EVENT | 2021/11/06

政治家も一般人も引っかかる「謝ったら死ぬ病」のワナ。人はなぜこうも謝れないのか?【連載】中川淳一郎の令和ネット漂流記(29)

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中川淳一郎
ウェブ編集者、PRプランナー
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オーディエンスがいる手前、「論破」される姿は見せられない

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過去に、私が編集を担当していたNEWSポストセブンというWEBメディアで、「「なりすまし」にフィフィさんへの悪口書かれた男性の反論」という記事が掲載された。この記事は、在日コリアンの男性とタレントのフィフィがツイッターで諍いが発生したことに関するもの。掲載後、同サイトのアクセスランキングで1位になったが、その後28位に落ち、さらに圏外に落ちた。

この状況を見た三国志の武将・関羽のアイコンを使う人物がツイッターでこう書いた(今後同氏のことは「関羽」と書く)。この顛末についてはツイッターのまとめサイト・togetterに「中川淳一郎氏がNEWSポストセブンのランキング不正操作を疑われ、ネトウヨ関係から手を引くことを宣言。」として掲載されている。同氏は基本的には、在日コリアンの権利を大切にすべきと主張する立場であり、フィフィ氏に対しては批判的だ。

関羽による最初のツイートはこれだ。

〈この記事は明らかに多量のページビューを稼いだはずだけど、同時期の記事がいまだ人気ランキングに残る一方、この記事だけがはやばやと圏外に落とされた。〉

これに対し、私はこうツイッターで反論した。

〈「この記事だけがはやばやと圏外に落とされた」って書いたよな。オレらが不正にアクセスランキングをいじったと思ってるのか?そんなことするワケねぇだろ。言いがかりはやめろ。ランキングの原理、お前知ってるのか?〉

これで本来は「申し訳ありません。貴サイトのアクセスランキングの原理を知らないまま憶測に基づく発言をしてしまいました」と私に謝罪をすれば終わったのに関羽は一切自分の非を認めない。100回超にも及ぶやり取りを経たが、私がアクセスランキングの原理は知っているのに、関羽はこんな言い分を言い続ける。

〈昨日はフィフィさん記事が人気1位だったけど、編集部はあまり望んでいないらしく、いまはランキングからおそらく手動で28位まで落とされているw〉

〈なにか誤解されているような気がします。ランキング操作の疑いは合理的な推論に基づくものですが、それはただちに操作の事実があることを意味しません。そこに中川淳一郎さんとの争点があるわけですが、かれがお酒に酔っているようなので醒めるまで待ちたいということです。〉

〈オレはNEWSポストセブンの人気ランキングの選定基準には不審の念を抱いていて、説明を求められるならば、その疑いの根拠を合理的に説明できる。しかし、疑いが合理的であるかどうかと、疑いの事実があるかどうかは別問題。オレの疑いが真実を言いあてている可能性は100%ではない。確証がない。〉

あまりにウザいのでブロックしていたのだが、ここまで言われたので私は関羽へのブロックを解除。まさかの「事実かどうかは分からないが、私は正しい可能性があるため、その推論を述べることは問題ない」と主張したのだ。この呆れたツイートに対し、私はこうツイートした。

〈ブロック解除しました。で、ポストセブンがアクセスランキングを不正にコントロールしてる根拠を教えて下さい。私が運営の本丸なので、あなたが何を言おうが反論可能ですが「オレはNEWSポストセブンの人気ランキングの選定基準には不審の念を抱いていて」の説明お願いします〉

その後も関羽は自身が疑いを持つことは合理的であるとのらりくらりとかわし続ける。だから私はこうツイートした。

〈様々な推測、ありがとうございます。我々のランキングの原理は「過去12時間」です。古い記事が出てくるのは先ほど申した通り「とあるきっかけにより突然復活する」ということだけでしかありません。で、いくら推測を重ねても、もう仕方ないと思います。なぜならオレが運営なので〉

もう、これは「アクセスランキング改竄」を意図的にやっているわけではない、という結論だ。だが、関羽はまだ歯向かって来る。そして、こう来た。

〈オレと、中川淳一郎さんとの争点はただの1点しかなくて、それは、推測を外すことが謝罪に値する罪過であるかどうか、ただそれだけだね。〉

これにはこう答えた。

〈勝手に結論づけるんじゃねぇバカ。オレとお前の論点は「テキトーな憶測で媒体の評判を毀損したことに対して説明しろ、オラ」だけだ!〉

完全に「アクセスランキング改竄疑惑」については、運営である私が述べていることが正しいにもかかわらず、推論で関羽は「アクセスランキングを改竄しているというオレの推論は合理的である」と言い続けたのだ。事実は事実であり、「推論が正しい」よりも事実が上回るのである。

〈てめぇ、いい加減にしろ、このボケが。お前はなんで「ごめんなさい」と一言言うことができねぇんだよ。くそったれが。お前は自分のことを頭いいかと思ってるのかもしれんが、いい加減に、その思い込みを辞めやがれ。アクセスランキングに関しては完全にお前の負けだ。認めろ〉

その後も関羽は私に一切謝罪をせず、他の人から諫められ、ようやく最後に謝罪をした。5月8日に開始した騒動、終了したのは13日だったのだ。騒動発生の初日である5月8日段階で私に対して一言謝れば終わった話を、関羽は5日も引き延ばしたのだ。理由はすべて「謝ったら死ぬ病」である。

ネットの場合、オーディエンスがいるため引き下がれない面がある。特に、普段から「〇〇さんの論は鋭いです!」なんて絶賛キャーキャーコメントを浴びせられている人からすれば、自分が論破される姿や答えに窮する姿は見せたくない。そして謝る姿は最も見せたくないのである。

選挙期間中の江田氏と枝野氏も当然、NISA発言は失言であり、無知が招いたものであることは把握しているだろう。だが、大事な選挙期間中、支持者を失望させるのを避けるためには失言を認めるわけにはいかなかったのだ。

ただ、これまでの経験上、さっさと謝った方が評価は上がることが多い。お笑いコンビ・EXITの兼近大樹が過去の過ちを週刊文春に報じられた際はツイッターに長文を掲載。過ちを認めた上でお詫びをし、それでも前に進んでいくこと、過去の境遇について同情してほしくないこと、過去があるから今があると将来思えるようになりたいなどと述べた。さらには、文春の内容については事実ではない部分もあるとはいえ、購入して全文を読んでもらいたい、と述べた。相方のりんたろー。もお詫びはしたうえで、応援してくれる人がいる限り活動を続けていきたいと述べた。

この態度は「謝ったら死ぬ病」とは正反対で、「むしろ兼近を応援したくなった!」「過去に過ちを犯したことがない人間なんていない」といった形で高く評価された。そして現在、若手芸人ではEXITは屈指の人気を誇っている。りんたろー。は兼近へ日々感謝の気持ちを述べているが、そうしたコンビの支え合いも現在の高評価につながっているのだろう。

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