EVENT | 2022/03/30

「全社員テレワーク」「管理ゼロ経営」を成功させたソニックガーデンが考える社会貢献。プログラマー不足の構造問題を紐解く

本記事では、BIGLOBEが運営する「社会を前進させるための情報発信」をコンセプトとしたウェブメディア「あしたメディア」...

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濃い実践経験を積む場所づくりと同時に「遊びとしてのプログラミング」を広める

ーー そうした構造的な問題を解決していくために、どのような手立てを考えているのでしょうか。またそれは倉貫さん個人の活動と、ソニックガーデンとしての活動のどちらになるのでしょうか?

倉貫:個人か会社かで言うと境界はあまり無い気がしていますが、ソニックガーデンとしてできることとして、去年からプログラミング未経験者・初学者がWEBアプリをゼロから作成する経験が得られる「ソニックガーデンキャンプ」と、経験者がスキルを高めるためにコードレビューの機会が得られる「ソニックガーデンジム」の2つを実験的にやってみました。

「ソニックガーデンキャンプ」は高専生または大学・大学院生、既卒3年以内までの人を対象としており、文系や未経験であっても参加可能です。完全オンラインで平日込みの約3週間集中して取り組み、Ruby on Railsでゼロからアプリを開発する経験を積んでもらいます。講義形式ではなく、わからないところは自分で調べて参加者同士で助け合いながら進めていく形式で、前半のチュートリアル期間と後半の実践期間に分かれており、前半をクリアできた人だけが後半に進むことができます。「プロとして活動するための第一歩としてのハードな合宿」というイメージです。

「ソニックガーデンジム」は経験者向けで、「こういうアプリを作りましょう」というお題だけがあり、3カ月かけてソニックガーデン社員によるコードレビューを何度も挟みながら開発していくプログラムです。会社の業務ですと「品質の良いソフトウェアを納期までに完成させる」ことが最優先になるのでどうしても「プログラマーとしての実力を高める」という側面が二の次になってしまうのですが、そこを補うために開催しています。課題を全て修了された方で、ソニックガーデンへ就職・転職を希望される場合、書類審査と技術試験を免除しますが、もちろん必須ではありません。

ーー いずれ募集人数が10名以下と、応募側にも「本気でなければ参加できないだろうな」ということが伝わっていると思いますが、実際にどのような人が集まったのでしょうか。

倉貫:「キャンプ」は平日ガッツリ参加しなければならないので、25歳前後ぐらいの、学生かたまたまこのタイミングで就職していない人が多かったですね。スタートアップで働いていたものの会社が解散してしまった人もいれば、元事務職でプログラミングスクールを出たけどもっと腕を磨きたいという人もいました。応募は10数人あった中で選抜されて、最終的に9名が参加しましたが、脱落者はゼロでした。

「ジム」は「エンジニアとして働いていてRuby on Railsも使ってはいたけど、自分の作っているプログラムが客観的に良いかどうかわからないから指導を受けてみたい」という方などが来ていました。

ーー 今後、ジムとキャンプはどれぐらいの頻度で開催するのでしょうか。

倉貫:開催側としてもかなりのコミットが必要なので大変ですが、できれば年2回はやりたいですね。無償の社会貢献という位置づけではありますが、ジム・キャンプの卒業生でソニックガーデンに入社したいと言ってくださる方もいるのでメリットはあります。

ソニックガーデンでこれまで中途採用した人は大体10年ぐらいの実務経験があり、前職でエンジニアリーダーやCTOをしているような人ばかりでした。そうした完成されたエンジニアが提供する「納品のない受託開発」がソニックガーデンのメイン事業でしたが、ようやくある種の「育成枠」の人を採用し時間をかけて育成する余裕ができてきたこともあり、会社のあり方を変えていくきっかけにもしていきたいと考えています。

ーー 今後「社会に向けた活動」としてやってみたいことは他にありますか?

倉貫:個人的に思うのは、より多くの人が楽しく、遊びのようにプログラミングできる社会を作る活動ができないかということです。

例えば世の中には草野球やフットサル、ピアノ演奏などを楽しむ人がたくさんいますが、その人たちに対して「プロになれなければ意味はない」なんて言わないですよね。Jリーグが発足してから、クラブがプロチームだけでなくユースチームも整備したことでより一層親しむ人が増えたという例もあります。親しむ人の裾野が広がれば、多くの人がプロの仕事の凄さもわかるようになって、プロとしての価値も高まります。

そうした「草プログラミング」的な取り組みの先駆けとしては、世界的に子ども向けに無料のプログラミング教室を提供する「CoderDojo(コーダー道場)」があり、自分たちの住む地域で開催しているソニックガーデンの社員もいます。

今後もっと「草プログラミング」の人口をもっと増やす活動をしていきたいのですが、学習コンテンツとして出すことに注力するか、コミュニティづくりに注力するか、力の入れどころに迷っています。

ーー 自分もプログラミングを学ぶことに興味がないわけではないのですが、ちょっとネットで調べてみると「漫然と講義を受けたり本を読んだりしても大抵は身につかない。それよりも『自分が作ってみたいもの』を探してそれを作るための技術を学んだ方が早い」と言われていることが多く「作ってみたいもの、見つからないな…」と尻込みしてしまっているところがありました。

倉貫:確かにそれもよく言われますが、あまり良くない影響も生じてしまっているなと感じます。草野球や休日のピアノ演奏などと比べて、プログラミングが経済活動に結びつければいけないと思われすぎているのは不健全です。

僕は10歳からプログラミングを始めましたが、目的なんかありませんでした。プログラミングはコードを打ち込むとコンピュータから何か返ってくるというインタラクティブそのものが楽しいですし、今の子どもがなぜマインクラフトを楽しんでいるかというと、何かを作れるからではなく動かして遊ぶことそのものにたくさんの楽しみが詰まっているからですよね。

今後は、プログラミングで高みを目指す人材を育てていくこと、プログラミングを遊びとして嗜む人を増やしていくこと、縦と横に山を広げていければと思っています。プログラミング思考を身につけた人が一人でも多く増えることを目指しています。


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