2023年4月にオープンした、東急歌舞伎町タワー内のナイトエンターテイメント施設・ZEROTOKYO/Zepp Shinjuku (TOKYO)(※)。新宿エリアには珍しい大型のライブハウス/クラブであり、国内外から集まる気鋭のアーティストを目当てに、毎夜多くの若者が集う。そして、そんなZEROTOKYOの目玉の一つが映像、照明による緻密かつド派手な演出だ。メインステージの巨大モニターに加え、フロアを囲む360度モニターや、施設内に張り巡らされたラインライトなどが、まるでひとつの意思を持つ有機体かのように連動し、圧倒的な没入感を生み出す。
このシステムはいったいどのようにして作られたのか。システムの開発・導入を手掛けた、ライブ・ビジュアル・ラボラトリーCOSMIC LABの代表であり、VJ(※)のC.O.L.O(コロ)氏にインタビューを行った。
本稿では実際にどのようなかたちでシステムを構築したか、どんな機材を使っているかなど、技術的な話題は最低限に留めるのであしからず。システムの導入の前段で考えられたコンセプトやC.O.L.O氏が考える「没入感」についてなど、このシステムを支える思想や、C.O.L.O氏が考えるZEROTOKYOの魅力について語っていただいた。
※ZEROTOKYO/Zepp Shinjuku (TOKYO)は、9時から22時までの時間を、ライブホール「Zepp Shinjuku (Tokyo)」として、22時以降はZEROTOKYOとして時間帯に応じて名称を変えて営業。本記事では施設そのものを指す場合「ZEROTOKYO」と表記する。
※VJ:ビデオジョッキー、またはビジュアルジョッキー。主にクラブでDJの流す音楽やその場の雰囲気に合わせて即興的に映像を流す役割の人。
C.O.L.O
ライブビジュアル・ラボ"COSMIC LAB"を主宰。可視と不可視が交わるオーディオ・ヴィジュアルの体験を通じて認知の拡張を探求。視覚情報から意味性を剥離し、再構築される光学的現実で、人々の意識と無意識の境界をマッサージする。代表作は、JEFF MILLSと共同映像演出を務める「THE TRIP」、∈Y∋(BOREDOMS)を中心に結成しフジロック史上最も異質なステージと称賛された「FINALBY( )」、長谷川白紙のライブ映像演出作品等多数。
道具がなければ作る。映像クリエイターたちの意外な一面
―― ZEROTOKYOの映像システムは、COSMIC LABとしてご担当されたとのことですね。具体的にどのように参加されたのでしょう?
C.O.L.O(以下 コロ):僕たちは主に送出システムのデザインとソフトウェア部分の開発で参加しました。照明やモニターなどの機材類が全て導入されたあとの段階で、ハードウェアは揃ったけれども、これをどう運用していくかが決まっていない、という状態だったんです。そこでカスタマイズ性に優れたメディアサーバーと呼ばれるシステムをオリジナルで用意して導入しました。
詳細に説明していくとかなり技術的な話になってしまうので今回は割愛しますが、ZEROTOKYOには、ステージ後ろのメインスクリーンに加えて、フロアを360度囲むサラウンドスクリーンが入っています。加えてフロア中にラインライトが張り巡らされており、なおかつ一般的な照明機材もかなりの数導入されている。さらにざっくり言えば、VJさんが映像を流すと、これらすべてが連動しフロアに一つの世界観を作れてしまう、というものです。
そして重要になるのが、これを基本的には一人でコントロールできるようになっている点です。これだけの数の画面や照明もあるということは、音に対して映像を外したらフルスイングの空振りになってしまうじゃないですか。仮にこれを3人で制御するとなると、音を聴いてどんな演出をするか、という部分が3人でバラバラになってしまう。それを避けるためにも絶対に制御の部分をちゃんと整理して、基本的には一人でコントロールできるようにしないといけないなと。
最終的にシステムの中には3つのモードを用意しています。バンドやグループアイドルのライブで使用されることの多いZepp Shinjuku用のモードでは、映像や照明担当の方も乗り込み(演者側が担当者を用意する)のケースがほとんどなので、あまり複雑にならないように、シンプルな操作である程度の機能を使えるようにしました。ZEROTOKYOの場合は2パターン用意してあって、一つは同じように乗り込みのVJさんやZEROのスタッフの方でも扱いやすいシンプルなモード。そしてもう一つが、COSMIC LABがVJとして入ったときに、フルで性能を発揮するアドバンスモード的なものです。
