CULTURE | 2023/12/25

「Bondee」「生成AI」「歌舞伎町タワー」からFINDERSの2023年を振り返る(編集部・赤井編)

文:赤井大祐(FINDERS編集部)

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国内外ともに嬉しいニュースの少ない一年だった。世界情勢は最悪と言いたくなる状況が続いているし、国内の政治や経済に対してポジティブな印象を残した人はほとんどいないだろう。だが、そんな中でもひとつひとつの仕事や生活に目を向ければ、アイデアと探求、そして愛情に溢れた豊かな世界が広がっていることもまた疑いようがないと感じるばかりだ。

本記事では2023年に「SNS」「クリエイティブ」「まちづくり」の3つの軸から記事をピックアップし、1年を振り返りたいと思う。

荒れに荒れたTwitter(X)と新たなプラットフォームの行方

クリエイターから人気を集めるアバターSNS「Bondee」ってなんだ。ざっくり解説&使ってみた

正直に言えば、ほとんど記憶から消えていたも同然だったアバターSNS「Bondee」。もはや懐かしいを通り越し、いつの出来事だったか思い出せないほどだったが、ブームとなったのは今年の1月のことだ。これまでのSNSや類似サービスとは違う今っぽいデザインや小規模なコミュニティに特化したこのSNSに幾ばくかの希望を感じた私たちだったが、今となってはTwitter(現X)上の話題の一つに過ぎなかったことに気づいた。そしてTwitterで「話題」となる以上、「消費」を避けるのはもはや困難である。気づけば私たちはイナゴとなっていたわけだ。当のTwitterもイーロン・マスクによって「X」と名を改め、有料プランである「Xプレミアム」やインプレッション数に応じた収益化プログラムを導入しマネタイズの改善を図っているが、インプレッション稼ぎのみを目的とした自動/手動のスパムアカウントが大量に現れ、イナゴがイナゴに食われるという目も当てられない状況が続いている。そして12月21日に発生したサービス障害時には、「Twitterサ終(サービス終了)」という、もはやユーザーの集合的無意識が生んだ願望としか思えないワードがトレンドを飾った。

一方で、MetaはInstagramと紐づいたTwitter型のSNS「Threads」を7月にリリース。サービス開始2日で7000万人もの登録者数を獲得した。一時はすぐに減速していくと思われたが、『Engadget』によれば、10月26日時点でのアクティブユーザー数は世界で1億人程度ということから「Twitter以外」の新たなSNSの可能性を示したといえるかもしれない。そんな中で、「絶対に流行らない」という触れ込みの新SNS「state(ステイト)」をリリースした、テクニカルディレクター・コレクティブ「BASSDRUM」の清水幹太氏をFINDERSでは取り上げた。「state」は投稿のシェア機能やフォロワー数の確認機能などを廃することで「拡散しない」「言論空間とならない」「炎上しない」緩やかなSNSだ。誰かの何気ない生活に思いを馳せるのどかな環境でいて、清水氏の哲学が確かに反映された特殊なSNSとなった。

ものづくりは誰のものか。AIに対峙するクリエイター

ChatGPTはコピーライティングや企業分析に使える?広告業界でのChatGPT活用事例を聞いてみた

2023年は「生成AI」が一気に普及した年だった。中でも「ChatGPT」は複雑な情報の整理、コーディング、詩や物語を含むさまざまなタイプのテキスト、「思考」とも取れるアイデアや助言を無限に生み出し、まだまだ使い方の模索が続いている状況。デジタル系広告会社、アナグラムの小山純弥氏はコピーライティングの案出しなど、かなり実用的な使い方を模索しながら、社内では「AIは敵ではない」というような普及活動にも務めているという実践的な一例を伺えた。

他にもChatGPT登場前夜に盛り上がっていたのが「Stable Diffusion」「DALLE2」といった画像生成AIだ。こちらも現在さまざまな活用が進んでいるが、中でもFINDERSとして注目したのは、アドビによる商用利用を前提とした生成AI「Adobe Firefly」のリリースだ。「Adobe Firefly」はAIの学習用データを自社で用意したものに絞ることで、生成AIを利用する上での一つの懸念であった「学習元データの著作権をどのように扱うべきか」という問題をクリア。すでにデザイン実務への利用は進んでおり、着実にAIの普及を進めている。

AIを使った「クリエイティブ」を語るうえでたびたび目にしたタイプのコメントがある。「AIによって面倒な事務作業が減ると思っていたが、実際はクリエイティブな作業がAIに取られてしまっただけではないか」といったものだ。一理あるようにも思えるが、実際のところどうなのだろう。これに関しては今年行った2つのインタビューが印象に残っている。

