CULTURE | 2021/10/01

還暦間近59歳の水道橋博士が「異常な執念」で本を出し続けられる理由【連載】藝人春秋FINDERS(1)

Illustration by Makoto Muranaka
このたび、『藝人春秋FINDERS』を新連載する、浅草...

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原稿をリニューアルするためにnoteでの連載を開始

さて出版不況は続く中、新刊出版も著者がアピールしない限りは出版社からはなかなか動きません。『藝人春秋Diary』の原稿は連載終了から3年を経ています。

まず原稿をリニューアルするために今年の正月から「note」の連載を新たに始めました。

note版『藝人春秋Diary』は、週刊誌の連載原稿に「その後の話」を加えた原稿を1記事100円の課金をして再連載しました。

こうすることで、他社の編集者に対して未単行本化の原稿の存在のアピールが出来ると共に、60回分の原稿の推敲、再チェックになります。

この本の単行本化に向かって、まず会合を持ったのが2020年の12月6日です。

場所は紀尾井町の文藝春秋のサロンでした。長年の担当編集者であり、現在ノンフィクション出版部の目崎敬三さんを連れて、小田慶郎週刊文春出版部長に直談判して、ここで自分の単行本化の構想をお話しました。

まず連載を終えた60回分の原稿があること。加筆修正を終えているが、その分量を丸々単行本化すれば約3冊分の原稿量になるので、今後1年をかけて4カ月おきに3冊出版したい意向。

第2案は、文庫がシリーズ化するのであれば、最初から文庫オリジナルとして4カ月おきに『藝人春秋3〜5』で出版させて欲しい旨の2案をお伝えましたが……結局、交渉は不調になりました。

文藝春秋側からの提案としては、今の原稿を念入りに推敲して単行本一冊にまとめあげること。あるいは電子書籍なら3冊分、全文採用は可能であり、すべてをデジタルで発表後、その後にアンソロジーとして1冊の単行本に纏めるという妥協案もありました。

いずれも答えは予想済みだったので一端保留にして、原稿を持って他の出版社と交渉をすることの了解を得て、この日は終わりました。

その後、noteに連載を始めてプレゼンの形を整え、2021年1月20日に講談社に伺いました。

旧知の編集者である「現代ビジネス」の編集長・阪上大葉さんのお迎えで『小説現代』編集長及び出版部部長の塩見篤史さんと面会しました。

ちなみに『藝人春秋』は10年前の「講談社エッセー賞」の候補作にもなっています。塩見さんとは初対面ですが、作者のボクが自らセールスポイントを語ります。

「まず『藝人春秋』と題した『週刊文春』に連載された原稿が、あの『講談社』から出るのはニュース性もあります……」などと。(ちなみに師匠・ビートたけしの最新刊『弔事』は、フライデー事件で因縁のある講談社から出版されています)

話合いは2時間に及びましたが結局、出版確約には至りませんでした。

その後、敬愛するノンフィクション作家の田崎健太さん、柳澤健さんを担当する編集者・樋口健さんを通じて原稿は『光文社』ノンフィクション部に持ち込まれましたが、ここでも最終的には不調に終わりました。

その頃、ミュージシャンの西寺郷太くんに紹介されたのが『スモール出版』です。

ここでは西寺郷太くんの『伝わるノートマジック』を単行本化しています。

この西寺郷太くんの高校生時代のノートの美しさに単行本化を提案したのはボクでした。

社員が3人しかいないスモールな会社は東中野の雑居ビルの一室が編集部ですが、過去にRHYMSTERの宇多丸さんの本や、近田春夫さんの本、町山智浩さん、高橋ヨシキさんの本など、ボクと懇意の人のサブカル本を出しています。

『ノートマジック』の出版イベントの時は、ボクも西寺郷太くんの対談に参加して、ダンカンさんの手書きの企画書の存在をボクが中村社長に示唆して、まさにそのアイデアが『ダンカンの企画書』として単行本化に結実する過程の最中でした。

編集部で中村社長にボクの構想を朗々と語ります。特に喰い付いてくれたのは、江口寿史先生の絵を1枚も落とさないで60枚完全再録するというくだりです。

中村社長も江口寿史先生の大ファンであり、またスモール出版で販促で作っている近田春夫さんのビブラストーンのTシャツを江口先生が密かに購入していることもわかりました。

そして単行本は3冊に分けること無く、1冊の大部の単行本で出版することが決まりました。

博士本人が文庫を千冊買い取り、2千冊の増刷をかけて欲しいと直談判

ここで大事なことは本作が文庫化の際に、もう一度、文春文庫に並ぶことです。

中村社長には、文藝春秋に足を運んでもらった、担当者にご挨拶をしていただき、文庫シリーズの継続をお願いしてもらいました。

その後、文春文庫担当で、以前にも単行本作りで知遇のある斎藤有希子さんに、現在では文庫の2と3が本屋に流通していて、文庫の1が絶版になっている状況を打開したいので、著者本人であるボクが文庫を千冊買い取るので、2千冊の増刷をかけて欲しい旨を直談判して了解を得ました。

今や、千冊の文庫が詰め込まれたダンボールが我が家の玄関に山積みされていますが、これは今後、本屋ではなく自分でサイン本を通販、手売りしていきます。

その後、6月4日には、ボクを『週刊文春』の連載に抜擢してくれた新谷学編集長とボクのYouTube番組『博士の異常な対談』の第1回目のゲストにお呼びしました。

現在では月刊文藝春秋の編集長ですが、ボクは手土産として、『週刊文春』連載復帰のため、何時でも始められるように『藝人春秋』向けの新ネタ250本の見出しを考えて持参しました。(新谷さんは、このコピーを持ち帰り、週刊文春編集長と共有されましたが、結局、『週刊文春』の連載復帰は見送りになりました)

その後、この『藝人春秋』用の250個の見出しは、目崎敬三経由で知己を得た『サンデー毎日』の編集部に提出し、『芸人余録』というタイトルで『サン毎』の連載のお仕事につながっていきます。

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