CULTURE | 2021/12/02

BTS世界進出を果たした韓国レコード会社奮闘の歴史、そして日本との「最大の違い」 【連載】アジアのエンタメを世界に広げる方法(2)

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第1回「BTS“日本進撃”を支えたプロデューサー、...

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日本の大手芸能事務所との違い「積極的に投資を呼び込み規模拡大を図る」

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そしてこれはHYBEに限らず韓国エンタメ業界が日本のそれと全く違うところでもあるのですが、とにかく彼らは「ネットワークでビジネスを広げる」ということを重視している。例えばMVひとつとっても、新人でさえ1本1500万円の予算をかける。今の日本では考えられないことです。それだけMVの重要性を理解している。

加えて、日本の音楽番組にも積極的に出演するし、NAVERが提供するライブ配信アプリ「V LIVE」も積極的に活用する。HYBEは有料ファンクラブ機能やEコマース機能もあるプラットフォーム「Weverse」をNAVERと共同で立ち上げたり、CJ ENMというエンタメ企業と合弁会社と新音楽レーベル(BELIFT LAB)を設立したりする。近年では自分の事務所だけでアーティストを育てるのではなく、SOURCE MUSIC(6人組女性アイドルグループのGFRIENDなどが所属)、PLEDISエンターテインメント(13人組ボーイズグループのSEVENTEENなどが所属)といった他の芸能事務所も買収しています。

日本の芸能事務所だと「上場してすごい」止まりになってしまいがちですが、積極的に投資も受け入れ他社との共同事業も展開しています。これらが積み重なって現在の「HYBE」という化け物を構成しているわけです。

これまで「巨大プラットフォームとエンタメ企業のタッグ」で言えば、日本だとAmazonと吉本興業のそれが話題を呼びました。これまではエンタメ企業はコンテンツ=アーティストや芸人を用意できるという部分でプラットフォーム企業にない強みがあるとされてきましたが、HYBEはそれを両立してしまいかねない。

じゃあ日本でも出資を募って同じようなことを始めればいいじゃないかと言われても、それができる人材があまりに少ない。極論を言えば日本の芸能界は40年間何も変わっていないんです。先ほど少し触れたV LIVEでBTSの動画は世界中で5億回再生されていたりする。日本のレコード会社や芸能事務所で「A国ではこれだけのファンを見込み、B国ではこうしていく」と戦略を描ける人がどれだけいるのか。そうなると他国の企業も日本企業ではなく韓国企業と組みたいと感じるのは当然のことです。

日本の音楽業界に足りないもの

日本の音楽業界はある種の権威主義に陥ってしまっていると僕は強く感じています。アーティストも有名レコード会社や芸能事務所じゃないと契約したくないという人が後を絶たないし、レコード会社・芸能事務所でも大物アーティストに対して「ここはもっとこうすれば良くなるんじゃない?」と指摘できるディレクター、もっと言えばある意味「アーティストより偉い、実力のあるディレクター」がどんどん減っている。

そうした状況は結局「ヒットしなくても自分のせいじゃない」「外部から招聘した有名プロデューサーがついてもダメでした」という責任放棄につながってしまいます。こうした状況を変えない限り、日本の音楽業界は韓国に勝てないと思います。

加えて、これからは中国エンタメがどんどん進化してきて、韓国以上のことを成し遂げる可能性だって十分あります。財力もあるし国内市場も大きい。そして世界中に「中国ルーツの◯◯人」もいる。

でも、改めて思い返してほしいんですが、BTSも他の多くのK-POPアイドルも、「外国では最初に日本で成功している」んです。日本の音楽業界で働くみなさんも、BTSやHYBEを特別扱いするのではなく、自分たちにもできるはずだと奮い立ってほしい。

Big Hitを立ち上げたパン・シヒョクは、兄貴分と言えるJ.Y.Parkと「なぜWondergirls、Rain(ピ)はなぜ海外進出に失敗したのか」をちゃんと話し合っています。一方で日本は「なぜPerfumeやBABYMETALが海外で売れたのか」のキモの部分を囲い込みがちになってしまう。韓国とは真逆なんです。

もちろん、自ら海外に出ていくのではなくて、日本で頑張って世界から見つけてもらうという考え方もあると思います。日本のアニメやアニソンはそうした広がり方をしてきましたよね。ただ、配信などの広げ方やビジネス展開についてはちゃんと自分たちで研究する必要がある。その際にひとつだけ注意点としては「全世界・全人種」を同時に相手することはできないということです。アメリカを対象にするのか、ヨーロッパを対象にするのか、アジア系か、その他か。それを注意深く見定めて戦略を決定しなければなりません。

これまで数多くの日本アーティストが海外進出に挑戦したものの、残念ながら国内以上の成功を収めることはできなかった人が大半です。僕が担当しているアーティストで言えば浜田麻里やE・Z・Oというメタルバンドなどが挑戦しましたが、成功と言えるのはグラミー賞(ニューエイジ・アルバム賞)も受賞したシンセサイザー奏者の喜多郎ぐらいでしょうか。

そもそも、特にポップスやロック、R&Bの「本場」と言えるアメリカで日本人が勝つのは非常に難しい。アマチュアでもそこら中に日本人よりも上手いシンガーやプレーヤーがゴロゴロいるし、ラジオなどで流してもらうにも多額の資金が必要です。

自分の実体験で話すと少し古い例が多くなってしまうのですが、個人的には「日本人ミュージシャンのヨーロッパ進出の流れ」を再考してほしい気持ちがあります。古くはビートルズやピンク・フロイドも手掛けたイギリス人音楽プロデューサー、クリス・トーマスに注目されたサディスティック・ミカ・バンドや、日本のレコード会社と契約する前にロンドンのレーベル「ラフ・トレード」からレコードをリリースしたプラスチックスなどの例があります。プラスチックスは僕もビクター勤務時代に関わったことがありました。

今のPerfumeの海外進出にも連なる話だと思うのですが、いきなり一般層に広がるかたちではなくて、どこかの国でクラブヒットを放ちYouTubeやSpotifyなどの再生回数を増やしつつ、その実績をベースに他の国にも展開していくという手法は今でも同じように通用する部分があると思うんです。韓国勢の手法が唯一の正解なのではなく、もっと日本らしいやり方があるかもしれない。

いずれにせよ、ミュージシャン同士でもレコード会社のスタッフ同士でも、横の連携は非常に重要です。そこから新しい時代のチャレンジやヒットが生まれることを期待しています。


第1回「BTS“日本進撃”を支えたプロデューサー、齋藤英介が語る「K-POP世界ヒットの裏側」」はこちら

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