「法定通貨だけに依存しない経済圏を創る」をビジョンに掲げ、ブロックチェーンやIPFSなどWeb3と既存のWeb技術を統合する株式会社和らしべ。ユーザー自身がコンテンツを管理し日本円に連動したステーブルコイン「JPYC」の投げ銭報酬を受け取れる分散型ブログプラットフォーム「HiÐΞ」(ハイド)などを運営している。
JPYCを発行するJPYC社との連携も進める和らしべの代表取締役・井元秀彰さんにブロックチェーンや暗号通貨を日本で広める方法や、Web3のビジョンを訊いた。
井元秀彰
株式会社和らしべ CEO
医療業界で10年以上新規プロジェクト立ち上げに従事。複数BCプロジェクトアンバサダー。2020年に株式会社和らしべを共同創業。
分散型CMS「HiÐΞ」を運営。BCワークショッププロジェクトを運営
聞き手・文・構成:米田智彦
Twitterより先に次世代SNSを。分散型ブログプラットフォーム「HiÐΞ」の誕生
―― まず「和らしべ」という会社について教えてください。
井元:株式会社和らしべは、2020年3月に私と開発者・長澤智也の2名で創業しました。最初は暗号通貨を使ったマーケットプレイスをつくろうとしていたんですが、進めるうち痛感したのが、多くの方にとって暗号通貨を使う機会がまだまだ少ないこと。まずはユーザーのリテラシーを底上げする必要性があると感じました。そこでいろいろな企業がブロックチェーンを使ったプロダクトを発信でき、個人も関われるコミュニティとして「HiÐΞ」(ハイド)をつくりました。
――「HiÐΞ」はどんなサービスなんですか?
井元:HiÐΞは分散型のブログプラットフォームです。ユーザーのコンテンツは私たちの管理サーバーでは預からず、分散型ネットワークに保存する方法と、HiÐΞ管理サーバーに保存する方法があり、ユーザー自身が保存先を選択できます。コンテンツに対してJPYCによる投げ銭を受け取ることができます
―― なるほど。最近資金調達もなさったそうですね。
井元:2021年の8月にCVCのVC 、01Booster(ゼロワンブースター)さんから調達させていただきました。01Boosterによってつながった企業・スタートアップにHiÐΞを利用いただく取り組みも進めています。また今後企業さんがブロックチェーンを利用して新規事業をつくるとき、コミュニティビルドで我々がお力添えしたいと考えています。
―― まさに中央集権型ではなく分散型的な「Web 3」の世界観ですね。井元さんの中でこういったビジョンが見えてきたのはどんなきっかけだったんでしょうか。
井元:今は一部の巨大プラットフォームが個人のデータやコンテンツを集めてマネタイズし覇権を握っていますが、Twitter創業者のジャック・ドーシーたちは次のSNSを考えています。ユーザーが自分で投稿したコンテンツを管理し、所有権を持てる分散型SNSの世界観です。ちょうど2021年の1月ぐらいにドーシーたちの様子を見て、これは非常に面白いなと。最新の分散型のプロダクトをリサーチする中で「Twitterより先に次世代のSNSをつくってみよう」と長澤と意気込みました。HiÐΞは以前に開発していた分散型の支払いツール「Anytoken Pay」や分散型ストレージをつなげてつくりあげたものです。
―― 強い中央のあるWeb 2.0的な世界はGAFAに代表される大企業中心のものでした。2021年に入って、次のインターネットのイメージが議論されるようになりましたよね。和らしべもHiÐΞを運営するだけではなく、バックボーンに次のインターネットへの思想があると感じています。
井元:おっしゃるとおりで、僕たちはカッコいい言葉で言うと、ビジョンが先なんです。情報やデータが一つの場所に集まっていると、そこをクラックされて漏洩するリスクがある。それを少しでも緩和する、分散型の世界をつくりたいというのが思想の根本にあります。
―― それは金融情報やコンテンツの分散・民主化ですよね。GAFAやNetflixがWeb 3を打ち出していくのか、それとも新世代への抵抗勢力になるのか。そこはどうお考えですか。
井元:今まさにNFTをきっかけに、少しずつWeb3の方向に舵を切りだしている現状じゃないでしょうか。Twitterだけは真面目に3を目指しているように見えるけれど、Web 2.0にNFTというバズワードだけを足して考えている企業が多い気がします。
それは長年暗号通貨やブロックチェーンといったCrypto(クリプト)の世界に関わってきた人たちには、見透かされている状況だと思うんです。ただいろんな企業がこれをきっかけに入ってきてくれるのは非常にありがたい流れです。
巨大IPのNFT化はバズで終わる?オンチェーン市場がより大きい
―― NFTは大手プレーヤーがそろってきていますよね。LINE、SBIもこの間nanakusa(ナナクサ)を買収しました。ももクロや『ONE PIECE』など毎日いろんな有名コンテンツのNFTが発表されています。今もおそらく水面下で、いろいろなビッグコンテンツのNFT化の権利獲得が進んでいるでしょう。あらゆるスポーツ・漫画・アニメ・映画・音楽などのコンテンツがこれからNFTになっていく。ただ一方で大手企業の次なるビジネスとしてNFTが利用されてしまう懸念もありますよね。
井元:ただオフチェーン、つまりデータを自分たちのプラットフォームの外に出さないかたちでNFTを発行している以上は、危機意識はあまりないんです。私たちが戦っている分野は海外も含めたオンチェーンのプラットフォームなので、市場が大きいんです。
MetaMask(メタマスク)など、さまざまな分散型ウォレットを保有しているユーザーからするとオフチェーンは相手にされません。NFTは分散型ウォレットを持つユーザーの仲間内で非常に盛り上がっていて、CryptoPunksなど新しいIPが出てきている。NFTしか存在しないところに価値があると思っています。
既存のIPを獲得していくのはビジネスバズワード消費の流れに近く、そのままシュリンクしていくのではないかと正直思います。有名IPはフィジカルで手に入るグッズも多数あるので、デジタル商品にそこまで価値が出るかと言われると、ちょっと僕は疑問なんです。
―― そもそもですがオフチェーンとオンチェーンの違いは何でしょうか。
井元:NFTにおける「オンチェーン」は、作品データと全ての取引履歴がブロックチェーン上に記録されている状態です。そのため世界中の方がNFTを売買・譲渡することが可能になります。
一方「オフチェーン」は、取引履歴の一部がブロックチェーン上に記録されておらず、NFTマーケットプレイスのアカウントを持っていないと売買ができないものを指します。例えば世界最大のNFTマーケットプレイスであるOpenSea(オープンシー)はNFT作品を最初に発行する際(一次発行)はオフチェーン方式を採用しており、発行時のネットワーク手数料(GAS代)がかからないなどのメリットはありますが、画像などの元データがOpenSeaのサーバーにアップされているので、運営企業が事業を終了すると消失してしまう可能性があります。
―― NFTのマーケットプレイスの9割はOpenSeaがやっていて、その中でもずば抜けて有名なのは、カナダのDapper Labs(ダッパーラボ)のNBA Top Shotだと思います。サッカーのスペインリーグ、北米のNHL、ホッケーなどもやろうとしている。NBA Top Shotは1年も満たずに既に700億円ぐらいの売り上げていますね。
井元:NBA Top Shotの場合、日本からも相当Cryptoで稼いだ人たちが買いに行っていました。仮に、これがオフチェーンになっているのであれば、何かデータが消えたりすると戻ってきません。IPの力が非常に強いのでこれだけの売上になっていると思いますが、長期的に見てNFTを買った人たちが、それを次にどうするのかは見ていきたいですね。
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