デザイナーや映像クリエイターたちの強い味方であるアドビ製品。使い慣れていると思いきや、「こんな機能知らなかった」「この機能こんな使い方できたんだ」といった発見も多い。特に近年のAIを用いた機能の進化は目まぐるしく、追いきれてない人も多いハズだ。
Adobe Creative Cloudのツールに搭載されたAI、「Adobe Sensei」を使った便利な機能を紹介する連載「教えて!Adobe Sensei」も今回で第4回。おなじみ案内人は、Adobe Creative Cloudエバンジェリストとして活躍する仲尾毅さん。
今回のテーマは「Adobe Firefly」。先日発表されたアドビ発の画像生成AIであり、現在はベータ版に自由にアクセスできるモノだが、果たしてこのFireflyとは何なのか?他の画像生成AIとの違い、将来的にはどんな形でAdobeのツールに実装されるのか?仲尾さんにわかりやすく解説していただいた。
仲尾 毅
Creative Cloudエバンジェリスト
2012年、Creative Cloud登場と共にアドビ入社。Creative Cloudの伝道師として、Adobeの最新技術・製品・サービスの訴求と移行促進に従事。クリエイターにとってメリットのある最新情報をいちはやく伝える。
Twitter @tsuyon
構成:白石倖介
画像生成AIはクリエイターの「副操縦士」
今回は「Adobe Firefly」について。この連載で取り上げている「Adobe Sensei」ももちろんですが、アドビは以前から、AIによって生産性を上げることに取り組み続けています。ユーザが入力したテキストに応じて画像を生成してくれる「ジェネレーティブAI」は昨今特に話題になっていますが、アドビとしてこうした新たなAI技術をどう位置づけていくのか?それをはっきりさせるためにも、今回「Adobe Firefly」を発表したという経緯があります。
「Adobe Firefly アドビ ジェネレ―ティブAI」より
アドビはこの「Adobe Firefly」を「副操縦士(コ・パイロット)」と表現しています。たとえばさまざまなクリエイティブ職の中でアシスタント的な役割をする方がいますよね。編集用の素材をまとめたり、文字起こしをしたりと、下準備の作業をする方。ビデオだと、編集マンが作業をする前段で、一生懸命素材を取り込んできれいに並べておいてくれる方ですとか。将来的にはAIが、こうした「クリエイティブにおける準備段階の作業」を肩代わりしてくれるような位置づけになるのかなと思います。なので、「AIがクリエイターの代わりになってくれる」というようなことを推進するわけではまったくないんです。クリエイターが本当にクリエイティブな作業を行う時間を作るために、もうオペレーション作業は全部「Adobe Sensei」なり、「Adobe Firefly」がやってくれる、というのが将来的にアドビがイメージしている世界観です。
「Adobe Firefly アドビ ジェネレ―ティブAI」より
「Adobe Firefly」は今後、単一のアプリケーションが提供されるわけではなく、「Adobe Sensei」と同様に、アドビが提供するさまざまな製品やサービスの中に組み込まれていきます。今はブラウザ上で動かせるベータ版を提供しており、多くの方に触っていただき、そのパワーを体験してもらえるようになっています。さっそくベータ版を使いながら、「Adobe Firefly」で何ができるのかを見ていきましょう。
一瞬でテキストにエフェクトをかける
それではベータ版で提供されている2つの機能について紹介していきましょう。まずは「Text effects」で、テキストにエフェクトを掛けてみます。
「Adobe Firefly」のベータ版の画面です。画面下部左側の「Enter Text」と書かれているテキストボックスに、これからエフェクトを掛けたいテキストを入力し、その右側には掛けたいエフェクトの質感を入力します。この画面では「Enter Text」に「Firefly」を、掛けたいエフェクトに「many fireflies in the night, bokeh light(多くのホタルが飛ぶ夜、ボケ感のある光)」を指定しています。テキストベースで命令文を入力するだけで、かんたんにリッチなエフェクトが生成できるんです。
エフェクトごとにパターンを選ぶことも可能
「Enter Text」に「FINDERS」と入れた画像をいくつか作ってみました。チョコレート風、Gold風、レンガブロック風、水しぶき風、杉の木風……まったく違う質感のエフェクトを瞬時に生成できるので、「複数の案を出す」といった作業には強力に活用できるはずです。
テキストから画像を生成
続いては「Text to image」です。命令文を入力するとそれに応じた画像を生成してくれる機能ですね。多くの方が「画像生成AI」と聞いてイメージするのはこちらではないでしょうか?
先ほどと同じように命令文で画像を作ってみました。文章は「happy big cat in the space, with smartphone or tablet, pastel style(宇宙で喜んでいるネコとスマートフォン、またはタブレット。パステル調)」というものです。情報過多な命令文ですがちゃんと生成してくれました。画面左にある「Content type」や「Styles」の指定を変えると、絵のテイストもガラッと変わります。
「Recolor Vectors(ベクターアートの再配色)」
最後は、4月21日にベータ版に実装されたばかりの「Recolor Vectors(ベクターアートの再配色)」という機能です。アドビの製品では主に「Adobe Illustrator」で使われる「ベクターアート」ですが、ベクターデータはピクセルデータと違い拡大・縮小に制限が無く、デザインの製作には欠かせないものですね。
「Adobe Firefly」にSVGファイルをアップロードし、テキストで要望を伝えると、色やカラーパレットのバリエーションを生成し提案してくれます。上の画像ではネコのベクターアートをアップロードしたうえで「Salmon sushi(サーモンの寿司)」と入力しました。ピンクやオレンジを基調にしたパターンが生成されています。また「shuffle colors」ボタンを押せば、カラーパレット内の色をランダムで入れ替えてくれますし、気に入ったものがあればそのままSVGファイルとしてダウンロードもできます。こうした作業においてはデザインが複雑になり、プロジェクトファイル内の要素が多くなるほど、ちょっとした色の変更もかなりの手間になるもの。突発的な追加注文への対応や、自分のデザインの幅を広げることにもぜひ使って見てください。
将来的には商用利用可能な画像の生成も可能に
アドビが提供するAI機能には、大きく2つの特徴があります。一つは「商用利用も可能な、著作権のクリアランスが整った画像を生成できること」です。現在提供しているベータ版も含めて、その学習データには「Adobe Stock」の画像や一般に公開されているライセンスコンテンツや著作権が失効しているパブリックドメインコンテンツを使用しています。Fireflyは他のクリエイターやブランドのIP(知的財産)を侵害するような学習は行いません。
そして2つ目は、「クリエイターへ対価を支払う仕組みを提供する予定があること」。従来「Adobe Stock」や「Behance」で行ってきたような、クリエイターが自身の作品を収益化できるような機会や仕組み作りを目指しています。詳細についてはアドビの発表をお待ちいただければと思います。
こうした技術が将来的にはアドビのあらゆるツールに導入され、統合されていくことになります。画像や映像の制作にはじまり、あらゆるクリエイティブに便利に活用できる機能だと思いますが、今から実際に触って仕組みを理解しておくと良いでしょう。ベータ版は現在も公開しているので、ぜひアクセスして使ってみてくださいね!