CULTURE | 2023/04/25

アフターコロナの夜は何をどうして過ごせばいい?人の好奇心を刺激し、昼の立場が霧散する「夜の価値」を改めて考える

最近、街で外国人観光客の姿を見ることが日を追うごとに増えたし、マスクの着用も任意となった。スポーツ観戦や音楽ライブでの声...

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最近、街で外国人観光客の姿を見ることが日を追うごとに増えたし、マスクの着用も任意となった。スポーツ観戦や音楽ライブでの声出しも解禁されるようになってきた。とはいえ新型コロナの感染を一切注意しなくて良くなったわけではないが、徐々に「2019年以前の日常」に戻りつつあるようにも感じる。

だが、この奥歯にものが挟まったような感覚はなんだろう。数年ぶりに大人数で開催した飲み会は確かに楽しかったけれど、昔のように頻繁にやらなくても良いような気がしてしまう。夜遊びをするモチベーションが以前よりも下がってしまった気がしてならないのは、自分が3年分歳をとってしまったからだけだろうか。

そのモヤモヤに加えて「そういえばコロナ禍直前まで最高潮に盛り上がっていたインバウンド観光や、ナイトタイムエコノミー関連の議論はあれからどうなったんだろう?」と気になった。

日本の、夜の、観光や経済は「再起動」するのだろうか。それとも全く別のあり方に変わっていくのか。ナイトタイムエコノミー推進協議会の代表理事である、弁護士の齋藤貴弘さんに話をうかがった。

聞き手・文・構成・写真:神保勇揮(FINDERS編集部)

齋藤貴弘

ナイトタイムエコノミー推進協議会 代表理事弁護士(Field-R 法律事務所)

弁護士として文化芸術や各種エンターテインメントに関する法律コンサルティングに加え、法律やルールを戦略的に活用して事業推進をしていく戦略法務領域、法規制対応や政策立案等のルールメイキング領域にも注力する。ナイトエンターテインメントを規制する風営法改正を官民様々なステークホルダーとともに実現し、「ナイトタイムエコノミー議員連盟」民間アドバイザリーボード座長、観光庁「夜間の観光資源活性化に関する協議会」有識者として、ナイトタイムエコノミー施策をリード。関連著書に『ルールメイキング:ナイトタイムエコノミーで実践した社会を変える方法論』

日本人の夜の過ごし方も、インバウンド観光客のニーズも「コロナ前」には戻らない?

―― まず、ナイトタイムエコノミー推進協議会がコロナ禍以降、どんな活動をされていたかというお話をうかがいたいと思います。

齋藤:22年夏ぐらいからナイトタイムエコノミーの再始動に向けたトークイベントやワークショップを集中的に開催し、noteで公開しています。

ーー 2022年秋ぐらいからは徐々に都心部で訪日観光客の姿を見かけることも増えた印象があるんですが、日本政府観光局が出している統計を見ると今年に入ってもまだ2019年比だと6割ぐらい(1〜2月の推計値がそれぞれ約150万人、3月が約180万人)なんですね。

齋藤:おっしゃるように数字と肌感覚の違いは結構感じますよね。このインタビューの前に京都、福岡に行ってきたんですが、ナイトクラブやバーも賑わっていましたし、屋台の行列も見かけました。京都でもタクシーの運転手さんに話を聞くと「コロナ前に戻った感覚がある」と言っていました。2023年、数字だけで言うと、コロナ前の水準に一気に回復していくと思っています。

ただ、いきなり本質論を言ってしまうと「それでいいんだっけ?」という思いがあったりもします。パンデミック前のナイトタイムエコノミー政策は、主にインバウンド観光客の数、消費額を増やすという観点から推進されてきましたが、夜は観光客のためだけの場ではありませんよね。ナイトタイムエコノミーの議論が誕生したきっかけとなった2016年の風営法改正は、クラブカルチャーやダンスを守りたいという約16万筆の署名からスタートしたのですが、署名をしてくれた人たちはインバウンド消費を増やしたいからそうしたわけではありません。実際、当初のナイトタイムエコノミー政策は、さまざまな店舗事業者やアーティスト、まちづくりセクターなどが関わって作られてきたもので、インバウンド観光産業だけのものではありませんでした

そのような思いから、2019年には、単なる観光消費増加という枠組みを超え、より本質的に夜が持つ文化的な価値、あるいは夜がもたらす都市の創造性という視点でのリサーチを行いました。ある種の原点回帰が必要だと感じていたんです。そのような動きをしていた最中に、新型コロナのパンデミックが起こり、インバウンド観光は文字通り蒸発してしまいました。

ーー インバウンドがなくなってしまい、パンデミック中はどのような活動をされていたのでしょうか?

