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2021〜22年ごろのバブルめいた狂乱は落ち着いてきた感もあるが、キャラクタービジネスに留まらず今なおNFTをビジネス活用する事例は増え続けている。
だが、NFTのビジネス活用で誤解してはならないのは「人気のタレント、キャラ、ブランドを引っ張ってくればそれでOKではない」ということだ。世界的な人気を誇るポルシェのNFTプロジェクトが失敗したにも関わらず、それまで無名だった「サルのイラストNFT(Bored Ape Yacht Club)」がサザビーズで約27億円で落札されるという違いが起こるのはなぜなのか。
その答えは「IPビジネスにおけるコミュニティの捉え方の違い」にある。
※本記事は7月1日に出版されたcomugi『デジタルテクノロジー図鑑 「次の時代」を作る』(SBクリエイティブ)に収録されたコラムを再構成して掲載しています。
comugi
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シンガポール拠点のweb3ファンド「Emoote(エムート)」共同創業者。ビジネス書の編集者、グローバルWebメディア日本版の編集長を経て、現職。ベンチャーキャピタルのリサーチャーとして、web3をはじめとしたデジタルテクノロジーの最前線を追う。新旧のデジタルテクノロジーに精通し、全体像を直観的に把握できるシンプルな図解と、平易な言葉による「誰にでもわかりやすい解説」に定評がある。Twitterやブログなどを通じて、デジタルテクノロジーに関する最新情報を発信中。
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「コンテンツ」から始まるWeb1・Web2のIP、「コミュニティありき」なweb3のNFT
web3のNFTプロジェクトを見ていて非常に興味深いのは、Web1、Web2のIPビジネスとは、発展のプロセスが根本から違うことです。
まずWeb1のIP(知的財産)から見ていきましょう。日本には『ドラゴンボール』『ONE PIECE』『ポケモン』など、インターネット普及前に生まれた世界的に人気が高いIPコンテンツがたくさんあります。
これらのビジネス展開としては、
“原点”となる原作が発表される(マンガ、小説、ゲームなど)
↓
(ゲームはストーリー化を経て)アニメ化でマス認知を獲得
↓
映画化、グッズ、おもちゃ、DVD、ゲームなどにマルチ展開、コンテンツを広範囲でマネタイズ
↓
定期的に“続編”をつくってロングセラー化をはかる
というのが基本的な流れです。
ひと昔前では「アニメ化=テレビ」でしたが、近年はNetflixなどで、 いきなりグローバル市場に乗ります。『鬼滅の刃』は、その流れに乗って急速に世界的人気を獲得した典型例でしょう。
Web2では、このWeb1の流れに次のような「拡散」の要素が加わります。
ファンのSNS発信
↓
映画、テレビ、動画配信で定期的に話題づくり
↓
ネットニュースでさらにSNS拡散/二次創作でさらに拡散/切り抜きによるショート動画でさらにSNS拡散
↓
スマホゲーム化により、ファンが習慣的にキャラ&物語に接触する状況をつくる
という具合です。こうした新たな手法で再びブレイクを果たしたIPがたくさんあります。
他方、web3のNFTプロジェクトの場合は、「ジェネレーティブNFT(編集註:表示されるキャラクターの色や服などが自動生成されたNFT)」によって最初に資金が集まったことから、すべてが始まっています。その基本スタンスは、「消費者層の拡大」よりも「コミュニティの強化、コミュニティへの利益や楽しみの還元」にあります。
ジェネレーティブNFTのプロジェクトでは、アルゴリズムによる自動生成によって、1万点など多数の作品が一気にリリースされます。そのため「NFTアートシリーズ」として、短期間で大きな金額が動くことになり、「個々人がそれぞれ個別のNFTアートを保有している」というより、「そのシリーズの保有者コミュニティ」が形成されます。また、ジェネレーテ ィブNFTのプロフィールピクチャーはデジタル世界での“アイデンティティ”となるため、自然と保有しているNFTや、そのコレクション自体に対する愛着が高まります。
そのうえで、アート、音楽、ファッション、映像、イベントといったプロジェクトが展開していくというわけです。そして、こうしたさまざまなプロジェクトを通じて、コレクションの存在が広く認知されるようになれば、それだけ NFTの価格は上昇します。かくして一層コミュニティは強化され、さらに大きなプロジェクトへと発展していく。そんな流れが、今 ではメタバースプロジェクトにまで広がっている「ボアードエイプヨットクラブ(Bored Ape Yacht Club)」などで、今まさに進行中なのです。
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