―― 演出を作るだけでなく、「演出を作るためのシステムを作る」ところから始めるんですね。
コロ:これは映像系のクリエイターの特徴かもしれませんが、COSMIC LABもビジュアルとテクニカルの両方でやっていて、周りにはエンジニアリングと表現をまたぐクリエイターが多いですね。
2015年に「高野山1200年の光」というプロジェクトをやったときも、高野山の壇上伽藍という建物に映像を映しましたが、3D空間にリアルタイムでレンダリングしてプロジェクションマッピングを行えるソフトというものが当時はなかったんです。
なので、そのときはゲームエンジンのUnityを使って、プロジェクションマッピングをするためのシステムを自分たちで組みました。その辺りからツールに対する意識も強まって、自分たちが思うVJをするためにどうすれば良いのか、どんなツールがあれば良いのか、ということから考えるようになったんです。今回のZEROTOKYOも同じ考え方で、自分たち含むVJたちが新しい表現を生み出すにはどうすれば良いのか、という考え方でシステムを組んでいったんです。
会場スタッフも騙される「ステージ裏の仮想空間」
―― ZEROTOKYOのシステムを作るにあたって、なにか参考にしたものはありましたか?
コロ:自分たちはもともと、ライブエンターテインメントやVJが中心の現場主義。だから新型コロナの影響でオンラインのイベントが増えたときもあんまり興味が持てなかったんですよ。でも一時的に無観客イベントの需要はすごく増えたりもして、その間に「XR」、つまり現実世界と仮想世界のミックスについて、いろいろと遊びながら試していたんです。
それでZEROTOKYOの話が来たときに、XRだからこそ生まれた表現を、次はリアル空間でのライブエンターテインメント、ライブビジュアルにどうやって戻すのか、「ポストXR」みたいことをぼんやり考えはじめていたんですよ。画面越しにXRを体験できる表現が生まれたので、次は絶対に現地で大人数でシェアするという体験に戻るな、とか。同時にコロナ以前と全く変わらないものになるとは思っていなかったので、自分たちの表現としてこれまでやってきたライブビジュアルのパフォーマンスにXRを加えることで、現実がどう拡張されるのかなっていうところに興味があった。
自分たちが試していたXRでは、現実空間に対応する同じような仮想空間を作り、その2つを同期、連動させるものですだったんですが、現実空間と仮想空間を重ね合わせたときに、現実空間と「シームレス」なXR空間として認知させる為には「光」の要素が重要だと気づきました。この要素が同期していないとかなり不自然だと。逆に言うと、これらを巧妙に同期させることでネクストレベルにいけるなという確信でもありました。
具体的にいえば、現実空間の特定位置・向きの赤い照明をつけると、仮想空間の同じ座標位置・向きでもCGの赤い照明がつくように連動させて、現実空間で照明に照らされた人や物は当然赤くなるし、仮想空間の同じ位置に合成されたCGオブジェクトもCGの照明に当たって赤く見える、というシステムを組みました。これは実際に体験しないと分かりづらいと思うんですが、すごくシンプルなアイデアではありつつも観客が感じるリアリティを一気に引き上げました。光を介してバーチャルとリアルを同期させることで、新たな「現実感」が生まれたんです。
で、それを今度は裸眼で成立する現実の空間に応用するためにZEROTOKYOに導入したのが、演者が立つステージの後ろにある「モニターの中」のバーチャルな照明機材です。ぱっと見はステージ裏にも空間が広がっていて、照明がぐるぐる動いてるように見える状態です。そのバーチャルの照明と、現実の照明を光の質感も含めて連動させました。光ってすごく視覚的なものであると同時に、自分の体にも当たり、触れるような感覚があるので、とてもフィジカルなものだとも思います。その光を仮想空間と現実空間とで同期させることで、現実空間を拡張させるような効果が生まれたのです。
