Photo by Shutterstock
中川淳一郎
ウェブ編集者、PRプランナー
1997年に博報堂に入社し、CC局(コーポレートコミュニケーション局=現PR戦略局)に配属され企業のPR業務を担当。2001年に退社した後、無職、フリーライターや『TV Bros.』のフリー編集者、企業のPR業務下請け業などを経てウェブ編集者に。『NEWSポストセブン』などをはじめ、さまざまなネットニュースサイトの編集に携わる。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』(新潮新書)など。
「魔都・東京」は無駄に恐れられている
2020年以降、新型コロナウイルス騒動に伴う「東京差別」が発生した。最初の緊急事態宣言が出た2020年4月以降、東京は「コロナの発生源」といった捉え方をされ、5ちゃんねるでは「トンキンいい加減にせぇ!」「トンキン人は外に出るな!」「トンキン土人は汚染されてる」といった東京差別の書き込みだらけとなった。
当時は東京の陽性者数が1日80人台になった頃で、2021年8月の1日約6000人とまったく比較にならないレベルだが、コロナ騒動初期ということもあり、全国の人々は「80人」という数字におののいた。またゴールデンウィークには近隣県で見かける東京ナンバーの車が非難の対象となっている。
日本の3大被差別都府県は東京、そして「大阪民国」と呼ばれる大阪、そして「修羅の国」と呼ばれる福岡(特に北九州市)だ。いずれも犯罪が多く民度が低く、「ウェーイ!」なバカなパリピが多いと思われている。
とにかく東京は無駄に恐れられている面がある。最近でも新宿・歌舞伎町のビルの屋上で43歳の男性が、26歳の男と18歳の少年2人から撲殺された件がある。こうしたことから、東京は恐怖の魔都だとされているが、この件について思い出深いのが2013年7月27日のことである。
NEWSファンとネット愉快犯の奇妙なコラボ「パーナさん騒動」を振り返る
Photo by Shutterstock
この日、ツイッターで大騒動になったのが「パーナさん騒動」だ。この件の顛末については、翌7月28日にツイッターまとめサイトtogetterにて「パーナさんが魔都TOKYOで大変らしい」とまとめられている。しかも、Wikipediaでも「パーナさん事件」という項目が存在する。「パーナさん」とはアイドルグループ・NEWSのファンのことである。
この騒動を端的に述べると、この日NEWSが秩父宮ラグビー場でライブを行うことになっていたが、暴風雨のため、中止・翌日延期となったことに端を発する。若い女性ファンが多いNEWSだが、ライブが定刻通りに終わったら、その日の新幹線などで地元に戻るつもりの人が多かった。
だが開催が翌日に延期されたため、宿が必要になる。とはいっても、なけなしの小遣いを使いホテルも予約していなかったため、多くのファンがいわゆる「帰宅難民」になってしまったのだ。ライブを諦め、その日のうちに帰る、という選択肢はファンからすれば納得できるものではない。
こうした時にツイッターでは謎の一体感が醸成され、路頭に迷ったパーナさんが救いを求めるだけでなく、ライブには行かないパーナさんが情報共有をし、なんとかして彼女達を救おうとしたツイートで溢れかえったのである。本当にこれはとんでもない騒動だった。主体としては、【ライブに行くはずだったパーナさん】【ライブに行かないパーナさん及びその境遇に同情する優しい人】【パニックになった人】【愉快犯】の4つがいる。この人達の主張をそれぞれ見ていこう。結論からいえば、ネットを発端とした集団ヒステリーである。
【ライブに行くはずだったパーナさん】
・雨が大変
・せっかくチケット取って楽しみにしていたのに、延期になって残念
・今晩、どうしようか……
・明日の新幹線のチケットも取り直さなくちゃいけないのか……
・泣く泣く帰るしかない
・本当に困った。私はどうすればいいの
・慣れない土地で今晩どう過ごせばいいのか?
【ライブに行かないパーナさん及びその境遇に同情する優しい人】
・誰かパーナさんを助けてあげて!
・コンビニやファストフード店は無料でパーナさんに食事を提供して!
・警察はパーナさんに一泊宿泊させてあげて!
・こうした時に動かない警察はなんのために税金で運営されているの! こういう時こそあなた方の出番でしょ!
・会場近くの青山学院大学が宿泊施設を提供してくれます!(デマ)
【パニックになった人】
・50代のおじさんが原宿でパーナさんに手出しをしました
・パーナさんを狙った痴漢がいます
・パーナさんが服を切られました
・「パーナ狩り」と書かれたハチマキをした2メートルの男が東京に向かっています
・ピアス金髪男のレイプ車が有楽町に登場しました、パーナさんはご注意してください
・白タクが多数登場し、パーナさんを拉致しようとしています
・すでに2人が連れ去られ、4人が行方不明です
・偽警官が登場しています、パーナさんはご注意を!(実際は民間の警備員)
・過呼吸になったパーナさんにドラッグを渡す男が登場しました
【愉快犯】
・私はパーナさんをワゴン車でピックアップし、皆さんの宿を提供します
・パーナさんを今六本木で確保しました
→この愉快犯は上記の3種類の人々から絶賛キャーキャーコメントを獲得した
次ページ:「何かを書き込むことによって、いいことをした気分になる」という自己満足がデマの連鎖を生む