mitocoERPによってAIと人が共存できるような、人間前提ではないシステム、そんな誰も作ったことのない製品を作ってみたかったのです。

知りたい情報をリアルタイムに確認できることにより、みんなの仕事がラクになる

 ―この機能によって、業務はどのように変わってきますか?

山田:mitocoはユーザー企業の経営に関するデータを集約するプラットフォームですが、「mitoco AI」を組み合わせて導入すると、例えば「1月から3月までに営業をかけた企業のデータを出して」とか「過去3カ月の売掛金はいくら?」「確度が80%以上と設定している商談一覧を出して」「今月の勤務時間が75時間を超えている人は誰?」といった質問に対して、自然言語(プログラミング言語ではなく、我々が普段使っている言語)で指示するだけで解答やデータを表示してくれるようになります。画像を読み込ませて「40歳以上のメガネをかけた社員は誰?」といったような質問も答えてくれるようになります。しかも世界中の言語でできます。

この機能を顧客にプレゼンする中で、特に反響が大きかったのが営業系の方です。Salesforceは既存の顧客データを管理しているので、「今月の見込み商談と営業担当は誰?」とか、「この顧客への最終訪問日はいつ?」といった質問を、リアルタイムに確認できるのは便利です。

また、別の使い方としては第三者が提供している企業情報をSalesforceに連携し、特定の業界でまだ顧客になっていない企業リスト(ホワイトスペース)を出して潜在顧客を探したりするなど、科学的な営業戦略としても使うことができるようになります。全企業データを対話型AIで引き出せるようになるともっと利活用の幅が広がります。こんな素敵な世界はないなと思います。

ーChatGPTの登場は御社にとっても大きな出来事だったのでしょうか?

山田:ChatGPTのおかげで一気にアイデアが出ました。これまで一番悩んでいたのが、日本企業が開発する製品は基本的に日本語ベースの国内向けサービスとなってしまうことでした。せっかくSalesforceというグローバルプラットフォームを利用しているのに、言葉の壁を超えることができない。

ですがChatGPTを用いれば中国語でもイタリア語でもタイ語でも通じる。そうなればユーザーを世界中に広げられます。国内のみならず、グローバルにも展開していきたいです。

ーこれらの機能はどのぐらいの価格で利用できるのでしょうか?

山田 :mitocoは、ユーザー企業が使いたい機能だけを選んで、機能毎に定めた月額費用で利用できる製品です。今回リリースした、「mitoco AI」は主に経営層やライン長が利用することを想定している製品で30ユーザー月額50万円から利用できます。

生成AIの導入が普及すると、仕事はどう変わる?

ービジネスシーンへの生成AI実装が今後も進んでいくと、何ができるようになり、仕事はどのように変わっていくのでしょうか?

山田:これまで携わってきたERPの世界では、ビジネスパーソンが行う雑務的なルーチンワークはパソコン導入後も抜本的には変わらず、人間が行うことを前提としています。そういう雑務の大半をAIが行ってくれるとなれば圧倒的な生産性が手に入る。すると忙しさの種類が変わり、本当に思考力が試される時代になるのではないでしょうか。

現在は、上司が部下に「あのデータをまとめた資料を作ってくれ」「あの件はどうなっているのか?」と次々と指示や質問をすることにより疲弊してしまう光景も見られますが、AIと共存する世界になればデータはAIに聞くだけで全部出揃うので、人間は意思決定するだけでよくなります。1〜2時間かけて手入力で資料を作るとか、誰に聞いても答えられるレベルの問い合わせをするとか、そういうことすらない、本当に仕事のやり方が抜本的に変わるのだろうな、という気がします。

これまでの時代において必要とされてきたのは「検索力」でしたが、これからはいかにAIアシスタントを活用して仕事を効率化できるかといった「AI操作力」が問われるのではないでしょうか。膨大なデータ処理はAIに任せて、圧倒的なパフォーマンスを手に入れる人間が求められるようになると予想しています。

今後日本は少子化で間違いなく人口が減ります。今までのルーチン業務を効率化しなければ現在行っている業務をこなしていくことも難しくなってきます。SlackがAI対応機能のパイロット版をリリースしましたが、1週間延々と続いたチャットのやり取りをキャッチアップするといった地獄のような作業を、「要はこんなことを言っています」とまとめてくれるのはすごく助かりますね(笑)。


mitoco https://www.mitoco.net/AI

株式会社テラスカイ https://www.terrasky.co.jp/