この機能はZEROTOKYOに導入したシステムのなかでも特徴的なものだと思います。お客さんはもちろん、演者さんやハコのスタッフの方からも、「ステージ裏に空間なんてありましったけ?」って聞かれたりするぐらいです。これはXRをやっていなかったら思いつかなかったと思います。
―― はじめて観たときはステージ裏にどこまで空間が広がっているんだ?と不思議に感じました。
コロ:結構色々な使い道があると思っていて、あの画面の中にまた別のバーチャルクラブみたいな空間を作って、「Boiler Room」(※DJの周囲を観客が取り囲む形式で知られる、人気のDJイベント配信チャンネル)のような感じでアバターたちが現実のDJのを囲んで踊っているみたいなことができたら面白いなとかも考えていました。
ただZEROTOKYOがオープンしたタイミングが、フィジカルでの活動が戻ってきて、その価値が爆上がりしたときだったので、あまりバーチャルイベントに行かなくなってしまったんですよね。でも今後またそういうものも加えながらやっていく、ということも全然アリだと思っています。
―― 「没入」にもいろいろありますよね。それこそヘッドマウントディスプレイや、最近話題のラスベガスにできたSphereみたいにモニターで視界を覆っちゃう方法もあれば、逆にテクノDJが繰り出す音に没入するとか、瞑想のような感じで自分の内側に没入していくような体験もあります。コロさんは「没入感」というものをどういうふうに考えていらっしゃるのでしょうか。
コロ:もちろん常にモニターから何か映像を流しまくっていればそれだけで良いとは思いませんよね。おっしゃるとおりテクノとかにハマりたいときには、暗闇の中で踊るみたいなことも大事じゃないですか。過剰に入力すれば良いとか、逆に真っ暗にすれば良いとかじゃなくて、外からの刺激と、内側からあふれ出るリアリティみたいなものがちょうど結びつくところに没入感みたいなものがあるんじゃないかと思うんです。2つが共存することで現実感が変容していくみたいな感覚が一番面白いというか、一番没入的になるんじゃないかなとは思っていて。
だから完全なVRとかだと入力過剰というか、リアルな「没入体験」とはまた違ったものである気がしていて、そこのバランスは常に考えています。あと単純に画面に映像を映して「これを見ろ」というふうにするのでは思考の領域を超えて感覚にまで訴えるには弱い気がしていて、音響と同じようにクラブ内のどこにいても逃れられないというか、そういう環境をつくっていくというのも大事かなと。
―― その環境をZEROTOKYOで実現した、ということですね。
コロ:そうですね。
ZEROTOKYOは映像系クリエイターの聖地となるか
―― ZEROTOKYOはVJや照明を担当する目線から見て、どんな特徴を持つ場所だと言えるのでしょう?
コロ:日本ではサウンドシステムに超こだわったクラブやライブハウスは当然たくさんあるんですが、同じ熱量で照明や映像にこだわった場所って特に規模が大きくなるほど、ほぼ存在しない気がします。ZEROTOKYOの場合、そこが「音と並んだな」というところまでいけたと思うんです。もちろん音が妥協されているわけではないですよ。
なのでVJさんも普段、自分がなんとなく音に合わせて雰囲気でやればいいかな、という感覚でやっていたものでも、会場の全員に届いてしまう、ごまかしが利かない状態でもあるということです。でもそれがうまくハマるとお客さんたちのレスポンスも通常のクラブとは圧倒的に違うものになると思うので、そこは醍醐味だとは思いますね。
―― たしかに、ここまで映像と音を両立した場所は思いつかないですね。
コロ:その日だけのイベントであったり、オーガナイザーが頑張って持ち込む、というものはあると思うんですが、常設であの規模っていうのはないと思います。有名どころで言えば、渋谷のSpotify O-EASTは大きめの高解像度LEDビジョンを入れてますが、一方で、ZEROTOKYOはクラブ、つまりダンスフロアとしても考えられた設計になっているので、ステージだけを見るのではなく、全方位的に映像があるという部分が特徴的な違いであり面白い設計だと思います。
―― オープンしてから半年ほど経ちましたが、手応えとしてはいかがですか?
