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阿曽山大噴火
芸人/裁判ウォッチャー
月曜日から金曜日の9時~5時で、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載を持つ。パチスロもすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。
※編集部注:本連載は被告人の名前をすべて本名と関連しないアルファベット表記(Aから順に使用し、Zまで到達した際は再びAに戻して表記)で掲載しております
身柄を拘束されながらも生活費に困らないカラクリ
「無名な男」というハンドルネームを用いてFC2コンテンツマーケットで数多くの無修正性交動画を販売し約3億円を売り上げ、サイト内の年間売上ランキング3位を占めたこともあるというL被告人の記事の続きです。
女性の検察官からの質問。
検察官「動画にはタイトルが付いてて、奇抜なのが多いですけど、自分で考えたんですか?」
L被告人「売れないと女性に多くお金を渡せないので、ワードを考えていました」
検察官「面白いのが『即終了あり』とか『特典あり』とか『在庫確認』とかタイトルに付いてて、見ると“あ、買わなきゃ”って思わせるものが多いですよね」
L被告人「それはお客さんに買ってもらうためです」
検察官「私はこういうのを見ないのでね、わからないんだけど、どういうものが売れるんですか?」
L被告人「内容とかタイトルは出演女性と話して決めていて。それでお客さんに買ってもらってました」
検察官「今回証拠になっているので映像見ましたけど、撮る技術高いですよね。アングルとか」
なんと女性検察官お墨付きの出来の良さらしいです。
L被告人「それは見る人が判断することですが、カメラで撮ること自体は、技術が高いというより好きというのはあります」
検察官「あと、女の子の選び方がね、容姿とかスタイルとか、プロの域に達しているのかなという印象受けたんですけど、その辺についてはどう思いますか?」
これまた検察官絶賛。これに対し、
L被告人「20代半ばから水商売をやっていて、ある程度男性が好む女の子のタイプが分かっていたと思います」
この辺のセンスというのはL被告人が長年培った経験に基づくものなんでしょうね。
検察官「女性には日当払ってね、撮影内容も話し合って、出演の強制もしてないし、別にいいじゃんって思いません?」
L被告人「いや、法律に定められているのでいけないことだと思っています」
検察官「今後仕事どうしますか?」
L被告人「刑務所を出てから採用されなかったんですけど、諦めずに探します」
検察官「またFC2やればいいやって気持ちが出てこないとは思えないんですけど」
L被告人「お金に執着はしてないので、実家に帰って就活します」
と、自主制作の同人AVは卒業すると約束です。
最後は裁判官からの質問。
裁判官「調書にも書いてますけど、ヤスダに監視されていたというのはどういうこと?」
L被告人「幼いころに男の人から暴力を受けたりとかがあって、強くせまられると怖くなって思考停止してしまうんです」
裁判官「脅されたらどうすべきでした?」
L被告人「警察なり弁護士なりに相談すべきと今は思います。保護司には言おうと思ったんですが、また刑務所に戻るんじゃないかと考えてしまいました」
男性から高圧的に言われるのが怖いというトラウマがL被告人にはあって、それで断れなかったという一面があったようです。
裁判官「女性の出演料が日当と歩合の違いは?」
L被告人「すぐ欲しい人は日当。貯めたい人は次の撮影の時に歩合で。日当の人でも動画が売れればボーナスとして別に30~50万円渡してましたし、歩合の人にも当日来ていただいているので10万円は渡してました」
裁判官「スカウトバックは月いくらですか?」
L被告人「100万円前後が毎月入ってきます」
裁判官「それは今も入り続けているんですか?」
L被告人「そうです」
こうして身柄を拘束されて裁判を受けながらもお金を手にしているということなのか…。
裁判官としてもまだまだ興味が尽きないようでしたが、時間いっぱいで第2回公判はこれにて閉廷。
「利益が目的じゃないなら何目的だったんですか?」
そして11月2日に続きの第3回公判が行われました。この日は争いのある収入についての被告人質問です。
弁護人「女性への報酬の計算方法は?」
L被告人「FC2に手数料を引かれる前のポイントに、歩合のパーセンテージで渡していました」
弁護人「女性が余分に貰うことになりますよね」
L被告人「きっかけが儲けじゃなかったのと、わかりやすい方法が喜ばれたので」
弁護人「撮影の費用は?」
L被告人「衣装2万円、性病検査1万円、ホテル5万円で、最低でも8万円です。あと、メイクは自前でお願いしてましたが、3回に1回はスタイリストに1万円払ってお願いしてました」
弁護人「次回出演してもらうために女性に対してしたことはありますか?」
L被告人「脱毛やエステ、整形などメンテナンスのお金を負担していました」
