来場者を「引き寄せる」ことが難しい「危険な小間位置」とは?
5回目となる今回は、少し視点を広げて会場全体のデザインの在り方についてお伝えしてみたい。本稿は、展示会ブースについてお伝えしている内容だが、この内容は一般的な店舗にも通用する考え方だ。
これまでの話の中で、慣習的に「いやいや、それは絶対ダメでしょう」と考えられていたものが、来場者の心理を起点に考え直して工夫を加えると、集客効果を高める有効な手段として考え直すことができる、という事実を解説してきた。今回のテーマは、「会場通路」。
「前面通路が広いと多くの出展社が集客に苦戦する」
このことについて話を進めていこう。これは、日頃出展社に寄り添い、出展をサポートしている経験値の高い方であれば、「そうそう、その通り!」と、共感してくださることだろう。
多くの出展社は、通路幅の広い大通りにブース位置が決まると、「良い場所に決まった」と喜ぶはずだ。「見通しも良く、目立ちそうな位置だ。会場の中でも主要なエリアに入るようだし、今回の小間位置はなかなかいい・・・」。きっと、このように感じることだろう。
しかし、ブースを設計している立場から言えば、そのような通路が広い箇所は「危険な小間位置」、となる。
なぜだかお分かりだろうか。
「広い通路」に面するブースは、来場者を「引き寄せる」ことが格段に難しくなるからだ。

「つかまりたくない」という来場者の心理
展示会ブースを考える際に、基本として押さえておいてほしい「前提条件」がある。それは、来場者は基本的に「つかまりたくない」と思いながら会場内を歩いている、という点だ。興味を持ったブースにはもちろん近づくが、限られた時間、全てのブースに立ち寄るわけにはいかない。
この心理は我々が商業施設で買い物をする時のことを考えると、容易に想像することができる。数ある店舗を巡る中で、「店員に近づいて来てほしくない」、そう考えてしまう。そんな経験はほとんどの方がしているはずだ。興味を持てば、店に入ろうとするが、そうでなければ素通りをする。ましてや、店員が待ち構えていたら、声を掛けられないように遠巻きに歩くことさえすることだろう。
このことは展示会の会場でもまったく同じ、と考えていい。限られた時間内で会場を回ろうとする来場者にとって、自分が興味を持ったブースには近づくが、そうでないブース、何を扱っているのかが分からないブースには近づくことはない。
商業施設内の店舗の場合はスタッフが教育を受けている場合が多い。待機方法や声を掛けるタイミングなど、自然な形で不快感なく失礼のないようにお客様に話しかける訓練を受けている場合がほとんどだ。
しかし、展示会ブースに出展する出展者のほとんどは接客の訓練は受けていない。余程接客に慣れている人でない限り、ほとんどの出展者は自社ブースの前に立ち尽くして待ち構えている、という光景が展示会場には広がることになる。
通路の真ん中付近を歩く来場者
「つかまりたくない」と考える来場者。そのように考える彼らの行動がどのようなものになるかを想像してみてほしい。
ブースの前には出展者スタッフが待ち構えて並んでいる。中にはブース内部で待ち構えているところもあるだろう。それらが目に入る来場者は、「ブースから離れた位置」、つまり通路の真ん中付近を歩くことになる。仮に通路幅が7mあるようであれば、ブースから3.5m離れた辺りを歩く、という感じだ。ここまでお話しすると、「広い通路は集客が難しい」の意味がご理解いただけるのではないだろうか。そう。ブースから通路の真ん中までの3.5m。この距離を来場者に詰めてもらう、ブースに近づいて来てもらうことが、実は相当に難しいのだ。
例えば、出展者ブースの通路際に展示台が置いてあり、そこに気になる商品が置いてあったとする。もし、通路が狭く、結果として来場者がそのブースの「すぐ前」を歩くことになれば、おそらく多くの人がその「通路際に置かれた商品」に目をやり、手に取り、立ち止まってくれることだろう。しかし、3.5mも先にある展示台に商品が置かれてあっても、簡単には寄ってきてはくれない。おそらく、「ものすごく気になった時」にだけ、3.5mの距離を詰めてブースに近づいて来てくれる、という程度だ。
さらに、ブースの前を来場者が歩く時間(通り過ぎる)を考えてほしい。1小間や2小間だと間口が3m~6m。ほんの数秒で通り過ぎるはずだ。その数秒で、「何を扱っているのかを理解し、それが自分にとってかなり興味を持つもの」であることを認知するためには、それ相応のブースのつくり方、商品陳列の仕方をしなければいけない。
これが、広い通路に面して小間位置が決まった際に、出展者が集客に苦しむことになる一般的な構造となる。