コロ:面白かったのが、映像や照明への反応がDJやミュージシャンの方から多かったことです。ここまでの規模になると映像だけでも世界観を充分作れてしまうので、他のクラブでやっていないような、音と映像がちゃんとシンクしたイベントをやりたい、という要望がDJ側から出てくるんですよ。
今度、大沢伸一さんとCOSMIC LABでイベントを企画しているんですが、いわゆるクラブイベントのDJとVJ、という即興的な組み合わせではなくて、ちゃんと「オーディオビジュアル」として、音と映像と照明とを組み合わせた、ZEROTOKYOだからこそできる圧倒的な内容を作ろうとしています。クリエイターたちの欲求をちゃんと引き出せる場所になっているんだな、と感じました。
―― クリエイターが「こんなことをやってみたい」と思える場所はとても貴重ですね。
コロ:あと、お客さんからの反応として面白かったのが、ZeppShinjuku(Tokyo)のイベントとして開催したもので、今年の5月に長谷川白紙くんとボアダムズの∈Y∋(アイ)さんの2人とイベントをやり、どちらもCOSMIC LABがVJをしたんです。そこで「自分の脳みその中を見せられているみたいだった」「音を聴いた自分の脳みそでイメージしたものがそこに反映されているような感覚に陥った」ということを言っている人がいたんです。映像が音のように全方位から侵入してくる、あの空間だからこそ出てきた感想だなと思って、それってある意味認知体験をだいぶ拡張したということなのではないかなと。
だからZEROTOKYOはもっとクリエイターがうまく使っていってほしいなと思ってるんです。今はヒップホップ系のイベントが結構多くて、お客さんもちゃんと入っていて回っているみたいなんですが、ビジュアルクリエイターたちもまだまだ新しい表現を生み出せると思うんですよね。
―― 機能が全然活用されきっていない、という印象ですか?
コロ:僕としてはまだ3%くらいしか使えていないんじゃないかなという印象です。
本当に個人的な願望ですが、たとえば「MUTEK」の一部プログラムや「Hyper geek」とか、これからの表現を模索していこう、という若いクリエイターたちも多く参加するオーディオビジュアル系のイベントがありますが、ああいったクリエイターがZEROTOKYOのシステムをフルに活用したらどういう表現が生まれてくるのか、すごく興味があります。あとはメディアアートですね。さまざまなメディアを横断して表現するようなクリエイターも入ってきたら面白いなっていうのは、個人的にはずっと思っています。
これに関してはCOSMIC LABとしてもキュレーションじゃないですが、こういうクリエイターを入れていこうみたいなものを、ZEROTOKYO側に提案し始めているところでもあります。ZEROTOKYOとしても、ここならではのビジュアルや体験価値を作ろうと模索してる状況だとは思います。
―― 特徴的な場所だからこそ、どんなイベントがやっているのかなど、イメージ作りをしていかなければならない段階ということですね。
コロ: 先程もすこし話に出しましたが、クリエイター側としても、音だけに頼らなかったり、外タレの集客に頼るのではなく、ZEROTOKYOならではの、映像と照明を含めた「空間」としての圧倒的なものを作り、それを通じてちゃんと箱の色みたいなのを作っていこう、と大沢(伸一)さんとCOSMICで意気投合して、実際に企画して実行することになりました。12月28日開催の「IN VISIBLE」というイベントです。
もちろん国内に限らず、ゆくゆくは海外まで含めて、新たなライブビジュアルに挑戦しているような人たちとか、音と映像によって成立するパフォーマンスをする人たちも増えていると思うので、そういうクリエイターたちが、「日本でやるならZEROが一番いいよね」って思ってくれる会場になっていくといいなと思うんです。
「沼の蜃気楼」が立ち上がるまで
―― 期待したいですね。今日本のクラブカルチャーの中心地といえば、真っ先に渋谷が挙がると思いますが、ビジュアル表現で盛り上がっている街、というイメージを持つ人は少ないと思います。なので今後新宿、歌舞伎町がそうなっていくと面白いかもしれません。ZEROTOKYOのプロジェクトに参加するにあたって、街の個性は意識されましたか?
