「いずれは全員が罹患するのだから、ワクチンを打って日常に戻そう」
歴史的な建造物でのカンファレンス。ほとんどの参加者がマスクをしていない
B2SMB InstituteはB to B (企業が企業に対して物品やサービスを提供するビジネス)の中でも、中小企業(SMB)のカスタマーを対象にしたビジネスであるB to SMBを専門にしている。共通するのは「顧客が中小企業である」というだけで、大企業の参加者も少なからずいる。参加する企業や投資家がネットワークを作って新しい情報や発想を交換し、助け合うことを目的にした組織だ。昨年にはネットとリアルのハイブリッドのカンファレンスを行ったが、今回は150人が2日連続で屋内に集まるリアルなイベントである。
会場であるカリナリー・インスティテュート・オブ・アメリカ(アメリカ料理研究所)ナパ分校に入ると、学生たちはマスクを着用しているが、カンファレンスの主催者と参加者の大半がマスクを着用していない。マスクを着用してきたパネリストの女性が「どうしたらいいのかしら?外したくないけれど、皆マスクしていない」と焦っていたが、私も彼女と同じように焦ったひとりである。今回の旅では「なぜマスクをしているのだ?」と詰め寄られるような緊張感はなかったが、自分ひとりだけマスクを着けることの勇気が必要な場面はあり、そういったマスク着用をはばかられる同調圧力はあちこちで感じた。
夕食の集まりはレストランの広い裏庭で開催され、主催者の配慮が感じられた。そこでの話題がCovid-19になった時、同じテーブルにいた全員がワクチン接種をしており、しかも感染の経験者だということを知った。一人の女性は「私は基礎疾患があるからワクチン接種をしていなかったら重症になっていたと思う。軽く済んでありがたかった」とワクチンの素晴らしさを語っていたが、そういう感染経験者であっても、この集まりではマスクを着けていなかった。彼らの態度は、「既に60%以上のアメリカ人が感染している」というデータに基づいたもので、「いずれは全員が罹患する」のが現実なのだから、「ワクチン接種さえしていたら軽症で済む。今後もブースターを続けながら、ビジネスも日常生活も通常運転に戻していくべき」というものだ。
B2SMB Instituteのフォーラムでは、AI、メタバース、ブロックチェーンなどの新しい概念と技術がB to SMBにどのように活かされるのかという興味深い情報提供もいくつかあった。それらを含めて、ほぼすべてのスピーチやディスカッションに含まれていたのが、パンデミック中のデータとポスト・パンデミックの特殊なチャレンジとチャンスという観点だった。
講演の中では、「パンデミックによって大きな負の影響を受けた業界ほど、この時期に新しいテクノロジーに投資した」というデータが紹介され、たとえば配管工や花屋といった小企業の電話対応をAI+リアルな人間で24時間カバーできるようにしたサービスが好評を得ているという。
そして「厳しい状況だからこそ、生き抜いていくためにAI、メタバースやブロックチェーンについて学び、受け入れることをためらう競合より先に取り入れてSMBに提供できるようにすべきだ」というメッセージがあちこちに散りばめられていた。
「AIとメタバースについてはカスタマーサービスの面で、ブロックチェーンについては支払いでいずれはSMBも利用できるシステムを作っていかねばならない。しかしデジタル空間一辺倒になることはまずなく、ハイブリッドになるだろう」と語る講演者もいた。
参加者の中でパンデミックの影響を受けなかった者はひとりもいなかったが、パンデミック中に新たなビジネスを始めた人やカスタマーサービスでの新たな技術を取り入れた人も多かった。そして、競合より先にポスト・パンデミックの一歩を踏み出そうという意欲を持っていた。彼らの心中ではポスト・パンデミックの世界は既に始まっているのだということを強く感じた。
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