LIFE STYLE | 2022/01/29

「日本の25年落ち軽トラ」がアメリカで大活躍!?熱心なコレクターまで現れる理由【連載】幻想と創造の大国、アメリカ(28)

「(軽トラのメーカーはそれぞれに良さがあって選択に迷うが)色はブルーと白しかない」と笑うA氏

渡辺由佳里 Yuka...

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輸入が困難で価格も高いのに軽トラが愛されるワケ

A氏がそこまで日本の軽トラを愛するようになった経緯には、彼のラブストーリーもからんでいる。

A氏の故郷ミシガンはゼネラルモーターズの拠点があり、20世紀後半の日本車の台頭によってアメリカの自動車産業が壊滅的な打撃を受けた。A氏が歯科の大学院生だった1970年代後半には周辺でその影響を受けていない者はいなかった。だが「自分たちに問題があると知りつつ、誰もその責任を取ろうとはしなかった」とA氏は振り返る。たとえば友人の父親のように「車のどのパーツも最悪のパーツよりましにしないようにする」のが仕事だと豪語する品質管理責任者もいた。

A氏がトヨタ生産方式(TPS)について興味を抱いた経緯はラブストーリーである。彼の故郷ではちょっとした車の修理なら自分でする者が多く、マイナス20℃もめずらしくない冬の間には、屋内で修理をするための場所を借りられる大きな倉庫があった。A氏がそこで作業をしている時、魅力的な若い女性がいるのに気づいた。A氏はめでたくその女性Jさんと知り合い、デートにこぎつけ、結婚に至ったのだが、彼女が修理していたのが中古のトヨタ・カローラだったのだ。美しさだけでなく頭脳と優しさも兼ね備えているJさんにA氏は惚れ込んだわけだが、彼女が運転していた小さな車のパフォーマンスと信頼性も彼に強い印象を与えた。

その後A氏は日本車を何度も購入してきたが、軽トラに出会ったのは本国ではなく、別荘を購入したアメリカ領ヴァージン諸島(USVI)だった。購入した家は荒れた山頂にあったのだが、家の修理に雇った配管工が運転してくる小さなトラックは舗装されていない細い道を軽々と登ってくる。「同じトラックを買いたい」と言ったところ、彼は「ここへの輸入は禁じられている」と言う。理由は「右ハンドルだから」。けれどもUSVIは日本と同じく左側通行なのだ。A氏はアメリカ車の産業を守るための保護政策だと直感した。

「たぶん2001年同時多発テロ後の援助で輸入されたのではないか」とA氏が言うヤンマーの車両。これでないと入れない場所に使って重宝しているという

家に戻ってすぐにA氏は周辺の農場主を集めた。

アメリカのピックアップトラックは大きくて燃費が悪い。ニューイングランド地方の小さな農場で牧草を運ぶのに、1ガロン(3.78リットル)で8マイル(約13km)しか走らないような巨大なトラックは不要だ。環境にもよくない。燃費が良くて舗装されていない小さな道を走ることができる軽トラは、ニューイングランドの農場にはぴったりだ。

そこで共同で輸入しようということになった。ホンダのデザインは素敵だし、スバル・サンバーは後部エンジンなので静か。三菱は廉価。それぞれに魅力があったが、タフなダイハツ(トヨタ)と、エンジンの素晴らしさで定評があるスズキに絞ることに決まった。どちらもアメリカでパーツが入手しやすいという魅力もあった。

最大の壁はアメリカの保護政策だ。

A氏がUSVIで耳にしたように、アメリカは「右ハンドル車」の輸入を認めていない。それを可能にするのが「Importing classic or antique vehicles / cars for personal use(25年ルール)」と呼ばれているクラシックカー登録制度である。もとはヨーロッパのクラシックカーを輸入できるようにするための規制緩和なのだが、製造から25年以上経った車であれば、このルールを利用して輸入することができる。そうした中で近年は、軽トラだけでなくスポーツカーや軽自動車なども人気を博しているようだ。

軽トラの問題は輸入の難しさだけではない。たとえ輸入しても、公道を走ることが許されない「オフロード車」の範囲でしか運転できない州が過半数なのだ。公道を走ることが許可されているのは2018年時点で21州だが、その多くは高速道路での運転を禁じるか、速度制限を設けている。A氏のようにナンバープレートなしで敷地内や農場内で使用している者が多いが、公道で運転するために規制が緩い州で軽トラを登録してナンバープレートを得る者もいる。

そのうえ、安いとも言えない。日本のディーラーから運送コンテナ1台分(7台くらい入るらしい)を購入するA氏であっても1台あたり6千ドル(約68万円)程度かかるという。面倒な書類手続きを避けるために専門のディーラーを使うと同程度のものが8千ドルから1万ドル(約90万円から110万円)になる。製造から25年以上経った古い車にしては高すぎるような印象がある。

それでもアメリカで軽トラの愛好者が増えているのは、アメリカの車にはないユニークな魅力があるからだろう。

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