コロ:しますよ。特に歌舞伎町ともなるとせざるを得ませんね。ちょっと話がそれますが、大阪の難波にCOSMIC LABが拠点としている「味園ビル」というビルがあるんです。
―― 『味園ユニバース』という映画にもなりましたね。
コロ:FINDERSの読者の方々に伝わるか不安なんですが、僕はこのビルに人生を変えられているんです。本当にすさまじい歴史があるんですよね。記事にできるかわかりませんが、ちょっと話していいですか。
―― ぜひお願いします。
コロ:1956年に大阪・難波の千日前というエリアにできたビルなんですが、日本が敗戦した当時、難波のあたりって焼け野原なんですよね。そこからたかだか10年とかで生まれた場所で。最初は1000人以上入る地下の大箱のダンスホールとして始まったんです。そのダンスホールがものすごく大当たりして、興行収入をもとに、ビルを増築していったんですよ。ダンスクラブを営業しながら(笑)。
で、その増築したビルの1階から5階にかけて吹き抜けになっている「ユニバース」という巨大キャバレーができたんです。オープン時のバイトの募集をするチラシが残っているんですが、そのときの募集人数が3000人とかなんですよね(笑)。
―― 凄まじい規模ですね(笑)。
コロ:もうとんでもない。で、中には20人ぐらいのダンサーが乗れる空中ステージが5台あって、上からバンドとダンサーが演奏しながら下りてくる。こっちのステージの演奏が終わると次のバンドがまた別のステージから代わるがわる下りてきて、それをPAがフェーダーでコントロールするみたいな。そういう規格外のグランドキャバレーがあったんです。
それで80年代にキャバレーが地下に移ったんですが、そこもシャンデリアの数がすごくて、なぜかわからないけど、ダンスホールの上に土星が回っていたりとか、もうサン・ラーみたいな世界観ですよ(※サン・ラー:1950年代ごろから90年代初頭まで活躍したジャズミュージシャン。自らを土星人と主張し生涯を通して独自の宇宙的な世界観を体現し続けた。今でも大きな影響を残している)。僕らが初めて訪れたときはその頃で、それ以外はほとんどが空きテナント、という状態でした。「大阪にこんな場所があったのか」という衝撃と同時に、ここからヨーロッパのスクウォッティングカルチャー(※廃墟となった建物を占拠し、生活をしたり、レイブパーティを行ったりする場として利用するカルチャー)とかを連想して、こういう場所からこそ面白い文化が生まれる、ということは直感しました。
さらに何もないだけじゃなくて、過去にすごいことがあったんだという異様な貫禄があるけど、今はほぼ何も使われていない、というストーリーがあるのも良かった。クリエイションの名残みたいなものを感じながら、こういうところでパーティとかやると面白いだろうなと感じて、COSMIC LABの母体ともなった「FLOWER OF LIFE」というイベントを仲間たちとやっていました。
で、話を戻すと、味園ビルってちょっと怖いんですよね。当時は一部の人から心霊スポットとして面白がられてるところもあって、スタンリー・キューブリックの『シャイニング』って映画があるじゃないですか。『シャイニング』は廃墟のホテルが舞台ですが、味園ビルにもとにかくたくさんの人の魂というか残留記憶みたいなものが彷徨ってて、それがフラッシュバック的に見えてきちゃうみたいな話もありましたね。歴史の証明でもある埃にまみれた空間だからこそ、そこで繰り広げられた人々の物語を強烈に感じるというか。でもそういうところで音楽イベントをすると異様に盛り上がるんですよ。
それで当時僕らも面白がって、3階のホテルに超安く住まわせてもらいながら地下で店の人たちとクラブイベントをやったりとかして、半ばスクウォッティングみたいなライフスタイルを享受させて貰いました。そのうちに、話を聞きつけた嗅覚の鋭い若い人たちが、レコード屋をやりたいとか、カフェをやりたい、みたいにしてだんだんと集まってくるようになったんですよ。
