CULTURE | 2022/02/24

太陽光業界が大反発する「パネル税」の是非、一方で増える地方の行政コストを誰がどう負担すべきか【連載】ウィズコロナの地方自治(4)

Photo by Shutterstock
第1回はこちら

谷畑 英吾
前滋賀県湖南市長。前全国市長会相談役。...

SHARE

  • twitter
  • facebook
  • はてな
  • line

「メガソーラー狙い撃ち」ではない、広く薄くの「利活用税」を作れないか

それよりも、財政補完的な側面を期待して、太陽光発電に限らず再生可能エネルギーの生産を新たな価値創造の仕組みであるとし、その創造される価値(利益)に対して「利活用税」のようなかたちで広く薄く課税するという発想はどうだろうか。再エネ設備から生み出される収益は、言葉を選ばずに言えば不労所得である。土地や建物と初期投資費用さえ用意できれば、労働生産なく収益が上がるのである。

特にメガソーラーを運営する事業者や投資家は「初期投資の多くは事業計画を策定したうえで銀行融資でまかなっており、メンテナンス費用や悪天候リスクもあることを考えれば濡れ手に粟の投資ではない」と反論するかもしれないが、これまた言葉を選ばずに言えば、農地解放前の不在地主が土地を小作に貸し与えるだけで労働生産なく収益を上げていたのと同じではないか。事業者が在地であれば地域内での諸活動を支えあうことも可能だが、不在であれば一方的に地域から富が収奪されるだけとなる。メガソーラーのみを狙い撃ちした今回の「パネル税」のあり方には問題があったとしても、再エネ事業者はその土地で「耕させてもらっている」ということを考えれば、その活動によって生じうる行政コストの負担が何らかのかたちで必要になるはずだ。

地域に降り注いだ太陽エネルギーを原資にした太陽光発電、太陽熱、風力、小水力などの技術革新により新たに利用が可能となったエネルギーは、当該地域固有の共有財産として当該地域がその便益を享受すべきものであり、資本力にモノを言わせて都市部が地方から一方的に収奪していいものではない。太陽エネルギーは単位面積当たりで平等に降り注いでいるのだ。太陽エネルギーを地域が独自に利活用する権利を総称して「地域自然エネルギー権」とでも名付けることもできよう。

国連が主唱するSDGsや菅義偉前首相が宣言したカーボンニュートラルを進めようとすれば、2018年4月に閣議決定された『第五次環境基本計画』が提唱する地域循環共生圏を構築することで、地域ごとに地域資源を最大活用しながら自立・分散型社会を形成し、お互いに補完しあう国土形成が求められる。地方と東京は対立項ではなくWin‐Winの関係でなければならない。

そうしたことから、現在の税制に歪みを与えることなく、新たに生まれた地域自然エネルギーという価値概念に共同体である自治体が課税することは、財政補完として一考する意義が大きいだろう。財政的に自立・分散した上で相互補完するという意味では格好の課税対象であると言える。その際には、不在地主が富を地域外に持ち出すことを抑える趣旨から、逆に在地地主については減税や課税対象外とする政策判断が適しているかもしれない。

ここで冒頭の菅直人元首相が導入促進を提唱していた「ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)」が再登場する。ここまで記してきた通り、筆者は「ソーラーシェアリングにのみ課税すればよい」という考えではないが、ソーラーシェアリングが農家収入や地産地消につながるだけでなく、税収に直結するとなれば、地方創生施策として優等生となる可能性が高い。そのためには法定外目的税として各自治体が税条例を改正する必要があるが、環境省あたりで総務省とタッグを組んで地域自然エネルギーの「利活用税」を地方税法に盛り込んで、全国一律の法定税化してもよい。

人口が減少しても地域に降り注ぐ太陽エネルギーから生じる地域自然エネルギーの総量には変わりがないので、これを大いに活用しないわけにはいかないのである。


prev