広い通路での集客対処方法
では、このような「広い通路」前にブースが当たってしまった場合にはどう対処すればよいのだろうか。
このような場合、まずは広い通路の中央付近を歩く来場者がどうすれば自社ブースに近づいて来てくれるかを考えなければいけない。つまり、「ものすごく気になるようにする」ことだ。
そのためには、まずは「何を扱っているブースなのか」「どんな商品なのか」を遠くから見えるように大きくはっきりと記載することが重要だ。曖昧で抽象的な言葉ではなく、はっきりと明確に扱っている商品とその特徴を記載する。
人を集めるためには、「言葉の記載」は想像以上に重要だ。商品が溢れかえる今日、商品を見ただけではその用途、機能や特徴等が分かりにくいものが想像以上に多い。物が少ない時代であれば、どんなものであれその商品を置いておくだけで人を集めることができたが、現代では「それが何で、どんな特徴があるのか」を瞬間的に伝える努力をしなければ、人を引き留めることは難しいと思っていいだろう。特に展示会場には様々な商品が会場内に並び、来場者は限られた時間内で会場を回ろうとしている。分かりやすく明確な「言葉」の記載は、必須であり、特に今回の場合は、「遠くからでも視認できる」が絶対的な条件となる。

その他、言葉以外にも施すべき手法をお伝えしていこう。
まず、ブース自体の存在感を高めるために、色を付けたり、壁面全体に写真等のグラフィックを施すことも有効だ。この場合、会場全体や自社ブースの周囲にどんな色のブースが多いのかをあらかじめ想定しておくことが大切だ。展示会は業種によって比較的多い「色」の傾向がある。例えば、産業系であれば青や紺、赤や黒などだ。また、食品系であれば赤・黄などの暖色系が多い。これら、「比較的」多い色のブースから差別化ができるような「敢えて目立つ色」を選択すると、強い存在感を出すことができる。当社の場合、敢えてピンクや蛍光色を使うこともよくある。


次に展示物を見てみよう。レイアウト的に通路際に展示台を置くことは必須になるが、その展示台上に置くべき商品は、「新商品」とは限らない。通路際の展示台に設置する商品は、まずは「遠くを歩いている来場者」が気になって「寄ってみたくなる商品」であることが望ましい。例えばカラフルなもの、変わった形のものなどだ。「あれは何だろう」と思っていただき、つい寄ってみたくなる。このように感じてもらうことが大切だ。新商品は前に出さなくても、「引き寄せ用商品」で引き寄せた後に誘導するよう仕向けるといい。
また、このような「通路際の展示台に置いた商品」は、「滞留時間」が延びるようになっていればさらにいい。例えば、見るだけではなく、触ってみる、体験してみる、といった機能を持たせておくと、その場にいる時間が延び、ブースの前が常に来場者で賑わっている状況をつくることができる。そして、それがその他の来場者を引き寄せることに繋がる。



