聞き手:神保勇揮・松坂俊(マッキャンマレーシア) 文・構成・写真:神保勇揮
グローバル広告会社のマッキャン・ワールドグループ ホールディングスは、独自調査レポート「TRUTH ABOUT GENZ IN JAPAN~日本のZ世代の真実~」を発表した。
同調査は日本、中国、韓国、アメリカ、イギリス、ロシア、南アフリカ、ブラジルなど26カ国で実施しているグローバルリサーチの一貫として行われ、日本版では国内13〜25歳の若者に対する追加インタビューも実施し作成している。
調査のサマリーでは、
・「急速で」「嘘がなくリアルで」「感覚的に信じられる」ものを求めている
・ジェンダーやセクシャリティといった社会問題に違和感を覚えている一方、周りからはみ出すことを恐れ自らアクションすることは望まない
・常時接続が当たり前の世代だからこそ、孤独感が増している
など、現代の若者像が描かれており興味深いと感じる一方、メディアによってある種の「理想的なZ世代像」ばかりが喧伝される姿に違和感を覚える読者も少なからずいるのではないだろうか。
今回は同レポート作成およびZ世代へのインタビューにも携わった、マッキャンエリクソンの上坂あゆ美氏に、改めて「Z世代の真実」について話をうかがった。
上坂あゆ美
マッキャンエリクソンプランニング本部 ほんとプランナー
美術大学グラフィックデザイン専攻を卒業後、 国内PR会社に入社。
2017年、マッキャンエリクソン入社。
社内若手組織「McCANN MILLENNIALS」のコアメンバー。 また、副業で短歌を制作する歌人でもある。
「他人と違って当たり前」「大人世代に対する疑念・諦観」
以下、すべて同社提供資料より
―― 今回のレポートでは、日本のZ世代の特徴を「急速」「感覚的」「完璧さより真実を好む」「国や時代を超える」「違うことは当たり前」「繋がりの矛盾」という6つのキーワードで評しています。この中で「まず前提として知っておくべき要素」は何でしょうか?
上坂:私自身、1991年生まれの30歳でZ世代より少し前の世代ではありますが、アンケート結果と若者のインタビューを通じて強く感じた特徴としては「上の世代に対する強い疑念、諦観を持っている」「他人と考えが違うのは当たり前。あなたの価値観を押し付けないでほしい」の2つです。これらは私もかなり共感できます。
―― これら6つのキーワードは、Z世代の何割ぐらいに該当すると思いますか?
上坂:あくまで私個人の感覚的な割合になってしまいますが、「急速」「国や時代を超える」が7〜8割ほど、「繋がりの矛盾」「違うことは当たり前」が5〜6割ぐらいという感じでしょうか。
そして強調しておきたいのですが、若い世代であればあるほど個人の意識や嗜好は多様化しているので、前提として「Z世代全員に当てはまるような概念はない、それほど多様な世代である」ということをご理解いただきたいと思います。
―― 「急速」の項目では、ショート動画や「0.5手間料理」の流行を紹介し、新型コロナも含む社会課題に「迅速な対応」を求めると説明しています。
上坂:「コスパ」ならぬ「タイムパフォーマンス」の感覚はZ世代の中で最も共有されているのではと感じます。世界に情報やコンテンツが溢れかえっているので、いかに短時間でメリットがあるのかというシビアな目線が非常に強いです。先日話題になった「ファスト映画」も現状では違法ですが確かなニーズがあります。
―― なぜZ世代はそこまでタイムパフォーマンスを求めているのでしょうか?それだけたくさんのコンテンツに触れたいのか、やりたいことが多すぎるのか。何に追われているのでしょうか?
上坂:一番大きいのは、TwitterやTikTokなどでのショート動画でわかりやすい、面白いコンテンツが既に大量にあるからだと思います。そして皆さんも自分の中高生時代を思い出していただきたいのですが、結構忙しくなかったですか?
―― 言われてみれば学校に行って部活をやってバイトをやってと、みんなスケジュールがカツカツでしたね。
上坂:朝練がある子もいるし、塾に通っている子もいる。そもそもが皆「多忙なビジネスパーソン」のようなものだと思えば、そういう風になるのかなという気もします。
「Z世代だからみんなリベラルでエシカルなんでしょう」は間違い?
―― その他にも「日本のZ世代論ではあまり言われないけれど、重要なこと」はありますでしょうか?
上坂:ひとつ言えるとすれば「Z世代だからみんなリベラルでエシカルなんでしょう」という認識は一面的でしかない理解だということでしょうか。
これは日本に限らないグローバルな傾向ですが「人それぞれいろんな事情を抱えているし、考え方も違うよね」という考えが共通認識になってきています。だからこそ「普通はそう考えるよね?」と、世の中のマジョリティを前提にした意見を押し付けられることを非常に嫌います。
またZ世代は平等性への関心が高いという調査結果もあります。例えば「Shibuya109 Lab」が15〜24歳の男女に行った「SDGs項目の中で日本はどの分野に注力していくべきか」という調査では、一番多かった回答は「ジェンダー平等を実現しよう」でした(全体33.6%、男性22.3%、女性45.0%)。
一方で欧米では注目されている気候変動対策に関しては全体の24.4%しか注目されていません。全国平均で言えばさらに関心度は低いと思います。日本のZ世代でいうと唯一身近に感じられる、一番違和感を覚えやすい問題が、たまたまジェンダーだったというのが現状ではないかと思っています。
今回、当社の調査でZ世代の子たちにインタビューをした際にも「自分の周囲にゲイ、レズビアン、バイセクシュアルであると公言している友達が普通にいる」という発言を何度も聞きました。なぜそうした風潮になってきたかといえば、先程申し上げた「みんな違うのは当たり前だから」という考えが浸透しているからではないかと思います。
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