クッキーとバナナはどっちが健康?真にバランスの良い食事は人それぞれ異なる
塩分(ナトリウム)過多になればカリウムが不足する。逆に、野菜や果物の摂取が足りなければ、カリウム不足に陥って塩分過多になる。これはまさしく、「卵が先か鶏が先か」という、因果性のジレンマそのものと言えます。
それでも傾向として、塩分を過剰摂取しやすい食生活が習慣づいている人は、ほかの野菜や電解質が不足しがちなのは事実でしょう。この研究から学べることは、外食や加工食品を減らし、自炊する時は塩化ナトリウム以外のミネラルが含まれる海塩や岩塩を適量摂取するだけで大きな改善となります。生活習慣病のリスクを低減するためには、常にミネラルバランスを意識した食事を心掛ける必要があります。
では、本当の意味でバランスの良い食事とは、一体どのようなものでしょうか。
ここで、クイズを出してみます。ささやかな空腹感を感じ、食事の時間までの繋ぎとして何か軽く口にしようと考えた時、目の前にクッキーとバナナが置いてあったなら、皆さんはどちらを選ぶのが健康的だと思いますか?
おそらく、大半の人がバナナと答えるでしょう。そしてそれは、科学的に間違いではありません。精製された砂糖を使うクッキーよりも、果糖を含んだバナナのほうが、血糖値が上がりにくいというのは一般常識の範疇でしょう。
ところが話がややこしいのは、世の中の人々をつぶさに調査すると、クッキーを食べた時よりもバナナを食べた時のほうが、血糖値スパイク(※食後、急激に血糖値が上がる状態)が起こりやすい人も存在するからです。
同様に、寿司とアイスクリームを食べ比べ、食後の血糖値を測定した実験データも存在しています。これも一般的には、ジャンクフードの部類であるアイスクリームよりも、寿司のほうが健康的であると考えることは間違いではありません。
しかし、先ほどのクッキーの例と同様に、寿司を食べた後のほうが血糖値スパイクを起こしやすい人というのが、一定数存在することが判明しているのです。
こうした不思議な差異は、論文の結論で、おそらく腸内環境の違いが原因ではないかという説もありますが、真相はまだわかっていません。
ロジャー・ウィリアムズという学者はかつて、「Biochemical Individuality(生化学的個性)」という言葉でこうした人それぞれ異なる特性を表現しました。つまり、人は誰しもユニークで、平均的な人など存在しないという立場です。
たしかに、顔や体型が皆、異なっているように、臓器の形や大きさもそれぞれ違います。ならば、摂取した食料や成分に対する反応が人によって変わるのも、当然なのかもしれません。すなわち、真にバランスの良い食事というのもまた、個人個人で異なるわけです。
野菜炒めは健康的か?
それでも、世界の人種を大まかに民族単位で分類してみれば、日本人は欧米人と比べてある程度の共通項があります。例えば、糖や脂質の代謝の得意不得意があったり、海藻を分解する酵素を持つのは日本人だけだったりと、地域や民族ごとの特徴は存在します。こういった背景を踏まえ、大多数の日本人にとっての安パイ――つまり安心な食べ物は何かといえば、それはやはり、昔ながらの和食ということになるでしょう。
今日では和食は世界に知られるヘルシーメニューであり、海外でも人気が高まっています。しかし、だからといって魚を蒸したり焼いたりとするのは、料理が不得手な人にとっては、いささかハードルが高いもの。
そこでせめて、野菜炒めなど調理の手軽なものを食べていれば安心、と考える人も多いのではないでしょうか。しかし、これは大きな誤解です。なぜなら、一般的な植物性のサラダ油は、決して看過できない健康リスクを孕んでいるからです。
サラダ油など、多価不飽和脂肪酸の割合の多い植物油は、とてもヘルシーな食品であるとメーカーによって謳われることが多い一方で、非常に酸化しやすい性質を持っています。これを摂取するということは、体内を錆びつかせ、炎症させることに直結します。それにも関わらず、自炊を習慣にすれば毎日のように摂取することになりかねないのが、サラダ油の怖いところです。
食材の構成要素だけを見れば、野菜炒めはバランス良く栄養をとれる優れたメニューです。問題は、その食材を何で炒めたか、です。たとえば、抗酸化物質が含まれているため比較的酸化しにくいごま油やえごま油には、サラダ油のようなリスクを回避できます。同様に、ラードやギー(発酵バター)、アボカドオイルもいいでしょう。
スモークポイントが高く、焦げにくいサラダ油は、料理をする人にとっては便利なものです。しかし、それがメタボリックドミノに通じるのであれば、せっかく自炊をしても本末転倒。日常の中で摂取するものの本質を押さえておくことが、健康増進の第一歩なのです。
引用文献
米国3地域の成人におけるナトリウム摂取源について(Sources of Sodium in US Adults From 3 Geographic Regions)
海洋細菌から日本人の腸内細菌叢への糖質活性酵素の移入(Transfer of carbohydrate-active enzymes from marine bacteria to Japanese gut microbiota)