経済産業省では、長期的・持続的な日本経済の発展のため、大学や高等専門学校等の機関を中心とした研究拠点の中から、企業ネットワークのハブとして活躍している産学連携拠点を評価・選抜(国際展開型と地域貢献型の2類型)する 「J-Innovation HUB 地域オープンイノベーション拠点選抜事業」
を令和2年度より行っている。また、令和5年度より「地域の中核大学の産学融合拠点の整備」についての補助事業終了後から新たにプラットフォーム型としての選抜も始まっている。
令和7年度についても、令和7年7月18日から8月27日までの間、公募期間が設けられ、第7回目となるJイノベ 地域オープンイノベーション拠点として、国際展開型3拠点、地域貢献型4拠点が選抜された。
本連載では、新たに選抜された拠点の取り組みを紹介する。
J-Innovation HUB 地域オープンイノベーション拠点選抜制度 地域貢献型拠点~大阪工業大学 DXフィールド
大阪工業大学(前身となる関西工学専修学校)は1922年(大正11年)、工業都市・大阪の発展を支える技術者育成を使命に創立され、御堂筋整備など都市インフラを担う人材を輩出してきた。「世のため、人のため、地域のため、理論に裏付けられた実践的技術をもち、現場で活躍できる専門職業人を育成する」を建学の精神に掲げ、100年以上にわたり社会に人材を送り出している。
こうした歩みのもと、同大学は2025年3月、DXによる地域課題解決の拠点として「DXフィールド」を枚方キャンパスに開所した。「社会の声に耳を傾け、技術の可能性を問い直す」をコンセプトに、DX推進による北河内地域の活性化の中心地「Local(D)X Lab.」となることを目指している。
幅31m×高さ約20m――天候に左右されない巨大DX実証空間
DXフィールドには、国内最大級の実証実験空間が整備されている。幅31m・奥行38m・高さ19.7m、約1,400㎡の空間を活用し、AI、IoT、CPS、データサイエンス、ICT、XR、サイバーセキュリティなど、DXを構成する技術の実証を天候に左右されず行うことができる。
床面はコンクリートとスポーツコートの2種類で構成され、高所にはWi-Fiアクセスポイントやマルチカメラ、IoT機器用コンセントが設置されている。ドローンの飛行試験に加え、高精度カメラやモーションキャプチャを用いた動作解析にも対応する。
建屋全体には太陽工業株式会社の膜構造を採用し、電波の透過性を確保している。フィールド手前には100名規模の多目的室も設けられ、実証の前後で対話や議論を行う場として活用できる。さらに屋外には圃場と災害対応用大型ロボット格納庫(BRAIN)を備え、屋内外を組み合わせた多様な実証に対応している。
「ソイチャレ」が育んだ地域との共創の土壌
DXフィールド誕生の背景には、2021年から展開されてきた産官学連携プロジェクト「ソーシャル・オープンイノベーションチャレンジ(通称:ソイチャレ)」の取り組みがある。自治体や企業、NPOが抱える課題に対し、情報科学部の研究室が複数年にわたり継続的に向き合い、テクノロジーを用いた解決に取り組んできた。
これらのプロジェクトは北大阪商工会議所と共催で実施され、ソフトバンクや富士通、リコージャパンなどの企業も協力している。これまで、避難誘導シミュレーションやパーソナライズド広告の瞬時展開システム、エディブルフラワーを用いた街活性化など、地域の人々と手を取り合って、課題解決とその実証・実装に取り組んできた。
中でも百済寺跡・禁野本町遺跡の復元観光プロジェクトでは、「百済寺跡 WebAR 体験ガイド」がサービス化されているほか、ものづくり企業振興を目的としたオリジナルカードゲームの開発では、地域一体型オープンファクトリ「不器用FACTORY」の取り組みの中で、地域の人々に工場見学へと足を運んでもらうきっかけとして活用されている。
枚方市・商工会議所・信用金庫との四者協定
ソーシャル・オープンイノベーションチャレンジ(ソイチャレ)の実績を背景に、DXフィールドの開所にあわせて、枚方市・北大阪商工会議所・枚方信用金庫・大阪工業大学の四者は、社会課題解決に向けたDX推進に関する協定を締結した。自治体が地域課題を提示し、商工会議所が域内企業の情報をつなぎ、信用金庫が顧客企業を紹介する。これに対し大学がテクノロジーと人材を提供することで、「産官学金」の連携体制が構築されている。
大学側では研究支援社会連携推進課がハブとなり、4学部の専門性と6つの産学連携拠点を組み合わせ、共創プロジェクトの設計を担っている。
動き出すプロジェクト——消防ドローン、河道閉塞対応用ロボット、スマート農業etc.
現在、DXフィールドでは10以上のプロジェクトが進行している。消防・防災分野では、高知市消防局などと連携し、捜索活動を支援するドローンの開発と運用手法の確立に取り組むほか、河道閉塞に対応する大型ロボットの開発も進められている。後者については、2025年11月末に屋外フィールドでメディア向けの実演が行われ、注目を集めた。
このほか、農場のデジタル化(農場×IoT)、環境予測(環境センシング×AI)、明暗検出技術(画像処理×HDR)、災害無線通信網(災害×通信)、ドローン制御(ドローン×Python)、4D仮想空間生成(AI×XR)、VR歩行拡張(VR×感覚)など複数分野にまたがる研究が展開されている。また、企業からの寄附をもとに、プログラミングによるドローン競技会「OITカップ」を開催するなど、人材育成の取り組みも進められている。
「社会の声に耳を傾け、技術の可能性を問い直す」
DXフィールドを中心とした産官学金連携事業のマネジメントを担当するURAの市川啓氏は、この事業の趣旨と今後の展開を次のように語る。
「DXフィールドの共創サイクルは「社会の声」、つまり企業・自治体のニーズを起点として、研究シーズとの連携、プロジェクト・メイク、その実証、企業・自治体との対話によるリフレクションから構成されており、ある種のコレクティブ・インパクトの仕組みを持っています。Jイノベという、まさに経済産業省のお墨付きをいただいたことで、この連携事業にもまとまりが出てきましたし、北河内地域外の企業・銀行からもDXフィールドに注目いただいており、オープン・イノベーションへの第一歩を踏み出しています。」
「AIやIoT、メタバースなど最新デジタル・テクノロジーは、常に何かとの“掛け合わせ”で相手を幸せにできるという点で、ひとりで完結できてしまう“伝統芸能”ではなく、誰かにいじられて初めて味が出る、言うなれば“ひな壇芸人”です。最新のデジタル・テクノロジーは、枚方地域の二大産業である医療・ヘルスケア分野、ものづくり分野とも相性が良いですし、この地域はその発展史に鑑みても、新しいものを受け容れる懐の深さも持っています。科学とビジネスの近接化時代に突入した今、北河内地域は、地域内外のリソースと新たな情報テクノロジーとの掛け合わせによる新たな価値創造のテストフィールドとして注目されるポテンシャルをもっています」
御堂筋を築いた大学が、今度はDXで地域を変える――その挑戦が枚方の地で本格的に始まっている。
大阪工業大学 DXフィールド
https://www.oit.ac.jp/oit/facility/dx-field/
Jイノベ選抜拠点の記事一覧はこちら
https://finders.me/series/kqJTU6YwMDMwNTU