EVENT | 2021/11/06

政治家も一般人も引っかかる「謝ったら死ぬ病」のワナ。人はなぜこうも謝れないのか?【連載】中川淳一郎の令和ネット漂流記(29)

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中川淳一郎
ウェブ編集者、PRプランナー
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新型コロナと「謝ったら死ぬ病」

さて、最後は現在進行中の「謝ったら死ぬ病」を見てみよう。新型コロナ騒動である。今の日本の「感染症の専門家」「メディア」「政治家」はもはや東氏が指摘する通り、訂正を過度に恐れている状態にあるのではないか。「人流と酒と若者が悪い」という設定が専門家の間では確固たるものとなったが、「第5波」の急激な減少はこの3要素では説明がつかない。専門家はそこを突っ込まれても「マスクをピタッとした」などと逃げるだけ。

初期の頃、思い出すのは加藤勝信厚労相(当時)が、2020年2月17日に「37.5度以上の熱が4日続いた場合」にコロナの相談をするよう発表。すると、「4日」以前に重篤になったり、本当に苦しいのに相談に乗ってもらえない例も見られた。そのため5月12日に加藤氏は「目安ということがですね、何か相談とか受診の一つの基準のように、われわれから見れば誤解ですけれども」と言い放ったのだ。

自身で方針を示し、それに国民も保健所なども従ったのに、いざ問題が発生すると「誤解だ」と言った。いや、国なり厚労省のトップがこの場合にしても「当初は分からないこともあったのであのように伝えましたが、4日待たないでいいです。キツかったらすぐに保健所や病院へ相談してください」と、悲鳴が聞こえてきた3月にもう宣言していてよかったのだ。

ワクチンについてもそうだ。接種券に書かれているのは「新型コロナウイルス感染症の発症を予防します。本ワクチンの接種を受けた人は、受けていない人よりも、新型コロナウイルス感染症を発症した人が少ないということが分かっています」に加え、表組の中の「効果・効能」には「SARS-CoV-2による感染症の予防」と書かれている。

しかし、もともとワクチン接種開始が遅かった日本では政権批判派がその遅さを批判の材料にする。当初は最優先対象である「医療従事者・高齢者・ハイリスク層」が打ち終わったあと、陽性者の数が多かった20〜30代を次に優先する方針としていたが、少しずつ「50代が重症化する」という説が広がり始め、小池百合子・東京都知事が「50代問題」と言い出し、40・50代への接種を急ピッチで進める混乱もあった。

その間、ワクチンの効果については「発症予防」「重症化予防」だったのに接種券の注意書きに記載されていない「利他的に打つべき」「大切な誰かを守るために打つべき」に加え「感染予防効果がある」ということになった。

しかし、世界屈指の接種率を誇るイスラエルとシンガポールで、さらにはイギリスでも陽性者が激増すると「感染予防効果がある」論者は次第に元気をなくしていく。ツイッターでそのことを指摘されると「バリバリ最初からその主張なのですが…」と某医師は答えたが、これに対しては、続々と過去の発言のスクリーンショットが晒され、矛盾が突かれまくっている。

恐らく同氏も「謝ったら死ぬ病」なのだろう。「当初の見込みと違いました。ごめんなさい。当時の発言については撤回します」と言えばいいのに、「バリバリ最初からその主張なのですが…」と来た。今後、同氏の過去発言との矛盾は次々とスクショ保管され、同氏はますます謝れない状態に追い込まれていく。

私のように「謝るのなんてタダじゃん」と思う人間からすれば、なんで「謝ったら死ぬ病」にかかるのかよく分からない。結局プライドが高過ぎるのであろう。人生を楽にするのは、無駄なプライドを捨てることに尽きる。


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