SNSには載らない デザイナーたちの「秘密の本音」。 41人が寄稿した『私的デザインの現在地』が示す場所

一つはよりデザインを主催するデザイナーの吉武遼氏へ行ったものだ。41人のデザイナー、デザイン関係者の「デザインとは◯◯かもしれない」という見解をまとめた自主制作の書籍だ。Figmaをはじめとする開かれたデザインツールの普及がもたらす「デザインの民主化」、つまり技術を持たない素人でも「ある程度」のデザインができてしまうという状況は、一見してデザイナーたちにとっては不利な状況を生みかねない。ところが、「それ自体はデザイナーにとって重要ではない」と語ってくれた。

それよりも重視すべきは「デザインへ向き合う姿勢」だという。つまり実際にどんなデザインが生まれるか、という部分と同じぐらい、自分の中に「デザイン」という行為をどのように位置づけ、それをどう達成していくのかがデザイナーにとって大切なのだ。これを吉武氏は41人の回答を一冊にまとめるなかで感じたというのだ。であればデザインに向かうその主体は自ずと「自分」になるはずだし、AIは仕事を奪い合う敵同士ではなく頼れる道具としてその価値を見出すことができるはずだ。

in the blue shirtが模索する 創作活動の"続け方" 「もっとみんなに、音楽を作ってほしいんですよ」

in the blueshirtの名で活躍する音楽家の有村崚氏へのインタビューでは、音楽などの「創作活動を続ける方法」を伺った。「創作」は必ずしも楽しいだけではない、という部分に趣味、あるいは仕事になる前段階での難しさがある。仕事と違って外圧がかかりづらいため、思うような制作ができなかったり、誰かと比べてしまったりと、モチベーションを折る要因はとても多い。有村氏はそういった要素を事細かに分析し、「続ける」ための具体的なアイデアや方法を共有してくれた。

先に紹介した悲痛なコメントからも分かる通り、AIは私たちの「モチベーション」を奪うには十分な存在だろう。要不要という基準で考えればなにも苦い思いをしてまで創作を行う必要なんてないかもしれない。しかし、創作を通じて得る喜びが、なにかに代替されることはない。作品を作りそれに友人やネット上の誰かが「いいね」と一言くれると、不思議な嬉しさがある。そしてこれこそ、大きなモチベーションになる、と有村氏は言う。

小さなまちづくりの現場から

2023年はリアルな場でのコミュニケーションが戻り、ようやく本格的な「コロナ明け」を思わせる年でもあった。そんな中でさまざまなタイプの「まちづくり」の現場を目にした。

なぜ3Dプリンターは「街づくり」と相性が良いのか。中都市・鎌倉の街で今起きる変化

慶應義塾大学SFC環境情報学部の田中浩也教授は、神奈川県鎌倉市にて、産官学連携のプロジェクト「リスペクトでつながる『共生アップサイクル社会』の共創拠点」を実施。おもに3Dプリンターを使い、その街に合った特注のベンチや公園遊具などを製作・設置した。そこで使われた材料は、鎌倉市の街で出たプラスチックごみなどを3Dプリンターに使う材料であるペレットへ作り直したものであり、同時にプラチックを分解する微生物の研究も行っている。無闇に施設を作ったり制度を導入したりせずに、鎌倉市の市民のマインドを「消費者」から「循環者」へと変えることを目指した「まちづくり」だ。

官民連携で中目黒のまちを育てる新拠点「フナイリバ」が生み出すまちづくりの新機軸

FINDERS編集部が拠点を置く中目黒では、一般社団法人ナカメエリアマネジメントによる「フナイリバ」の取り組みを取り上げた。何年も放置された目黒区所有の建物や広場を民間に貸し出し、民間で新たなビジネスやイベントを立ち上げ運営するというもの。前例主義の役所が制度を取り入れることで柔軟に動き、巷で思われるような「おしゃれな街」的な側面だけでなく、商店街が根付き、老若男女が暮らし、多くの人が働く、地に足の着いた中目黒像を知る機会となった。

歌舞伎町タワーと味園ビル。 東西の「バーチャル空間」はどのように生まれたか |C.O.L.O(COSMIC LAB)

新宿・歌舞伎町では、4月に東急歌舞伎町タワーがオープン。その地下に生まれたのが、新宿エリアには珍しい大型のライブハウス/クラブのZEROTOKYO/Zepp Shinjuku (TOKYO)だ。これまでになかった、大規模な映像・照明による演出を行える設備が売りで、それを制御するシステムの導入を担当したライブ・ビジュアル・ラボラトリーCOSMIC LABの代表であるC.O.L.O(コロ)氏にインタビューを行った。COSMIC LAB拠点を置く、大阪・味園ビルの余りに異質な歴史と空間で培った知見が存分に生かされたZEROTOKYOには、新しいカルチャーが芽吹き、歌舞伎町、新宿という街そのものへと影響を及ぼしていくかもしれない。