EVENT | 2021/11/09

「とりまつないで光ればいいじゃん?」ギャル電に学ぶ、イノベーションに絶対必要な「はじめの一歩」の踏み出し方【連載】高須正和の「テクノロジーから見える社会の変化」(18)

グラビア本のような装丁の、ギャル電による電子工作本

高須正和
Nico-Tech Shenzhen Co-Fou...

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イノベーションに必要な「自分のゴール」

未知を既知に変えるのが研究開発だが、それが社会を変革するイノベーションに至るためには、世の中に広く行き渡らねばならない。今あるものより安い、早いといった進化なら、市場原理で自然と広がっていくが、モノに溢れた現代ではそれも決定打にならない。だからこそ「自分のために、自分が作りたいものを作る」というアプローチが、まだ存在しない解を掴むきっかけになる。

正解にたどりつくルートが誰でもわかりきっているなら、開発リソースの多い大企業が絶対的に有利になる。世の中で正解と定義されているものが変わるような時こそ、大きなイノベーションがスモールプレーヤーから起こる。そのためには世間や他人が求めるゴールでなく、自分だけの目的を見つける必要がある。今は大企業になりつつある電気自動車のテスラも、初期のモデルはソロバンづくでは買いづらいものだった。

この10月に出版されたジム・マッケルビー『INNOVATION STACK だれにも真似できないビジネスを創る』(東洋館出版社)は、まさにそうした自分のために必要なソリューションを積み重ねることが、マネできないイノベーションを生むことを捉えた快著だ。

イノベーションは一つの要素でなく、自分のためのソリューションの塊

タイトルのINNOVATION STACKとは、STACK(積み重なる)とある通り、イノベーションが単一の事象でなく、複数の要素の積み重ねであることを説明している。

たとえばiPhoneやiPadをクレジットカード決済端末に変えるサービス「Square」は、特徴的な支払いサービスをつくり、ペイメントで圧倒的大手のAmazonから挑戦されても勝利した。

同社の特徴になったサービスは

1.シンプルなUIを持ち
2.スタートアップで営業部隊に力を入れられないから、加盟店の加盟手続きなど含めて全てオンラインで完結できるようになっていて
3.無料で支払い端末を配布するために安いハードウェアを備え

…と、創業者であるジム・マッケルビーが語るところの14の要素が積み重なってサービスを構成している。その14の要素はそれぞれ相互に関係していることで、一部でなく全体をコピーすることが極めて難しいことが、Amazonの挑戦さえも退けた力になった。イノベーションが積み重なる要因となったのは、自分が作りたいサービスを作るために必要な問題を次々と解決していき、そのたびに新しい問題が立ちはだかり、同じように次々と問題を解決してきたことだ。

ギャル電にもそのINNOVATION STACKが見られる。ストリートやクラブで光るアクセサリを身に付けたいという目的が、

1.壊れる電子部品との付き合い方を学ぶ
2.故障箇所を特定しやすい回路設計をする、接続でコネクタを使うなど、使い・壊しながら壊れづらい回路設計を生むためのプロセスを体得する 
3.安価な電子部品の調達方法、作例の調べ方を学ぶ
4.複雑な電子回路を設計する方法、増えた部品の管理方法、道具へのこだわりなど、プラスアルファの部分にも目が行き届くようになる

といった成長につながっていく。それぞれのプロセスは学校で学ぶものと大差ないが、積み重なって「ギャル電」として結実したものは、とてもオリジナリティがある存在になっている。

まず始めることがイノベーションを生む

ギャル電は、日本で有名になる前から海外でも注目されていた。アメリカの代表的な電子工作企業のAdafruitsでは、2017年2月にギャル電(と、僕が主催していたギークダンスパーティ「AkiParty」)の特集ブログ記事を書いている。

こうしたオリジナリティのある活動は、いま日本社会で必要とされているものだ。ギャル電本のキャッチコピーになっている、「とりまつないで光ればいいじゃん?」には、イノベーションのために必要なことが凝縮されている。


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