Illustration by Makoto Muranaka
このたび、『藝人春秋FINDERS』を新連載する、浅草キッドの水道橋博士です。
ボク自身の活字連載のライフワークとして『藝人春秋』シリーズを一つのSAGAとしてタイトルを統括的に使っているので、今回もFINDERS誌のタイトルをMIXして、ボクの芸人生活の中の「発見」を一葉の写真のように切り取りながら、この連載を読む若者の生き方のヒントや「発見」につながる連載にしたいと思います。
第1回目は、ボクの最新巻『藝人春秋Diary』(スモール出版)の出版について。
ボクのタレントの副業である「本業」について、出版業界の裏側と単行本化までの実体験を後進の若いライターの参考になるべく詳しく書き残しておきたいと思います。
水道橋博士
お笑い芸人
1962年岡山県生れ。ビートたけしに憧れ上京するも、進学した明治大学を4日で中退。弟子入り後、浅草フランス座での地獄の住み込み生活を経て、87年に玉袋筋太郎と漫才コンビ・浅草キッドを結成。90年のテレビ朝日『ザ・テレビ演芸』で10週連続勝ち抜き、92年、テレビ東京『浅草橋ヤング洋品店』で人気を博す。幅広い見識と行動力は芸能界にとどまらず、守備範囲はスポーツ界・政界・財界にまで及ぶ。
原稿発注を待つのではなく、自分から売り込みをかけていく
サブカル主体のフリーライターの多くは歳を重ねると、現場編集者より年上となり、必然的に原稿の発注が無くなってくると言われています。
サブカルの大御所・みうらじゅんさんに言わせれば、「フリーライター=ひとり電通」であるべきであり、長く仕事をするためには、自分が書ける新ジャンルの企画プレゼンを編集部に常に提示し、単発記事ではなく連載枠を新たに勝ち取り、時には出版社社員との飲み食いを自腹で接待することも辞さず、運命共同体であるべき編集者と二人三脚で最終出口の単行本化までの導線を明確にすべきことらしいです。
そこでは作家然として書斎で原稿の発注を待つのではなく、自分から売り込みをかけていくセールスマンの姿勢が必要であると説いています。
『藝人春秋Diary』は10月18日にスモール出版から上梓されるボクの単行本です。
『藝人春秋』の単行本は、10年前に『藝人春秋』、4年前に『藝人春秋2』上下巻が文藝春秋から出ているので、今回の単行本はシリーズ第3刊目に当たります。
梗概は、ボクが主人公・語り部として芸能界を横断的に語る准ノンフィクションの交流禄、月旦評、人物ルポとして書き進められています。
第1巻は「芸能界に潜入したルポライター」の設定と「この世のものとは思えぬあの世」に生きる芸能人の死生観を問うというテーマ。
第2巻はルポライターからさらにキャラを推し進め、ボクが「芸能界に潜入したスパイ」として映画『007』の設定を持ち込み、結果的には大阪のテレビ界のプロパカンダの黒幕を告発するというテーマがあります。
そして、今回は1・2巻のテイストを踏襲しながらも、徹底的に日付と日記に拘り、「文に寄って人と人生をつなぐ」をテーマにした1冊となっています。延べ52章、全650頁という大冊でもあります。
本書は、『週刊文春』に2016年から2017年にかけて60回に渡って連載された下原稿を1号も欠かすこと無く全文掲載し、また挿絵の江口寿史先生のイラストも新たな描き下ろしを含めて60点も採用した本にもなっています。
解説で文庫の付加価値を与え、単行本と区別化
さて、ここまで来るには一筋縄にはいきません。
今、新刊はいかにして作られるのか、ライターのモチベーションの持ち方、出版社巡りのノウハウをご紹介したいと思います。
今年は、この本の前に単行本の『藝人春秋2』の上下巻が『藝人春秋』2・3として文藝春秋から3月9日に文庫化されました。
文藝春秋は大手出版社なので、自社の単行本は期間をおいてシステマチックに文庫化されることが通常です。
しかし、今回、ボクは一般の文庫化にはない異例なことをやっています。
それは文庫解説の1万文字縛りです。
多くの文庫は3千から4千文字の解説が通常ですが、ボクはあえて文庫の付加価値を与え、単行本と区別化したいので解説文の徹底増頁をお願いしています。
『藝人春秋2』はラッパーのダースレイダーさん、『藝人春秋3』は映画解説家の町山智浩さんに、1万文字の徹底解説を売りにしています。ページ数にして20頁弱もの枚数です。
異例ですが、こうすれば単行本を買われている読者も文庫版も買い置きたい動機づけなると思います。
『藝人春秋1』の文庫化の際には、ボーナストラック版として『2013年の有吉弘行』を加えていますし、解説には旬の芸人であるオードリーの若林正恭くんを迎えて、文庫本は単行本の進化系であることをアピールしています。
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