齋藤:パンデミック当初はクリエイターや店舗事業者の活動が完全ストップし生きていけなくなったにも関わらず政府の補償が非常に薄かった。メディアでは「夜の街」が悪の温床のように報じられていましたよね。そのため政府や自治体に対してロビイング活動を積極的に行っていました。雇用調整助成金の拡充や持続化給付金などに発展していったものですね。

それに加えて、コロナ禍では人が密集する都市部ではなく、地方の夜を中心に観光庁と一緒にコロナ回復後を見据えたリサーチや事業開発も行っていました。日本の各地域には地域固有の本物の文化が多様にあり、それらは過去から受け継がれてきた唯一無二の価値があります。都心部での密を避けざるを得ず、海外への移動もできなくしたコロナ禍は、これまであまり知られていなかった日本各地の魅力に光を当てました。このあたりの活動は、「オーセンティシティ(本物さ)」と「ローカリティ(地域性)」をキーワードに「文化・観光・まちづくり」を横断する視点で行ったインタビュー・リサーチ「Re:TOURISM」として公開されています。

ーー パンデミックも終わりが見えてきた22年からトークイベントの「Voices of the Night」シリーズを定期的に開催していますね。

齋藤:先ほど「原点回帰」という話をしましたが、協議会では設立当初から、文化・観光・まちづくりのバランスを重要視しており、政策形成は関係する多様なステークホルダーによるオープンな議論を通じて実現されるべきと考えてきました。風営法改正も署名活動が起点でしたし、その後のナイトタイム議員連盟においてもマルチステークホルダーによるボトムアップのアプローチを大切にしていました。

そのためにはさまざまな民間企業やクリエイターの生の声に耳を傾けることはもちろん重要ですし、同時に国や自治体、政治家とも密に連携を取る必要がある。そのための立場や肩書を超えた交流の場が必要だということで、「Voices of the Night」というタイトルの自主イベントを開催し、関連する他団体のカンファレンスなどにも積極的に登壇しています。パンデミックで中途半端に終わってしまっていたナイトタイムエコノミーの原点回帰に向けた活動を再開したわけです。

2023年2月には老舗クラブの京都メトロで「Night Camp KYOTO vol.1」を開催。第一部のトークイベントでは仲西祐介氏(KYOTOGRAPHIE 共同ディレクター)、原智久氏(京都市文化芸術企画課担当課長)がゲスト登壇した
Photo by 合田直生

これらのイベントでは、いわゆる「識者のパネルディスカッション」だけでなく「そもそも夜ってどういう価値があるんだっけ」「その価値を活かすために何をすればいいんだっけ」という対話型のワークショップも行っています。コロナ前に戻す、というベクトルではなく、アフターコロナの新しい夜を作っていくための議論が重要だと考えたんです。

2022年10月に開催された「Night Camp TOKYO Vol.2」でのワークショップでの議題

「誰もが楽しめる夜をつくる」をミッションに掲げるナイトデザインカンパニーNEWSKOOLと共にワークショッププロトタイプを設計した
Photo by Aya Tarumi

また2022年9月には日本全国のエリアマネジメント団体が一同に会する全国エリマネシンポジウムでナイトタイムエコノミーをテーマにお話をさせてもらいました。それまで「夜」という切り口でまちづくりを真正面から議論することはなかったようで、日本全国からとても大きな反響がありました。その後、東京のまちづくりを担う人たちに集まってもらい「夜とまちづくり」をテーマにしたワークショップを行いましたが、とても面白かったです。

コロナ禍によって多くの人の間で一度「通勤」という概念がなくなってしまったことで、オフィスを起点とする街の成り立ちが根底から変わってしまいましたよね。オフィスに通勤し、仕事が終わった後にアフターファイブとして夜を楽しむ。そんな仕事帰りのオフィスワーカーのための夜だけではなく、多くの人が多様な楽しみ方を見出せる夜のあり方について議論をしました。

具体的にはワークショップ参加者に様々な人の属性を書いた役割カードを配り、別人になりきってもらって夜の街にどんなことが必要か話をしました。国交省の官僚の方が前衛的なアーティストの立場になったり、DJの方が都市農園のオーナーの立場になったり。夜に関わる人を多様にすることで新しいアイデアがたくさん登場し、これまでにないカラフルな夜のイメージが広がっていきました。

ーー パンデミックを経て、夜に対しての意識の変化は感じますか?

