オランダが目指すのはプラントベース食の世界的なハブ
さて、ここまであまり話題に出ていないオランダですが、あるリサーチによるとオランダは一人あたりでみると、「代替肉(大豆や小麦など植物性の原料でつくられた肉)」の消費量が世界一だというのです。もちろん、こうした商品を買うすべての人がベジタリアンやヴィーガンではないと思いますが、それでもみんな興味を持って、いろいろと食べているんだなあ、と感じます。
実際に、筆者の近くのスーパーにも、かなりの品揃えのヴィーガンコーナーがあります。よく見ると豆腐、納豆、そしてセータン(お麩)など、日本由来の商品がかなり目につきます。
筆者の自宅近くにあるスーパー
そういえば、昨年来コロナにおけるロックダウンが度々あるオランダですが、夏のロックダウン明けの日、あるレストランに行った時に、「もう誰も肉も魚も頼まないから、ヴィーガンとかベジのメニューだけにしちゃったよ」と言われたことがありました。それくらい、肉や魚の消費が減っているようです。
そうした流れも汲んでいるのでしょうか、オランダは代替肉の、世界的なハブになろうとしています。日本ではまだ馴染みがないかも知れませんが、モスバーガーやロッテリアといった有名ハンバーガーチェーンでここ数年相次いで販売開始され食べることができます。
オランダでは海外大手の代替肉メーカー、ビヨンドミートやインポッシブルミート、そしてミシュラン・シェフが「肉よりも美味しく、肉よりも完璧な肉」と評価したイスラエルのリディファインミートなどが、こぞってヨーロッパ本社を置いています。世界一の農業大学と言われるワーフニンゲン大学や、そのリサーチセンターなどを中心に、フードバレーなる食のエコシステムを形成しており、虎視眈々と世界市場への輸出を狙っています。こうしたメーカーは、例えばピザハットやマクドナルドなどの大手ブランドとコラボレーションをしたりして、ベジタリアン、ヴィーガン対応ができるようになっています。
また、さらに代替肉のトレンドとは別に、動物の可食部の細胞を人工的に培養する「培養肉」の研究や実験もかなり進んでいます。
代替肉は筆者も食べてみましたが普通に美味しいですし、オランダではすでに日常食となっています。また実験段階の培養肉も試食させてもらったことがありますが、こちらのお味は正直まだまだ。個人的には倫理的にもなんとなく受け付けない思いもあり、あまり美味しくいただけませんでした。
ただし、代替肉も培養肉もテクノロジーが恐ろしいほどの速さで進化しているので、スーパーの棚に大々的に並ぶ日、皆さんの食卓に自然と並ぶ日も、そう遠くないかもしれません。
田中宏隆、岡田亜希子、瀬川明秀『フードテック革命』(日経BP)によると「米国の小売市場では植物性代替肉の売れ行きがいい。20年3月下旬時点で、肉、乳製品、卵、魚含めた植物性代替プロテイン製品は、前年同期と比べ90%伸びた」と書かれています。
つまり、世界的にこの市場が爆発的に広がっているのです。しかも前述の通り、ここには日本食が十分勝負できるポテンシャルがあります。しかし、残念なのは筆者が2018年頃から日本の大手食品メーカーなどにこの手の話を持ち込みしましたが、どの担当者もまったく興味を持ってくれませんでした。当時は東京オリンピックを見据えた、インバウンド対応としてのヴィーガン、ベジタリアン市場の可能性という文脈でしたが。
筆者が代表を務めるニューロマジックアムステルダムで作成した、Men ImpossibleとHinaichi Bentoを紹介する「プラントベース和食」のパンフレット
その中で唯一、筆者が実現できたのはアムステルダムでのヴィーガンラーメン店「Men Impossible」のオープンのプロデュース。いまやアムステルダムでは一番人気のヴィーガンレストランとして君臨しています。
Men Imposssibleは、今やアムステルダムの人気ヴィーガンレストランランキングで堂々の1位。考えてみれば、大ブームの和食。しかも欧州でも大人気のラーメン。それが、なんとヴィーガンの人でも食べられるとなれば、欧州中からお客さんが殺到するわけです。うーん、弊社からの提案を却下された、数々の日本の企業の皆さんに、そして日本人にこのブームの様を見てもらいたい。コロナ禍でも大人気です!
Men Impossibleの「Amaze Sauce Ramen」。ランチでは14ユーロ、ディナーではこれを含むコース限定で28.6ユーロで提供(価格については去年12月から続くロックダウン明けの後に変更する予定とのこと)。プラントベースだけで作ったとは思えないほど濃厚で芳醇な味わいのソースタイプラーメンで、肉が大好きでたまらない方が食べても満足できます
日本メーカーが当時いろいろ話を聞いてくれたらと悔やまれることも多々ありますが、「地球に良い食べ物」を選ぶ人が増えつつある現代。いわゆる「和食」のポテンシャルには、日本人の我々自身が、もっと気付いてもいいかもしれません。