CULTURE | 2023/12/19

東大生が「3度目の正直」で最優秀賞を獲得、初応募の小学生に審査員驚愕、AIネイティブ世代の登場…「U-22プログラミング・コンテスト2023」最終審査会レポート

文:神保勇揮(FINDERS編集部)

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「他のコンテストならグランプリ級」の作品が集うハイレベルな戦い

22歳以下を対象に、プログラミングを用いてアイデアを形にする作品コンテスト「U-22プログラミング・コンテスト2023」の最終審査会が11月19日に行われ、各賞の受賞者が発表された。

同コンテストは、前身となる経済産業省主催のイベントから数えると40年以上の歴史を誇り、アート、AI、IoT、セキュリティ、プログラミング言語、ユーティリティ、学習&教育、コミュニケーション、ゲームなど、さまざまなジャンルの作品が集う。今年は310作品(応募者総数:1116名)のエントリーがあり、うち16作品が入選となった。

まずは最高賞となる、経済産業大臣賞は、「総合」「プロダクト」「テクノロジー」「アイデア」の4作品をご紹介したい。これは、応募作品を、「プロダクト」、「テクノロジー」、「アイデア」の、3つの評価ポイントにより審査し、総合的に優れた作品、各評価ポイントで優れた作品など、さまざまな観点で作品を評価し、各賞を選定するものである。

経済産業大臣賞 総合(※):AIシンセサイザー「OneSynth」
制作者:真家彩人
学校名:東京大学
※以下の3つのカテゴリ(プロダクト、テクノロジー、アイデア)の観点から見ても大変優れており、総合的にもバランスが取れている作品

<作品概要>
OneSynthは、ユーザーによるつまみ1つの入力を、Raspberry PiとAWS上で動作するAIによってFMシンセサイザーのパラメーター群の設定値に変換し、MIDI入力で演奏可能なFMシンセサイザーエミュレーターにその設定値をリアルタイムで送信・反映するシステム。つまみ1つという直感的なユーザーインターフェースを、難解なFMシンセサイザーのコンソールに橋渡しするAIシステムと言える。

経済産業大臣賞 プロダクト(※):数学好きのラクガキパズル
制作者:小林幸ノ心
学校名:小平市立小平第二小学校
※有用性・芸術性面で大変優れており、ビジネス展開できる可能性を秘めている

<作品概要>
グラフを変化させ、グラフ上のボールを転がしてゴールへ導くパズルゲーム。ゲームを進めていくと、様々なギミックが登場し、主人公の学生生活での成長の姿を見ることができる。

経済産業大臣賞 テクノロジー(※):cl-waffe2
制作者:小田悠真
学校名:市立札幌大通高等学校
※機能性・実装が大変優れており、作品制作にあたって高度な技術と知識を有している

<作品概要>
cl-waffe2はCommon Lisp上で動作する深層学習フレームワーク(例: 有名なPyTorchやTensorflowのような機能を提供)とそれに特化した行列演算ライブラリ(例: Numpyなど)で、特定のデバイスに依存しないとても抽象的な動作と、Lispの美しい機能を生かしたエレガントな使用感をユーザーに提供する。

経済産業大臣賞 アイデア(※):関数型のコンパイラ言語Yet
制作者:小林悠太
学校名:つくば市立手代木南小学校
※独創性面で大変優れており、制作者の今後の成長などが期待できる

<作品概要>
式だけで作れるシンプルでわかりやすい関数型のコンパイラ言語で仮想環境(自作)用の簡単な機械語にコンパイルする。ヴィジュアル環境で実行するためコンピュータで機械語が動く仕組みがわかる。

AIシンセサイザー「OneSynth」で経済産業大臣賞・総合を受賞した東京大学の真家彩人さんは、中学生時代から「音楽×テクノロジー」をテーマにした作品で各コンテストに応募を続け、U-22プログラミング・コンテストには3度目の挑戦で遂に最優秀賞を受賞するに至った。

また、「テクノロジー」を受賞した「cl-waffe2」を開発した小田悠真さんも「高校3年生の時間を受験勉強ではなくプログラミングに費やしてしまいました(笑)。結果が出るか不安でしたが、賞をいただけてうれしいです」と手応えを感じる受賞者コメントを発表。

「アイデア」を受賞した「関数型のコンパイラ言語Yet」を開発した小林悠太さん、「プロダクト」を受賞した「数学好きのラクガキパズル」を開発した小林幸ノ心さんのお二人はなんと小学生。実はこのコンテスト、小中学生が受賞することも珍しくないのだが、堂々としたプレゼンと内容には審査員も、ニコニコ生放送の中継視聴者も一様に驚きを感じていた。