齋藤:コロナ禍を経てひとつ大きく変わった価値観として「自分の人生を謳歌する」という感覚が醸成された印象があります。「なんとなく行っていた仕事絡みのお付き合い飲み会」ではなく、人生を豊かにしていくための夜って何なんだろうかと。昼間の肩書きから離れてより自分らしい姿で、多様な人たちと出会い、新しい文化に触れる。今後、ウエルビーイングの観点から夜の過ごし方を考える雰囲気になっていけばよいなと思います。

音楽やアートの世界などでも、若い世代の子たちが尖った面白いイベントをたくさん企画していますが、最近はSNSでそれを見せびらかすというよりも、むしろ隠して知られにくくするというか、「自分たちが安全に楽しめる場所を作っていく」という志向があると感じることが多いですね。集まる人たちが、お互いに共有する価値観を大切にし、丁寧に関係や場を作っていく。そんな場が増えてきている印象です。

同じく観光の分野でも意識の変化があるように感じます。訪日観光客が急激に戻る中で、観光文脈でも夜が再度盛り上がってきています。富裕層観光や高付加価値化といったワードもよく耳にし、観光消費を上げていくために高単価ツアー造成の必要性を訴える声も聞きます。ただ、個人的な感覚では、お金持ちだからと言って物質的に贅沢な体験を求めているということは全然なく、むしろ逆に、その地域にしかない暮らしの文化に魅力を感じてるように思います。

「訪日観光客が心から楽しめるエンタメ」の多くは「日本人の日常」である

ーー 訪日観光客で言うと、去年たまたま渋谷の路上で40代ぐらいの白人男性から「夜に新宿か浅草に行こうと思うんだけど、どこかおすすめのスポットを知ってる?」と聞かれたことがあるんですが、全然答えられなかったんですよ。東京の夜って何が楽しいんだっけ?とわからなくなってしまって。

齋藤:浅草の夜に走る人力車とか、屋形船で天ぷらのコース料理が楽しめるとか、そういった「ザ・日本コンテンツ」みたいなものを知っていれば良かったということですか?

ーー それだけではないはずなんですが、自分が思いつく夜の遊びというのは、まずスタンダードなものとして飲み食いがあり、プラスアルファで「この日に○○の展示がある、ライブがある」といった目的型イベントの組み合わせなので、「いつ行っても面白い場所」というのがわからないなと。

齋藤:イメージしているのはブロードウェイみたいなものですかね。ロングランコンテンツが柱にあり、他にもいつ行っても何かしら面白いショーがあるというような。

ただ、そうしたものを期待して日本に来る人はどれくらいいるのでしょうか。最近、僕のまわりでも、海外のセレブや有名アーティストが日本に遊びに来ていて「どこに行って何をすべきか」という質問をよく受けるんです。

―― 来日公演をしてくれない有名ラッパーなんかが遊びに来てて「だったらついでにライブしてくれよ!」と突っ込まれるのがお約束になってきましたね(笑)。

齋藤:ですね(笑)。そういう人たちは2週間ぐらい滞在することも珍しくないですが、「日本を味わい尽くすには24時間じゃ足りない」と言っていて全然暇そうにしていない。で、何をしているかというと、実は日本人の日常とそんなに変わらないんですよ。

日本のウイスキーを味わう、ハイクオリティな音響設備のあるリスニングバーを楽しむ、カラオケボックスやゲームセンターも大好きですし、下町の横丁ではしご酒もしてみたい。

―― なるほど。普段使いで楽しめるものを紹介すれば良かったんですね。

齋藤:外国人が東京にどんなイメージを抱いているかと言えば、未だに映画『ロスト・イン・トランスレーション』の世界なのかなと思います。

『ロスト・イン・トランスレーション』はソフィア・コッポラ監督が手掛けた2003年公開の映画。東京を舞台に、倦怠期のハリウッド・スターと、孤独な若いアメリカ人妻の淡い出会いと別れを描く

