447点の応募から選ばれたグランプリは紫陽花をまとう傘
一枚のデザイン画が、実際にさせる傘になって手元に届く。そんな体験を毎年提供しているのが、大阪府東大阪市の傘メーカー・カムアクロスが主催する「傘デザイン・コンペティション」である。2020年から続くこの企画は今回で6回目を迎え、テーマ「装う傘」には447作品が寄せられた。
プロ・アマ問わず参加できる同コンペの特徴は、受賞者に賞金を贈るだけでなく、応募したデザインを実際にカムアクロスが傘として製作し、贈呈する点にある。第1〜5回の累計1,812点に今回の447点を加えた通算応募数は2,259点に達し、6年をかけて定着してきた企画といえる。
2月末に決定したグランプリは、河野綺音さんによる「Hydrange-umbrella」だ。紫陽花の群生をイメージしたプリントを傘本体に施し、花びらを表す立体的なフリルを手縫いで加工している。閉じた状態でも紫陽花に見えるよう、ボリュームと配置を細部まで調整したという。
物語を纏う二つの優秀賞、雨逢い傘とBluebird Umbrella
優秀賞に選ばれたのは、北島壮智さんの「雨逢い傘(あまあいがさ)」と、三浦和俊さんの「Bluebird Umbrella」の2作品だ。雨逢い傘は、辞書を開くように傘を開くと、その日の雨や景色にまつわる言葉が読めるという仕掛けを持つ。傘をさす行為そのものを、風景と言葉を楽しむ体験に変えるアイデアである。
一方のBluebird Umbrellaは、無数の羽根を高精細なプリント技術で再現した一本だ。鮮やかなブルーが街中でも目を引く仕上がりとなっており、傘を「着る」感覚に近づけるという今回のテーマを体現している。両作品ともそれぞれ賞金5万円とともに、実際の傘としてカムアクロスの手で製作された。
東大阪の工房と廈門の自社工場が支える「どんな傘も形にする」体制
斬新なアイデアを実際の傘として仕上げられる背景には、カムアクロスの製造体制がある。大阪府東大阪市の本社工房と、2001年に設立した中国・福建省の廈門ファクトリーを自社で保有し、企画から縫製・組立までを一貫して手がけているのだ。
傘業界に長く携わるベテラン社員が製作可能性を社内で検討し、複雑な加工を要する仕上げは本社工房が担う。「斬新で実現が難しそうな作品を、あえて選ぶこともある」という姿勢は、アイデアを事業として形にする際のヒントにもなるだろう。1995年の創業以来、年間約15,000本の傘修理を手がけ、所属職人が大阪府の「なにわの名工」に選ばれた実績を持つ同社にとって、このコンペティションは自社の技術力を示す場にもなっている。
応募者の頭の中にしかなかったデザインが、職人の手を経て実際に使える一本になる。ものづくりの過程そのものに関心がある読者にとっても、次回のコンペティションの行方を追いかけてみたい取り組みである。
カムアクロス 傘デザイン・コンペティション'26
テーマ:装う傘
応募数:447点(通算2,259点)
受賞:グランプリ1点・優秀賞2点
賞金:グランプリ10万円、優秀賞各5万円
主催:株式会社カムアクロス
公式サイト
https://www.come-across.co.jp