今回、審査会終了後に行われた懇親会にて、審査員を務めた各氏に話をうかがい、その要約コメントも以下に掲載する。今回のコンテストがどれだけハイレベルだったかがわかると思う。

併せて、各受賞者の作品はネットで情報が公開されているものに関して、全て作品名の部分にリンクを貼っている。気になる作品があればぜひチェックしてみてほしい。

来年はどんな作品が応募されるのか、今からとても楽しみだ。

藤井彰人氏

KDDI Digital Divergence Holdings 代表取締役社長 CEO/IPA 未踏アドバンスト事業 プロジェクトマネージャー

「今年は本当にすごかったです。AIシンセサイザーを開発した真家さんは3回の応募を通じてずっと自分のやりたいことを探求してきたし、小学生コンビも、これまでのケースだと“プログラミング教育をやらせたい大人”が結構手伝っているんだろうなと感じることも正直結構ありましたが、2人とも質疑応答では技術の話もスラスラ答えられていたし、自分でちゃんと勉強していることがハッキリわかりました。cl-waffe2を開発した小田さんも独学でここまできたそうですし、意欲さえあればさまざまな知識を得られる、色々なことが実現できる環境も整ってきていることも大きいと感じました」

馬場保仁氏

ファリアー 代表取締役/日本工学院専門学校・日本工学院八王子専門学校 デザインカレッジ顧問

「僕はゲーム会社の代表ということもあり、ゲームを提出してきた子たちには『チーム制作の経験は積めたかもしれないけど、皆、個の熱量が足りない』と話しました。質疑応答でも個人制作の子と明らかに受け答えの話しぶりが違った。ですが、今回のコンテストはゲーム開発志望の専門学生たちにとっても、全く違うジャンルの子たちと出会い、競争する良い機会になったはずで、それは必ず今後の財産になると思います」

石戸奈々子氏

慶應義塾大学 教授/デジタルえほん 代表取締役

「今年は大谷翔平、藤井聡太のような“新人類”が生まれた年だと思いました。皆、突き詰める力がすごいですし、経産大臣賞に選ばれた4人は別のコンテストであれば全員グランプリが獲れるレベルです。誰に言われなくても、自分が興味を持てば小学生が高校・大学レベルの数学を勝手に勉強しますし、AIシンセサイザーを開発した真家さんも中学生時代からずっと音楽×プログラミングというテーマを追求してきました。ひとつの作品、プロジェクトを実行しようとすると、必ず自分が知らない分野も幅広く勉強することが必須です。新しい学びのあり方がここにあるんじゃないかと感じました」

青野慶久氏

サイボウズ 代表取締役社長/U-22プログラミング・コンテスト2023実行委員長

「前身となるコンテストから数えると44年続いてきた中で、参加する学生の子たちは周囲とあまり話も合わないで浮いてしまっているであろう中、活躍できる場を保ち続けることがこのコンテストの意義だと思っています。それでいて小学生がいきなり経済産業大臣賞を獲ったりする、面白い大会です。今年の驚きとしては、AIネイティブな層が出てきたことですね。サイボウズ賞に選んだAI 4コマメーカーも、もはや“人間が面白いと感じる4コマの条件とは何か”という、人間理解の方が重要なサービスでした。同じようにChatGPTなどが出てきたからソフトを作ってみたという子は今後も増えるでしょうし、そうなると今後はプログラミング能力以外の部分での競争も増えていきそうで、非常に楽しみです」

その他の受賞作品一覧

【経済産業省商務情報政策局長賞】
テクノロジー:Ascia
制作者:上林嶺
学校名:早稲田大学
<作品概要>
ターミナル上で3Dグラフィックをリアルタイムでレンダリングし、色付き文字を用いて表示するアプリケーションを作成するためのフレームワーク。

テクノロジー:Deferred Raytracing
制作者:軽量化させてください
学校名:日本工学院専門学校
<作品概要>
ラスタライズとレイトレーシングを組み合わせた自作エンジンのインタラクティブなデモで、DirectX12及びDirectXRaytracingを使用したフルスクラッチのエンジンである。

アイデア:Walking Helper
制作者:ぷろんこ株式会社
学校名:小山工業高等専門学校
<作品概要>
眼に障碍を持っている人を支援するため制作。障害物に接近すると、その方向と距離を振動を介して通知するデバイス。センサー部にはLiderセンサを使用してあり、全方位での感知ができるようになっている。 このデバイスを用いることで視覚障碍者の方々は、白杖を用いずとも障害物をよけることができる。

