取材・写真・文:神保勇揮
我々もPVが欲しいから渋ハロ記事を書く
この時期、あらゆるメディアの注目を集める渋谷のハロウィン。
酔って騒いでナンパする若者たち、そして昨年の軽トラ横転事件に代表されるような狼藉の数々はまさしく老若男女、日本中から非難を集めた。マスメディアもウェブメディアもYouTuberも「渋谷に集まるバカどもはけしからん」という意見を補強し、SNSで批判を表明するための“素材”を集め、書き入れ時だと言わんばかりに一斉に報道する。この記事もまた「渋谷ハロウィンの写真を撮ってくればPVが稼げるだろう」という下心を全開にして書かれたものである。
筆者が今年の渋ハロで気になったのは「変態仮装行列」(©渋谷センター商店街振興組合の小野寿幸理事長)を筆頭にあれだけあらゆるメディアから非難されてもなお、人は集まるのかどうか。そして、「KAWASAKI Halloween」や「池袋ハロウィンコスプレフェス」、「地味ハロウィン」に代表される、ハイレベルで楽しそうな仮装イベントが首都圏でいくつも行われているにも関わらず、なぜあえて渋谷を選ぶのか。そんな渋谷に集まる人々はどんなことを考えているのか。それを知りたく、渋谷の街を訪れた。
地上に出て10秒でテキーラが飲める…?
渋谷区は今年6月に路上飲酒を禁止する条例を可決(ただし違反した場合も罰則規定はない)し、近隣のコンビニや小売店への販売自粛を要請していたが、筆者が20時半ごろに地上に出ると、なんと10秒で酒を路上販売している光景に出くわしてしまった。
近くに民間警備員の姿はあるがにらみつけているだけ。某ワイドショーのレポーターによるインタビューも始まり、今年のハロウィンは一体何が起こっているんだ…と戦々恐々としていたところ、前述の警備員が応援を呼び、すぐに囲んだうえで「販売自粛」を要請。彼らは荷物をまとめて渋谷の雑踏の中に消えていった。
「今年の人手は少ない」んじゃなかったの…?
多くの記事でも書かれているが、去年軽トラ事件が起こったことで厳戒態勢が敷かれていたハロウィン前の土曜・26日にも渋谷に足を運び、20時ごろから22時過ぎまで滞在していたが、去年の10月31日の人混みを100とすると、せいぜい30から40程度しか来ていないと感じた。
「お酒の販売自粛がうまく作用し、泥酔して暴れたい人は渋谷に来なくなったのでは」という論評も見かけたし、「今年はうまい具合に人が減って良い雰囲気が保たれてるんじゃなかろうか…」という期待感もあったが、渋谷スクランブル交差点付近の光景を見てそんな甘い考えは見事に打ち砕かれた。
これ去年と一緒だ……。
警察・民間警備員から感じる「意地でも大きな事故・事件ナシで終わらせる」という気迫
だが、去年と違うのは散々批判を浴びた「対策費1億円」の投入の効果であり、肌感覚としても5倍以上、ありとあらゆる場所に警官や民間警備員が配置され、一晩中、必死に「立ち止まらないでください!」「車が通るので車道を歩かないでください!」と叫んで誘導していることだ。これによって無軌道な人の流れは抑制され、去年のように「どうなるかわからなくて怖い」と感じることは一晩通して全くなかった。
ちょっとでも人だかりができて「イエエエエエエエイ!!!」と叫べば1分で警備員か警官が駆けつける、外国人がケンカを始めれば1分で警備員か警官が駆けつける、泥酔して路上に寝転べば1分で警備員か警官が駆けつける…という感じで、他の大規模イベントでは見たことがないぐらいの即応体制が敷かれているし、すさまじい数の無線が飛び交っているのか話を聞こうにも30秒スパンぐらいで「あっ…ごめんなさい」と遮られてしまい、申し訳なくなったので話を止めてしまった。
これはあくまで想像でしかないが、やはり去年の惨状が散々報道されたことも大きかったのか「今年は意地でも大きな事故・事件ナシで終わらせる」という気迫を感じた。これはのうのうと渋ハロに足を運ぶ見物客の1人としても、ものすごく心強かった。
センター街の中に入ってみると、前に進むのも困難なぐらいのギュウギュウ詰め状態ではあるものの、やはり警備員や警官が「立ち止まらないでください!」とそこら中で叫び、写真撮影のために立ち止まる人もこまめに注意して回っているので、そこまでストレスは感じなかった。
路上で酒を飲んでいる人がまったくいない?