このように、通路が広い小間位置に自社のブース位置が決まった場合には、「良い位置になった!」と安心をすることなく集客に対する危機感を持ち、まずは「いかにして、遠くを歩く来場者を自社ブースに引き寄せるか」を全力で考えることが、展示会出展の成功につながる。
出展者満足度を高める「会場構成」とは
では最後に、視点をさらに広げて、会場全体の通路、会場構成について言及をしておこう。このことはどちらかと言えば、展示会主催者や展示会設営会社に向けた話となる。
今回の記事のように、ブースデザイン的な視点、出展者の「集客的な視点」から言えば、「広い通路」は安易に採用するべきでない、設けるためには慎重に考えなければいけない要素だということが分かっていただけたことだろう。
とは言え、実際には避難動線の確保等の諸条件からどうしても設けなければいけないケースが発生する。このような場合、広い通路に面するブースは比較的規模の大きなブース、具体的には4小間以上のブースを配置することがよい、と感じている。広い通路の前に、1小間や2小間のサイズのブースを設置すると、ブースサイズ的に引き込み要素が少なくなりがちなため、集客に大きな影響を及ぼす可能性が高くなってしまう。一方、比較的大きなブースだと、高さも高くすることもでき、奥行もあるため、存在感が増し、さらに「何かがある」と思わせる強さが増すことになる。結果として通路の広さの不利をカバーすることが可能となる。
また、通路を広くした際の影響にはこのようなケースもある。
出展者が思いのほか集まらなかった展示会にありがちな光景だが、通路を広くしたり、大きな広場を設けるなどして、かなり「ゆとりをもった会場構成」になっている、という状況だ。
来場者目線でみれば、一見ゆったりとした会場でゆっくりと話ができるよい環境なのだが、現実的には、先に述べた本稿のような状況となり、集客に失敗してしまう企業が多く発生してしまうことになる。
集客に失敗する出展者が増えると出展満足度が下がり、出展者が減ることに繋がる。結果、来場者も減ってきてしまう、という悪循環に陥る。
展示会の会場構成を考える際に優先すべきことは「出展者の成功」だと私は常々考えている。出展者が出展に成功すれば、出展満足度は高まり、結果として出展者が増加することにつながる。そして、出展者が増えれば来場者も必然的に増えてくることだろう。
この観点から考えれば、出展者が集まらなかった際には、会場にゆとりを持たせてただ広い会場構成にするのではなく、会場の「全体面積」を小さくしてでも、広すぎる通路の数を極力少なくすることが、大事なこととなる。もちろん、多くの来場者に不快感を与えるほど狭い会場にすることはいかがなものか、と思うが、多少の「にぎわい」を出す程度の広さ(狭さ)を確保することが出展者の集客成功、ひいては「展示会成功」のコツだと実感している。その観点からも、会場構成を検討する際には、通路の広さと出展者小間の関係を慎重に考えたものでなければならない。
以上、ブースデザインの観点から考えれば、会場構成についても様々な工夫・改善の可能性があることが感じられたのではないだろうか。これまでお伝えしてきたように、「それはだめでしょう」という慣習のような考え方も、来場者目線から捉え直して工夫を加えると、実は集客効果を高める手法となり得る場合がある。
展示会業界は今、変化のタイミングに来ていると感じている。そして、それは店舗集客についても同様なのではないだろうか。私は展示会のこのような集客手法は、店舗にも応用できるのではないか、と常々感じてきた。今回の一連の連載に記載してきた内容は、展示会を店舗に置き換えても適用可能なものばかりだ。展示会・店舗・ショールーム等、様々な意味で、商空間は今、変化の時代を迎えている。このような時こそ、これまでの「当たり前」を今一度見直してみてはどうだろうか。きっと、そこにそれぞれの業界が進化する可能性が隠れている。そう感じている。
この記事は、展示会情報メディア 「イベスル」 の掲載記事
「「ありえない」 ブースデザインの工夫」 を展示会業界外向けに加筆・調整したものです。

SUPER PENGUIN株式会社 代表取締役
展示会デザイナー/一級建築士
1970年生まれ。一級建築士。大学で建築を学び、ゼネコンにて設計業務に携わる。独立後は、インテリアデザイン事務所として「ディーコンセプトデザインオフィス」を設立。その後、展示会ブースに特化した空間デザイン会社「スーパーペンギン」に組織変更を行い、展示会のブースデザイン専門の空間デザイン会社として業務を特化する。徹底した「来場者心理」を軸にした空間デザインの手法によりブースを構築。ブースデザインに加え、商品陳列手法、キャッチコピーの考案、会期中の立ち方・待ち方、DMの送り方に至るまでの展示会サポートの姿勢は、「デザイナーというよりコンサルタント」との評もあり、デザイナーによってキャッチコピー・商品陳列・立ち位置の設定まで行うのは、日本において唯一と考えられる。これまでの経験を基にした展示会セミナーは常に「満足度100%」を達成。現在、全国の自治体・中小企業支援団体だけでなく、多くの展示会主催者、代理店、設営会社等展示会業界関係企業までにも行っている。代表的な実績として、ギフトショーにおける「石川県産業創出支援機構ブース(石川県ブース)」「東京都中小業振興公社ブース」など、自治体による集合ブースが業界内で認知されている。いずれも、地方自治体が地元も企業を支援する出展形式のブースとなっており、ブースデザインだけでなく、出展対策セミナー、個別のディスプレイ指導を含む総合的な出展支援は、展示会業界でも類を見ない支援方法として、全国からの問い合わせが増え続けている。2023年に著書「集客できる展示会ブースづくり」を発刊。
SUPER PENGUIN株式会社
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