アイデア:英文を編み図に変換するソフトウェア
制作者:川島遼
学校名:都立多摩科学技術高等学校
<作品概要>
英文で書かれたかぎ針編みの作品の作り方を、編み図に変換するソフトウェア。

プロダクト:BounceBullet
制作者:BB Reflection
学校名:日本工学院八王子専門学校
<作品概要>
敵から飛んでくる弾を弾き返し、敵を倒していくアクションゲーム。弾幕のように飛んでくる弾を当たらないように何度も弾き返し、返り討ちにしてステージを進んでいく。 弾を弾き返すと、弾同士やステージとの衝突によりステージ内を駆けめぐる弾幕が作れ、その弾幕を利用することがゲームのポイント。

プロダクト:Cracker
制作者:錦織大介
学校名:宇部フロンティア大学付属香川高等学校
<作品概要>
高校の文化祭に特化した入退場管理システム。ゲストの事前予約から当日の入退場処理、統計等を一括して行うことができる。ロール方式の権限管理や招待方式のユーザー登録など、学校での運用に適した設計となっている。ゲストの管理はWebチケット(QRコード)を用いて行う。
本バージョン(Cracker v2)は前バージョン(v1)を実際に文化祭で運用し、そこで発生した問題点を解決する形で新規開発を行ったもの。

【スポンサー企業賞】
サイボウズ賞:AI 4コマメーカー

制作者:田中魁
学校名:鈴鹿工業高等専門学校
<作品概要>
「AI 4コマメーカー」は、ユーザーの描いた絵が4コマ漫画になる"Image to Manga"のwebアプリケーション。 4コマ漫画の場合、キャラクターの設定やストーリーなどを考える必要があるため、なかなか容易に作ることはできないが、LLMを用いることで、実現した。

さくらインターネット賞:Ascia
※上記で紹介済のため省略

OBC賞:Walking Helper
※上記で紹介済のため省略

オープンストリームホールディングス賞:Sekigae.app
制作者:梶原渉磨
学校名:大阪府立富田林高等学校
<作品概要>
独自アルゴリズムで、全員の座席の希望が通りやすい席替えアプリ。座席の並び方とメンバーを登録したのち、優先度の高いメンバーは事前に座席を固定して配置させると、残りのメンバーはそれぞれの希望に近い形で一括で席替えが実行できる。

KAG賞:数学好きのラクガキパズル
※上記で紹介済のため省略

SOMPOシステムズ賞:Walking Helper
※上記で紹介済のため省略

useful(日本事務器)賞:英文を編み図に変換するソフトウェア
※上記で紹介済のため省略

ピーエスシー賞:関数型のコンパイラ言語Yet
※上記で紹介済のため省略

PCAクラウド賞:英文を編み図に変換するソフトウェア
※上記で紹介済のため省略

フォーラムエイト賞:Cracker
※上記で紹介済のため省略

SAJ賞:Glow Seeker
制作者:Glow United
学校名:新潟コンピュータ専門学校
<作品概要>
様々なライトのギミックを駆使して、影を避けながら光で照らされたところを通り、ホタルを導いてゴールを目指すゲーム。

SAJ賞:NOAH'S ARK
制作者:ノアーズアーク造船所
学校名:日本工学院八王子専門学校
<作品概要>
少女を救う為に巨獣と戦う少年の物語を描いたアクションゲーム。少年は、ワイヤーで大空を駆け、巨獣と激闘を繰り広げる。

SAJ賞:Trail Ray Road
制作者:ウィリアム財団
学校名:日本工学院八王子専門学校
<作品概要>
主人公のルナは「祖父の手記」を頼りに古代の遺跡を探索していたところ仕掛けられた罠によって閉じ込められてしまう…。「光」の屈折や反射を利用して遺跡の謎を解き、閉じ込められた遺跡から脱出を目指す3Dアクションパズルゲーム。

SAJ賞:SWORD ARENA
制作者:TKMK
学校名:河原電子ビジネス専門学校
<作品概要>
4人の剣士達(プレイヤー1人とCPU3人)がフィールド上で最強を目指し戦うアクションゲームで、3分間戦い、剣士を倒すことで手に入るポイントを一番多く獲得できた人が勝利する。 フィールド上には剣士の他にゴーストとうさぎがおり、この敵はレベルアップをするために存在している。 レベルアップをすることで剣士はHP、攻撃力、足の速さが上昇する。

視聴者賞:数学好きのラクガキパズル
※上記で紹介済のため省略