10月26日に撮影した、某ラーメン店でイエーガーマイスターのショットを販売するためのPOP
いくら路上飲酒が禁止されお酒の販売が自粛されようとも、他地域で購入すればいくらでも持ち込める。だが、20時半過ぎのセンター街においてお酒を片手に持っている人はほとんど皆無だった(警官・警備員が見かけ次第没収または「自粛要請」をしているか、筆者は確認できなかった)。26日時点では入口でイエーガーマイスターを販売していた某ラーメン店でもPOPが見当たらない。話を聞けば警察の指導が入り、自粛したという。
加えて既に路上のゴミを拾うボランティアもちらほら見かけるが、それにしてもゴミやタバコの吸い殻が少ないと感じた。
渋谷ハロウィンに大勢が集まる理由は、大方皆さんの想像通りである
さて、これから渋ハロに訪れている人々に「あらゆるメディアで批判を浴びながらなお、今年の渋谷ハロウィンに足を運んだのはなぜか」と話を聞いていったが、結論から言えばその理由は読者の皆さんが「どうせこんな理由だろ」と想像している通りである。混沌としたエネルギーが渦巻く非日常空間を楽しみたい。池袋や川崎に行って楽しめるぐらいガチなコスプレはできないし、渋谷は一番気軽に行けて、一番有名だから。これに尽きる。
渋ハロ参加2回目のふたり。「いろんな人とコミュニケーションが取れるのが楽しい。すごく批判されていることも知ってるけど、正直行きたい気持ちがある人も多いと思う」
渋ハロ参加2回目の高校生ふたり。「渋谷ハロウィンが一番有名だし、いろんな人と写真を撮るのは楽しい。有名YouTuberに会えるかもしれないというワクワク感もある。去年はそこら中でタバコを吸っている人がいて怖いと感じたけど、今年はそういう人をほとんど見かけない、今のところ悪質なナンパもされてない。ただ1億円も税金が使われているという話を聞くと、来年はもう行かなくてもいいかな…とも思う」
下の写真は二人組の男の子に話を聞いていたところ、5分に1度ぐらいのペースで外国人から「一緒に写真を撮ろう!」とせがまれ、ニュージーランド人のグループと一緒に撮ったもの。彼らも渋ハロ参加2回目だというが、去年よりも外国人の数が増えていると感じるという。「コスプレ文化は好きだけど池袋のイベントには行ったことがないし、渋谷が一番メジャーだからこっちに来た。ナンパには興味ない。よく代々木公園でバスケをするけど、外国人とも一緒にプレイすることが多く、陽気なノリが楽しいし、今日もそのノリが楽しみたくて来た。路上飲酒を禁止したのは良い効果を生んでると思うけど、誰かがタバコを吸い始めると周りで一斉に始まるのがちょっとイヤ」
話を聞いたのは中央奥の二人組。前の三人はニュージーランド人ということでオールブラックスのハカのポーズ
もちろん、こうしたある種素朴に渋ハロを楽しんでいる層だけではなく、ナンパ目的で来ている人も大勢いる。「一緒に写真撮ろうよ!」と声をかけてその後の展開に持ち込めるかどうかという攻防戦があちこちで繰り広げられていた。
声をかけられて楽しそうに話していると見受けられる女の子も少なくない以上、筆者はそれを否定も肯定もしないが、女の子がコスプレをしてセンター街に足を踏み入れればそれこそ5分に1回あるいはもっと多くのペースで「うわっ、めっちゃかわいい子いる!写真撮ろうよ!」などと声をかけられるのは必至だ。ムカつく男がいれば近くの警備員・警官を呼べばすぐに追い払ってくれるだろうが、不快に思う人はやはりコスプレしないで来た方がいいように思う(そもそも来ないだろうが)。
大学生ながら渋ハロ参加4回目のナンパ軍団。「高校生の頃は渋ハロに集まるような人をバカにしてたけど、実際に行ったらハマっちゃった。今年は例年と比べてかなり落ち着いたと思うし、少しでも一カ所に固まってるとすぐに注意される」
20代から40代までの筋肉モリモリナンパ軍団「毎年夏とハロウィンでのナンパですべてを出し切るため、1年中ジムに籠もって鍛えてます」
なぜハロウィンの渋谷でゴミ拾いをするのか
渋ハロには、SNSやメディアでも取り上げられているゴミ拾いのボランティア集団だけでなく、個々人でゴミを拾っている人もちらほら見かけたので話を聞いた。皮肉ではなくとてもありがたいことで、こうした人々もいてくれることが今年のハロウィンの快適性を上げているのは間違いない。
体育祭・文化祭ノリも感じるコスプレが微笑ましい高校生ふたり。「ハロウィンに来てまでゴミを拾ってるっていうのが、地味ハロウィンのネタみたいな感じで面白そうだから来てみた。渋谷が一番拾いがいがある気がしたんで」
渋谷区に35年住んでいるという70歳の男性。「渋谷のことが大好きで、街が汚れるのが我慢できなくて2年前からゴミ拾いを始めた。始めた当時は本当にゴミが酷かったし、酔って暴れる人も多く怖かった。今年はそのどちらも少ないと感じる」
この男性が語る通り、今年の渋ハロはおとなしいという印象を筆者も受けた(警備員・警官による凄まじく努力の賜物であることに間違いないが)。今年は自分もインタビューがしやすいようにと、Amazonで買った安物のウォーリーのコスプレをしていたこともあってか外国人中心に多くの人に声をかけられるし、写真撮影も求められるピースフルな雰囲気が流れていた。
ネットでは「どうせスクールカースト上位の陽キャしかいないんだろ」という揶揄も多く見受けられるが実際そんなことはなくいわゆる陰キャっぽい人もたくさんいるし、コスプレさえしていれば、そしてそれが趣向を凝らしたものであればなおさら、誰でも歓声を浴びてちょっとしたヒーロー・ヒロインになれる。そして、去年の報道での散々な言われようもあってか、今年は心なしか「自分たちはどこでもいいわけではなく、渋谷のハロウィンだから来ているんだ」という帰属意識が芽生えかけているのかもしれない、と感じなくもなかった。
ところが終電がなくなった24時過ぎごろからだんだんとそうした雰囲気が変わり、まさに「変態仮装行列」と言われても仕方のない状況が繰り広げられるようになってきたのだった……。
後編はこちら:
「変態仮装行列」の中で何が起こっていたか。あれだけ批判されても「渋谷ハロウィン」に大勢が集まる理由【後編】