EVENT | 2024/10/08

「3日間で小説を作り上げるからこその熱量がある」
3拠点同時開催する“NovelJam2024”の新たな挑戦

東京・新潟・沖縄で11月2日から3日間開催

聞き手・文:藤井創

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著者、編集者、そしてデザイナーが一丸となって3日間で1冊の本を完成させる「NovelJam2024」が、2024年11月2日から3日間、東京・新潟・沖縄 の3拠点で開催される。創作の可能性を広げ、出版業界に新たな視点をもたらす NovelJam2024 の主催者の一人である波野發作氏に話を聞いた。

参加申込みは こちら から。

NovelJam(ノベルジャム)とは何か

―― まず、NovelJam について詳しく教えてください。

波野發作氏(以下、波野):NovelJamは、端的に言うと、著者と編集者が二人三脚でダッシュして、3日間で1冊の本を発売するところまでやってしまおうという文芸ハッカソンです。基本的には著者2名に対して編集者1名という、スリーマンセル(3人一組のチーム)のパターンを取ることが多いですね。ここにデザイナーが加わって、3種類の役割を束ねたチームとなることもあります。

このイベントの特徴は、企画立案から執筆、編集、そして出版までの全工程を3日間という短期間で体験できることです。通常の出版プロセスでは数ヶ月から1年以上かかることもありますが、NovelJamではそのエッセンスを凝縮して体験できるんです。

―― 3日間という短い期間で本を作るというのは、かなりチャレンジングに思えます。

波野:確かに3日間という時間だけを聞けば短いと思うんですけど、本質的な部分だけをタイムラグなしで抽出してデフォルメをして揃えた場合、3日間だとしても、実際に出版する本のエッセンスの部分に関しては、実はどの本もそんなに変わらないと思います。

例えば、NovelJamでは基本的に1万字の小説を書くことを目標にしています。これは約40ページくらいの本になります。通常の出版プロセスでは、他の仕事や試行錯誤、企画の検討、下調べなどの時間がたっぷりあります。でも、これらの時間を除けば、実は3日間くらいしか我々は本質的な作業に時間を使えていないんじゃないかという仮説に基づいているんです。

―― 短期間での創作にはどのようなメリットがあるのでしょうか?

波野:最大のメリットは、創作の熱量をそのまま維持できることですね。気が付いた時には終わってるというように熱を保てるんです。いわゆる締め切り直前の缶詰状態を全員で一気にスタートでやりましょうというようなところがあります。

また、この短期集中型の創作では、参加者同士の化学反応も期待できます。著者、編集者、デザイナーがそれぞれの得意分野を活かしつつ、お互いの意見を採り入れながら作品を作り上げていくんです。例えば、著者が思いもよらなかった方向性を編集者が提案したり、デザイナーのアイデアによって作品の魅力が何倍にも膨らんだりすることがあります。

3拠点での開催:新たな挑戦

―― 2024年のNovelJam は3拠点で同時開催されると聞きました。この新しい試みについて教えてください。

波野:はい、2024年は東京、新潟、沖縄の3拠点で同時開催します。複数拠点で同時にリアル進行っていうのは初めての試みなんですけども、一部参加者のリモートワークやオンライン開催などいろんなエッセンスは経験済みですので、おそらくうまくいくだろうと思っています。

この試みのきっかけは、2021年のNovelJam後に始まって昨年まで行われていた「阿賀北ノベルジャム」という新潟でのイベントでした。そこでの経験を活かして、今回は東京と新潟、そして沖縄を加えた3拠点での開催に挑戦することになったんです。

―― 地方での開催にはどのような意義があるのでしょうか?

波野:地方の活性化という点で、大きく2つの意義があると考えています。

1つ目は、メイン会場の誘致ができるということです。例えば、将来的には国体のように、メイン会場を毎回地方で持ち回りにするようなことも可能かもしれません。各県代表でチームを作り、47か所同時開催でゴールを目指すというような大規模なイベントに発展する可能性もあるんです。

2つ目は、お題をご当地ネタで出せるという点です。例えば、地域の特産物とか今売り出したい特色なんかをテーマにすることで、それに関わる物語がいっぱい作られるということですね。これは地方の宣伝にもなります。実際に、物語から派生してその土地が「聖地化」して観光資源になるということもあり得るんです。

新潟では独自のテーマを設定する予定ですし、沖縄からも地元の特色を活かした作品が出てくることを期待しています。

AIと創作の共存

―― AI技術の進展が著しい中、NovelJamではAIの使用についてどのようにお考えですか?

波野:AI技術自体はまったく否定していません。むしろ、ある意味では歓迎しているとも言えます。私はAIをモータリゼーションと同じような意味合いで捉えています。つまり、歩くことしかできなかった人類が自動車の発明で速く移動できるようになったというようなことに近いものだと考えているんです。ただし、AIを活用する際には現行法に見合った使い方をしていただく必要があります。特に著作権に関しては慎重に扱わなければなりません。

AIの活用については、前述の「阿賀北ノベルジャム」ではAIをテーマにして、AIを活用して小説を書くという試みも行われました。多くの参加者は、プロットの構築や調査の時間を圧縮するためにAIを活用していて、文章そのものをAIに書かせてそのまま使うというチームはほとんどなかったようです。

―― AIの使用に関して、何か制限は設けていますか?