それで味園のオーナーの方もこの機を逃すまいと「敷金と礼金なしでいいから」って、空きテナントをゼロゼロ物件で貸し出して、結果2年ぐらいで60店舗くらい全部埋まったんです。そこから新たな味園に返り咲き、今はサブカルのメッカみたいな感じになっています。ちなみに2021年にCOSMIC LABが味園ビルをヴァーチャル化・メタバース化した「UNIVERSE 1956」というプロジェクトを行いました。1956当時の内観をブラウザからもウォークスルーできる内容になっているので一度見て回っていただくと雰囲気を掴んで貰えると思います。
―― 場所に歴史ありですね。
コロ:話を戻していきますね(笑)。宗教学者の中沢新一さんの『アースダイバー』(※太古の地図や文献を頼りに、人類と土地の関わりを読み解く人気書籍シリーズ)という本がありますが、その大阪バージョンにあたる『大阪 アースダイバー』という本の中に、味園ビルがある千日前という場所についての記述がありました。
千日前は吉本もあるし松竹もあるしで芸能が栄えた場所なんですが、昔は広大な墓地だったそうで、処刑場や火葬場もあって「死」というものとものすごく近い距離にある土地だったそうです。さらに中沢さんによると「死」と「笑い」というものは本来とても距離の近いもので、難波、千日前エリアで笑いの文化が生まれたというのがそれだと言うんです。
実際、「笑い」ってある種のバーチャル性があるというか、可視化されてないシュールな状況を一時的に可視化させる技術でもあるわけじゃないですか。ものすごくシリアスに捉えなきゃいけない死に対して、もうひとつ次元が違うリアリティをぶつけることで、目の前の世界と関係を結び直して自分の中の現実と折り合いをつける。そのために笑いという行為があったのかなと思うんです。そういう死と笑いが表裏一体になった場所が味園ビルのある千日前なんですよね。そしてあの場所で、ああいった文化が盛り上がったというのが、自分の中ではかなりしっくりきた。
話を新宿に戻しますが、歌舞伎町も日本有数の特殊な街じゃないですか。歌舞伎町が今、なぜああいう風になったのかというのも、『アースダイバー』で触れられているんですよね。
―― 新宿はもともと湿地帯で、歌舞伎町はそのど真ん中だった、という話でした。
コロ:その湿地帯を埋めてそこに歌舞伎座をつくろうとして、それが頓挫した結果名前だけが残り歌舞伎町ってなった、と言われていますね。乾いた場所よりも湿地からこそ文化が芽生える、ということを中沢さんは書かれていましたが、自分としてもそれはものすごく共感する部分がある。それでZEROTOKYOに関わらせてもらうときに「歌舞伎町とは」ということをめっちゃ考えたんです。歌舞伎町だったら何ができるのかな、ということでさっきの湿地、沼地という特徴から「沼の蜃気楼」というコンセプトにたどり着いたんです。
歌舞伎町にかつてあった沼の存在を感じながら、そこにバーチャルな空間、つまり蜃気楼のようなものが立ち上がる。そういう場所ならではのものと次元を超えてつながると、面白い現実が立ち現れるんです。自分たちが生きてる時代って歴史から見るとすごく短い期間だし、大きな歴史を感じることはなかなか難しい。でも今自分が見えている範囲よりもさらに大きな物語がずっとそこにはあるのではないかと。そこから強く影響も受けているのではないかと思うんです。
バーチャルとは「不可視の可視化」である
―― ものを作るにしてもイベントを開くにしても「場所」からの影響って本当に大きいものですよね。
コロ:バーチャルをクリエイトするっていうのも、そういうところなのかなってずっと思っていて。何十年も前に、はじめて「バーチャル」という考えに興味を持ったときに読んだ『ヴァーチャルという思想―力と惑わし』という本に、バーチャルってラテン語まで辿ると本来は「仮のもの」という意味ではなく「本質的なもの」みたいな言葉だった、と書かれていたと思います。たとえばアフリカの彫刻師たちが素材となる木を見ただけで、そこから将来何が彫られるのかが見える、と言うんです。だから彫りたいものがあったらそれにあわせて木を選ぶ。その既に見えている状態がバーチャルなんだと。