不思議の国のアリスみたいな世界に迷い込んで、そこにはきらびやかな電飾とローカル商店街があって、夜飲んでいると人と人の距離が近いからすぐ仲間になる。そういう感覚が日本っぽい、東京っぽいんじゃないですかね。今あるものが十分にエンターテインメントとして成立しているというか。

例えばグラミー賞アーティストのデュア・リパは渋谷のゲームセンターでクレーンゲームやプリクラを楽しんでいますし、こういう事例は枚挙にいとまがないですよね。

そもそもセレブなんて世界中の高級レストランを行き尽くし、高級アクティビティを遊び尽くしているわけで、同じ土俵で勝負しても意味がない。取り繕う必要なんかないんですよ。僕らが旅行する時も、地元の人が通う名店で常連さんと話したりする方が楽しかったりするのと同じです。

ーー そういった訪日観光客の感覚と、コロナ禍以降、我々が自宅周辺の愉しみを見直す動きがリンクしているということですね。

齋藤:そうですね。ナイトライフは観光客だけのためにあるわけじゃなくて、まずもってみんなの日常の場です。リラックスしていろんな人と出会ったり、普段考えていることを話し合ったり、いろんな音楽を知ることができたり、人生を少し豊かにしていくための時間帯としてあると思うんです。

先にご紹介した全国エリマネ・シンポジウムで知り合った地域のまちづくりプレーヤーの皆さんと話をすると、多くの人が「うちの街の夜には何もないよ」とおっしゃるんです。でも、実際にそれぞれの地域に連れて行ってもらうと面白いお店がたくさんあり、素敵な人たちを紹介してくれ、いつの間にか夜の自慢話になっている。そこが地域の本当の魅力なんだと思います。

他方で、都市は常に成長し続けており、インバウンド観光客をターゲットにした大型施設もどんどんできていくでしょう。ブロードウェイのような世界に誇るナイトエンターテインメントもあるべきですし、実際にそのような大規模都市開発やナイトエンタメに対する支援もしています。それはそれで都市のダイナミズムとして重要だし、都市間競争を勝ち抜くための都市力になっていくんだと思います。

例えば、イギリスのライフスタイル誌『モノクル』は、東京についてこのようにコメントしています。「我々は、他のどの都市にもない東京の独特な“小さな町の温かみ”と“巨大な都市の興奮”の混在に、いまだに虜になっている」「我々に引き続き感銘を与えるのが、その規模と変化のスピードにも関わらず、この都市は細やかな気遣いがまだ息づく、心を持ったメガロポリス(超巨大都市)である、ということだ」(MONOCLE Quality of Life Survey 2019)

このコメントにもあるように、ナイトタイムはピカピカ、ギラギラを志向しすぎるのではなくもっと、ある種の等身大な夜、なんなら「ちょっとダメな感じ」で良いと思うんです。

ーー 「ちょっとダメな夜」というのはいろんな含意が見えて良いワードですね。気楽でいい、ちょっとぐらい失敗してもいい、そのぐらいのリラックスした感じが一番豊かで楽しいんだというか。

齋藤:石川栄耀(いしかわひであき)という戦前から戦後にかけて活躍した日本の都市計画家がいます。新宿歌舞伎町の命名者もこの人です。この人が「夜の都市計画」について100年ぐらい前にいろんな文章を発表しているんです。東大大学院の准教授で都市計画を研究をしている中島直人さんが各所で紹介する文章を書いていて(リンク先PDF)それが非常にわかりやすいです。

大正時代に入ってようやく各地で電気が使えるようになり、夜間の活動もより広くできるようになったことで「夜の都市では何をすべきか」を真剣に向き合っている内容です。昼間は工場労働などで産業のための人間になることが是とされる一方、夜のとばりが下りるともう少し人懐っこい、もともとの人間らしさを取り戻すことができる大事な時間なんだという。だから夜は「余暇」ではなくて、人生としてはむしろ夜の方が本体であるというような主張をしています。

「経済発展のために何がベストか」ではなくて「人間本来の姿はどうであって、どうあるべきか」を考えていくと、もう少し人間の欲望に忠実なものだったり、昼間にはダメだとされることが、夜なら許されることもある。それが都市にとって重要なんだと。

こういう話はSDGs的な観点で語ることもできて、「誰一人として取り残さない」というスローガンは「昼間だけの価値観」では生きづらい人も包摂するということじゃないですか。実際に、人種的、性的なマイノリティが活動し、新しい価値観や文化、ライフスタイルを生み出してきたのが夜ですよね。