波野:今回のNovelJam2024では、AIの使用に関して特別な制限は設けていません。むしろ、AIと著作との良い関係を模索するテストベッドとしての役割も期待しています。

ただし、AIを使うにしても、やはり創作の本質は人間にあると考えています。NovelJamに参加する人々は、本を書きたいという強い思いを持っています。NovelJamは、AIはあくまでもツールの一つであり、創作の主体は人間であるという場になるのではないかと考えています。

参加者たちの多様性

―― 参加者の資格や条件について教えてください。どのような人がNovelJamに参加できるのでしょうか?

波野:基本的には、3日間(実質2日間)でゼロから1万字のものが書けるという自信がある人なら誰でも参加できます。これまでもプロの作家さんから、執筆経験のない人まで、本当に幅広いバックグラウンドの方々が参加されています。

ただし、編集者に関しては、まったくの未経験者と組むのはチームを組むことになる著者のことを考えると、さすがにきついかもしれないので、ある程度の経験を求めています。とはいえ、商業出版の経験がなくても、同人誌の編集経験があれば十分です。要は、やる気や著者に対する心構えがあればOKという感じですね。

―― 年齢や性別などは問わない?

波野:はい、そのとおりです。募集時に年齢も性別も聞いていませんし、会期中や会期後も特に問いません。過去の参加者の中には、最終的に性別がよくわからない人もいましたし、年齢もまったくわからないまま終わることも多いです。

この多様性こそが、NovelJamの魅力の一つだと考えています。さまざまなバックグラウンドを持つ人々が集まることで、思いもよらないアイデアや化学反応が生まれるんです。

クラウドファンディングの役割

―― NovelJam2024では クラウドファンディング を活用されていますが、その目的は何でしょうか?

波野:クラウドファンディングの主な目的は、著者の負担軽減です。NovelJamの開催費用の大半は審査費用や人件費、会場費などに関わるもので、現状ではその多くを参加者の参加費で賄っています。

クラウドファンディングで収益があった場合、その資金を著者の参加費の軽減に充てたり、当日の食事支給に使ったりすることを考えています。私たちはNPO法人なので、利益を追求するのではなく、すべての資金を著者のために使うことを目指しています。

また、クラウドファンディングには、イベントの継続性を支える役割もあります。多くの方々に支援いただくことで、次回の開催へのモチベーションにもなりますし、NovelJamという取り組みをより多くの人に知ってもらう機会にもなるんです。

―― 支援者にはどのようなリターンがあるのでしょうか?

波野:支援額に応じてさまざまなリターンを用意していますが、基本的には完成した作品を読んでいただくことが主なリターンになります。また、高額の支援者には特別なリターンも用意しています。ただ、あくまでも著者を支援するという気持ちで支援いただけるとうれしいですね。

短期集中型小説出版トライアルイベント「NovelJam 2024」開催ご支援
https://motion-gallery.net/projects/noveljam2024

NovelJamが目指す未来

―― NovelJamを続けていくことで、創作や出版業界にどのような影響を与えたいとお考えですか?

波野:NovelJamは、出版全体を俯瞰できる、いわばミニチュア出版なんです。通常の出版プロセスでは、それぞれの立場でのものしか見えていないことが多いのですが、NovelJamでは企画のスタートからリリースして売り上げを見るところまで全部自分たちでやります。

このミニチュア体験を通じて、より多くの人が出版全体を俯瞰することができるようになれば、出版業界全体にも新しい視点がもたらされるのではないかと期待しています。

また、出版不況が言われている中で、本づくりが他人事になっているという現状があります。NovelJamの体験を通じて、本づくりをより身近に感じてもらえれば、出版業界全体の活性化にもつながるのではないでしょうか。

―― NovelJamの参加者たちのその後の活動について教えてください。

波野:NovelJamの参加者の中から、プロの作家としてデビューした人もいますし、コミカライズの原作を担当したり、ゲームシナリオの原作を担当したりする人も出てきています。また、SF関係の商業短編集に名前が載るようになった人もいます。

ただし、これらの方々は元々それなりの実力を持っていた方が多いので、NovelJamがきっかけになったというよりは、NovelJamでの経験が何かしらの糧になったのではないかと思います。

――最後に、NovelJamに興味を持った人へのメッセージをお願いします。

波野:NovelJamは、単なる小説を書くイベントではありません。それは、自分の限界に挑戦し、新しい可能性を見出す場所です。3日間という短い期間で本を作り上げるというプロセスは、確かに大変かもしれません。しかし、その過程で得られる経験や気づき、そして仲間との絆は、かけがえのないものになるはずです。

特に、「本を書いてみたいけど、なかなか踏み出せない」という方にこそ参加してほしいと思います。NovelJamは、そんな方々の背中を押す絶好の機会になるでしょう。また、すでに執筆経験がある方にとっても、新しい創作スタイルを試す良い機会になると思います。

そして、編集やデザインに興味がある方にも、ぜひ参加していただきたいです。著者とともに1冊の本を作り上げる過程は、きっと新鮮で刺激的な経験になるはずです。

NovelJamは、参加者一人一人の熱意と創造性によって成り立っています。皆さんの参加を心からお待ちしています。一緒に、新しい文学の形を探求し、出版の未来を切り開いていきましょう。


NovelJam 2024 開催概要
日時:2024年11月2日(土)~2019年11月4日(月) 10時~17時
(東京会場は21時まで、最終日は15時に閉会式)
場所:東京都江戸川区、新潟県阿賀北地域、沖縄県名護市
定員:著者16名(編集・デザイナーの人数による)、編集者8名、デザイナー5名~8名(応募多数の場合、事務局にて選考を実施)

参加要項、注意事項、参加申込みなどはこちら
https://www.noveljam.org/2024/08/10290/

参加申込みはこちらから
https://www.noveljam.org/2024/10/10311/