だから今現在まだ目に見えていない、不可視なものなんだけれども、そこに潜んでいるものとしての感覚というのがバーチャルである、というのはすごくしっくりきました。COSMIC LABも「可視と不可視の交差」というテーマが根底にあって、不可視なものを可視化していく面白さこそに、自分たちはモチベーションを感じるんです。だからもともと「流行りのバーチャルなものを作ろう」と考えていたわけではないけれど、実際すごく近い場所にあったんですよね。
自分たちも作品やパフォーマンスを通じて、限定的になにかを顕現させて、それを体験した人が何か普段と違う感覚、認知を得て、それがまた消えてなくなって日常に戻ったとしても、そのとき感じたことは当然残っていく。感覚がアップデートされるわけで、それ自体バーチャルな体験だと思うんです。だから映像もそうだしイベントもそう。特に自分が一番影響を受けた「バーニングマン」も完全にそうなんですよね。
―― アメリカ・ネバダ州の砂漠のど真ん中で開かれる“奇祭”ですね。
コロ:僕のVJの根幹はそこにあるんです。たしか1998年から2008年あたりの10年間、毎年バーニングマンに行っては完全にヤラれて帰ってきて、持ち帰ってきた衝撃をどうすればVJや自分で主催するイベントに落とし込めるのか、という実験を繰り返していたんです。
今は少し変わってきたみたいですが、そもそもあのイベントは日本で想像される野外フェスとはまったく違うもので、ある種の社会実験というか、シミュレーションみたいなものなんですよね。誰も商売をしちゃだめで、つまりお金が使えないので物資はすべて用意するか、誰かと交換しなきゃならない。1つの文明が終わって、そういう状況からどういうふうにしてサバイブしていくのか、ロールプレイングゲームみたいな感じで1週間を過ごすんです。
だから参加している1週間は、現実空間ではありつつバーチャルなルールやロール(役割)を体験をするんですよ。これ以上続けると多分発狂しちゃうなって感じになるんですけど、その感覚を引きずりながら、現実の世界に戻って一年間生活して、来年、続きの1週間をまた体験するんです。
―― なるほど。ZEROTOKYOへの関わりを含めて一貫性があったんですね。最後にCOSMIC LABとして今後ZEROTOKYO/Zepp Shinjuku (TOKYO)での予定などはありますか?
コロ:さっきもお話した大沢伸一さんとのオーディオ・ビジュアルイベント「IN VISIBLE」の第1回が12月28日にあります。オーディオ、ビジュアル両方からZEROTOKYOのシステムをフルに活用したものになるので、ぜひ体験しにきてください。
あと、2024年の4月1日にデトロイト・テクノのパイオニアとして知られるジェフ・ミルズの「THE TRIP / Enter The BlackHole」公演を主催し、ライブヴィジュアルのディレクションとパフォーマンスをします。こちらはZeppの時間帯にやるのですが、ジェフにも一度現地を視察する為に来日してもらい、この会場ならでは表現や技術を想定した書き下ろし作品のパフォーマンスを行います。こちらも会場のスペックを極限まで引き出すつもりなので、是非多くの方に体験して貰いたいです。
『IN_VISIBLE』
ZEROTOKYOの圧倒的没入空間で音と映像と照明を究極までシンクロナイズさせて全感覚を拡張させるイベント「IN VISIBLE」を大沢伸一とCOSMIC LABの企画によってスタートする。
ShinichiOsawa x COSMIC LAB 、どんぐりず x Kezzardrixの二組によるこの日限りのオーディオヴィジュアル・ショウケースが実現。
照明と音響にも最高峰のメンバーが揃い、ZEROTOKYOのポテンシャルを存分に発揮して、可視と不可視の世界が交わる究極のA/Vパーティ”IN-VISIBLE”が出現する。
OPEN 21:00
DOOR:¥3500- ADV:¥3000-(優先入場付き)
整列開始:20:00