お金も趣味への熱量もなくても楽しめる「渋谷ハロウィンという受け皿」を考える

2019年に撮影した渋谷ハロウィンの模様

ーー そのお話をうかがって、渋谷ハロウィンのことを思い出しました。僕自身も何年か通ってFINDERSにルポ記事を書いたこともあります。あれは何なのかと無理やり言うと「若くてお金があまりない、かつ他ジャンルの大規模イベントに参加するぐらいの熱意を持てる趣味もあまりない」層だと思うんです。言い方は悪いですが「ヌルくてチープだからこそ自分が行っても大丈夫そうだと思える」という点が人を惹きつけているんじゃないかと思いますし、先ほどのお話にあった「SNSには出てこない尖ったカルチャーイベント」を好む層とはまた違った層の受け皿と言いますか。

齋藤:なるほど。エンタメのチケット代も全体的に値上がり傾向がありますし、カルチャー的にエッジーでスノッブな場所にはそもそも興味が無いか、行ってもバカにされるだろうということで敬遠するしという。

ーー はい。必死でナンパする男の子たちの集団もいれば、その声かけを若干期待している女の子グループも結構いるというのも、それこそ日本の昔のお祭りみたいなものかなというところもあります。別のコミュニティで普段からそういうことができていれば「今日はちょっとしたコスプレをして仲間と楽しく飲めればいいよね」と、もう少し余裕のある雰囲気になるかと思うんですが、「この日この場所だから自分ははっちゃけていいんだ」という気負いがあるというか。

齋藤:行き場がない、でもエネルギーが有り余っているから街に出ていくけれど、トラブルも多いのでけしからん、規制せよみたいな話になってくる。そういった意味では普遍的なテーマですよね。

ーー 現地で若者に話を聞いても、フジロックやコミケに対して抱かれるような「渋谷ハロウィン大好きです!」的な帰属意識もないんですね。でも趣味って熱中したらお金も時間も体力も全部使うじゃないですか。誰もが高いモチベーションを保ち続けられるわけじゃないし、そういう趣味がひとつも無ければ人として劣っているというわけでもない。お金も熱意もいらない、でも行ったら「何か」が起こるかもしれない。そんなワクワク感みたいなものを抱ける大規模イベントが他にあるかというと、あまり思い浮かばないんですね。

齋藤:そうなると、ある種のゆるさを規制して商業イベント化をすると一気に廃れる可能性もあるということですね。

ーー そうですね。ただ、物販系の店舗は営業時間の短縮を強いられていますし、みんなコンビニやドン・キホーテでお酒を買っているので飲食店も実はそこまで賑わっていません。そのうえ器物破損の問題もあり、ボランティアがいるとはいえゴミのポイ捨ても激しいです。地域にお金が落ちるどころか迷惑にしかなっていない現状では、企業も区も腹が立つのは当然だと思います。せめてお金が落ちるようになってほしいと思いますが「なぜ渋谷ハロウィンは商業化できないのか」という「できない理由」を多面的な視点で記事にできないかとずっと考えています。

齋藤:「渋谷ハロウィンは日本を代表するコンテンツになる」というクールジャパン的な発想もあるわけですが、お話をうかがっていると、そもそもコンテンツ化、商業化する気がないからこそあれだけ人が集まっていると言えるわけですよね。

ただ、ナイトカルチャー先進国である、オランダのアムステルダムにいる夜の市長の話を聞くと、5日間で世界中から40万人近くを集客する「Amsterdam Dance Event(ADE)」も初年度は事故で亡くなる人が出てしまったのですが、市も全面的に協力して直ちに運営を改善し、今では、450以上のイベントを市内115カ所以上の会場で行い、2000組以上のアーティストが出演する世界最大の音楽イベントにまで成長させています。イベント自体の収益だけでなく、ホテルや飲食などの周辺産業への経済波及効果も大きく、期間中は世界中から音楽業界関係者が集まり、ビジネスにとって極めて重要な場となっており、大いに参考にすべき点はあるように思います。

自由と安全と価値付けと、そのいずれも成り立たせるようステークホルダーたちと合意形成を図り、アクションを続けていくのは非常に大変なことではありますが、ナイトタイムエコノミー推進協議会としても今後、「誰もが楽しめる夜の空間を作ること」を第一義に活動を続けていきたいと思います。