BUSINESS | 2025/03/31

ラジオは再び 「全盛期」 に?!
オールナイトニッポン統括Pが語るラジオの新たな可能性

冨山雄一氏インタビュー

聞き手:松浦シゲキ(コミュニケーションプランナー) 編集:坪井遥

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「オールナイトニッポン」 統括プロデューサーが語る、ラジオ復活の秘密

いま、ラジオメディアが新たな形で復活を遂げつつある。中でも、深夜ラジオの代名詞 「オールナイトニッポン」 は聴取率調査でラジオ全局同時間帯中首位を獲得。番組が企画したリアルイベントも20代を中心にリスナーを多く集めるなど、好調を極める。

同番組の統括プロデューサーを務めるニッポン放送冨山雄一氏は2025年1月、初の書籍 「今、ラジオ全盛期。」 を上梓した。今また “ラジオ全盛期” を迎えたと話す冨山氏に、radikoやSNSの登場がもたらしたもの、そしてラジオの到達点について聞いた。

「ラジオ全盛期」 という宣言に込めた思い

―― 改めてこの本、「今、ラジオ全盛期。」 に込めた想いを教えてください。

冨山:20年以上放送業界に身を置く中で、2つのことを感じています。1つは、テレビがアナログからデジタルになり、ラジオがradikoというアプリで聴けるようになりと、「見られ方」「聴かれ方」 がアップデートしていきました。一方で、いわゆる4マス、ひいては世の中の情報全体がインターネットによって呑み込まれたっていう風に感じています。

僕が中学生、高校生だった90年代は、新しいファッションとか音楽とか映画とかについて、(雑誌の) 「Hot-Dog PRESS」 とか 「東京ウォーカー」などで情報を得ていました。それがインターネットによってすべてが変わった。ニコニコ動画のようなところでカルチャーが生まれ、それをキャッチするのもネット。情報の生産流通が全部インターネットに呑み込まれていくのを体験してきました。

そうした中で、ラジオがどうやったら生き延びられるか、ずっと考えてきました。SNSで体験を同時に共有できるようになったり、イベントやグッズを通じてラジオの価値を再認識してもらったり、模索を続けてきたんです。その試行錯誤を言葉としてまとめておきたかったですし、ここ4、5年、ラジオが盛り上がってるよね、と言って頂くわれることへのトリセツ的なものを作りたかったのもあります。特にradikoの登場前、AMラジオしかなかった時から東日本大震災があった時期を書き留めておきたかったのもあるかもしれません。

ラジオ人気の復活と、新しい楽しみ方の出現

―― 冨山さんが考える、今のラジオが再び支持されている理由は?

冨山:今のラジオの聴かれ方には、2軸あります。

ラジオが流行していた1970、80年代に青春を送っていた50代から70代の人たち、ラジオを日常生活のお供として聴き続けてくれてきた方々が、まず多くいらっしゃいます。それにプラスしてradikoで楽しむ方が増えました。スマホネイティブな若い人たちが、アプリでラジオを聴くんです。タイムフリーで通勤通学の数駅間に楽しむとか、週末に好きな番組を聴くみたいな楽しみ方ができてきました。時計代わりに聴き流すのではなく、特定の番組をわざわざ聴くという聴き方です。

実はこれは多くの年代で広がっている聴き方でもあります。佐久間宣行さんが象徴的ですが、リスナーの年代別数値が10代から60代まで全部高い。放送が午前3時から4時半という深夜帯ですが、これまではその時間に起きてラジオをつけている人にしかリーチできなかったのが、時間を選ばず後から聴けるようになった。そうすると、10代20代のお笑い好きや佐久間さんのするエンタメの話が好きな人、(佐久間さんのYouTubeチャンネル) NOBROCK TVから入ってくる人たちもいますし、佐久間さんご自身の子育てだったり家族だったり仕事だったり、生き方の話に共感する30代以上の人も聴いている。

ひとつのラジオ番組を、いろんな年代の人がいろんな角度から味わえるようになったのが、最近の聴取傾向にある特徴かなと思います。

―― ラジオの新たな味わい方として、SNSについてはどうですか?

冨山:ラジオ番組のターゲットは、日本の全人口1億2000万人とか、テレビがやっているような100万人200万人でなく、5万人、10万人に届けに行く、狭く深くという方針になってきています。

そうしたとき、不思議と、1億2000万人に向けて発信していた時より人が集まってくる実感があります。これは、リアル店舗における 「行列」 と同じなんじゃないかと思うんです。

街を歩いていて行列ができているのを見ると、「何の行列なんだろう」 と気になったり、そこに売ってるパンがとても美味しそうに見えたりしませんか? そんな行列が今、デジタル空間においてはハッシュタグなんじゃないかと仮定しています。Xのトレンド欄を見ると、「ANN」 とか 「ANN0」 みたいな番組のハッシュタグが、毎晩毎晩上位に見えている。クリックしてみると、「生放送のラジオ番組をやっているんだ」 とわかる。そんなふうに、SNS上に行列が作れているのではと感じています。

コンテンツとしてのラジオの独自性

―― ラジオのコンテンツとしての独自性はどこにあると思っていますか?

冨山: ラジオ番組は、生放送が多いのでそこまで事前準備が出来ずに、やはりリアルタイムでどうなるかがわからないところが独自性なのかなと思います。

打ち合わせも台本もありますが、リスナーから届いたメールがあまりに面白いとかで、準備してたものが全部飛んでいってしまうことも珍しくないんです。そうすると、パーソナリティの本質っていうと変ですけど、人間性が見えるのが、ラジオのいいところです。

今の世の中って、インスタグラムが象徴的ですが、加工されたもの、映えを意識したものが多いと思います。加工品が全部悪いわけじゃないです。アーティストだったら音源やライブの演出、芸人さんだったらバラエティ番組とか、作り込まれてるものが多くて、それはそれでコンテンツとして成立しています。ただラジオは、「素」 に近いところに触れることができるのが独自性になっていると思います。

書籍出版の反響とこれから

―― 1月に本を出されてから少し経ちました。改めて感じていることは?

冨山:本を読んだ感想を一番いただくのが第2章で、自分としては意外でした。

第2章は、東日本大地震にラジオとしてニッポン放送がどのように向き合ったのかを書いたんですが、この部分の感想が一番多かったんです。

放送人としていくつもの自然災害やコロナの流行などを経験してきましたが、そういう有事が起きた時に、ラジオって一番皆さんの生活に寄り添うメディアとして存在意義がある。それを再認識しました。

その寄り添い方を、僕は元々のラジオが培ってきた経験と、radikoやSNSがもたらしてくれるデータと情熱の両方で模索しているのですが、それをこれからも続けていきたいと思います。


「今、ラジオ全盛期。」
著者:冨山雄一
定価:1738円(本体1,580円+税)
体裁:四六判 / 224ページ / 1色刷
ISBN:9784295410591
発行:株式会社クロスメディア・パブリッシング(クロスメディアグループ株式会社)
発売日:2025年1月31日

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