動画が売れているだけであって、相当金払いが良かったようですね。
弁護人「出演した女性の紹介で出演した場合、紹介者にお礼とかはありました?」
L被告人「友達がやりたがっていると言われれば、写真を見てから会って。出演が決まれば売上の20%を紹介料として渡してました」
弁護側としては、女性に還元していたし、残ったポイントも現金化するにはいろんな手数料などがかかって、あまり手元には残らなかったとアピールしています。
続いて女性の検察官からの質問。
検察官「エステ代、整形代。なんでそこまでしちゃったんですか?」
L被告人「利益が出たというのもありますが、商売としてやってなかったので女性に貢献しようと」
検察官「動画にはいろんなアングルがありましたけど、機材の扱いは1人ですか?」
L被告人「はい、1人です」
検察官「一番気になったのは、なんで男優がいなくて、被告人自身なんですか?」
L被告人「知り合いがいなかったのと、女性を傷つけたりする可能性を考えると他の人にお願いするのが不安だったので」
検察官「私の妄想ですけど、結構体力使いますよね。面接して、企画、撮影、編集。そして男優まで全て1人」
L被告人「体力には限界を感じてました。誰かを雇ったりとか経費を使うくらいなら女性に使おうと思っていたので」
自分の体力の限界ギリギリまで酷使して、女性のために撮影を続けていたんだという認識だったんですね。
最後は裁判官から。
裁判官「利益目的ではない、と。じゃあ、何目的だったんですか?」
L被告人「服役中に真面目に社会貢献したい、社会の役に立ちたいと思って出所したんですが、前回話したようなことがあって、悪いことをしてるとは思っていました。でも、罪滅ぼしというとアレですけど、誰かの役に立っているというのが…女の子に撮影をお願いされていたのが一番です」
裁判官「報酬目的の声に応えたかった?」
L被告人「はい。あと、男性といるより女性といる方がリラックスできたのもあります」
裁判官「それは性的な満足感ですか?」
L被告人「それはなかったです。男性には恐怖感があるという感じです。アダルトな動画なので性行為は必ずあったんですけど、ホントは避けたい、できればそれで売りたいと思ってました」
裁判官「でもそれでは売れない。売れなければ女の子にお金も払えないし、撮影もできなくなる、と」
L被告人「そうです…」
本人の中では作りたい動画があったんでしょうね。作りたいのは売れない作品なので仕方なくわかりやすいものをという、どの創作活動にも通ずる悩みに聞こえてきます。
前回途中になった質問です。
裁判官「生活費はスカウトバックだと。これは振り込まれるんですか?」
L被告人「会社に取りに行きます」
裁判官「払ってくれるところがあって、事務所とかに取りに行くんですか。受刑中はどうなってたんですか?」
L被告人「貯まってたのを取りに行きました」
そっちの収入があるので、動画販売で得たお金は出演女性のために使えていたのかもしれませんね。出所した時、どれくらいの大金を手にするのやら。すごい世界だ、水商売のスカウトは。
裁判官「社会復帰後、状況は同じですよね」
L被告人「より悪化しての出所になると思います。週刊誌にもどう書かれているのかなどもチェックしてますので、また(ヤスダのような人が)来るかもしれません。出所したら40代後半で人生半分終わりなので、気持ちを入れ替えて、やらないよう心に決めています」
裁判官「名前も知れ渡ってるでしょうから、業界とは距離を置くと?」
L被告人「そうですね。実家で就活して、付き合う人を変えていきたいです」
と、改めて脱AV宣言。動画を購入したファンや出演を待ち望む女性もいるでしょうけど、再犯しないために違う仕事をすると約束です。
続いて11月30日の第4回公判は、残っていた証拠を整理して10分程で閉廷。
12月22日の論告・弁論は仕事の都合で傍聴できませんでしたが、保釈後に開設したL被告人のTwitterアカウントによると、検察官は懲役3年と罰金200万円、追徴金が2700万円という求刑をしたそうです。
被告人の支持者も集う中で告げられた判決
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そして今年に入って2月1日に判決公判が行われました。
L被告人を応援する人も多いようで、法廷の向かいにある控室では判決を傍聴に来た支援者数人が、保釈されているL被告人を囲んで話をしていました。
徐々に傍聴人も集まり、気が付けば満席。傍聴席に座れず法廷の外で待たされる人もいるほど。
裁判官が入廷し、全員が一礼。満席の傍聴席に見られながら、L被告人が黒いダウンを脱いで判決スタートです。
裁判官「判決の前にまず検察官に追徴の確認ですけども、求刑は販売手数料を差し引いてからの計算になっているということでよろしいんでしょうか?」
検察官「はい」
裁判官「弁護人としても、それを受けての弁論になっているということでよろしいですか?」
弁護人「そうです」
前回の論告・弁論を傍聴していないので細かい点は分かりませんが、初公判からずーっと金額のことで争っていたので改めて裁判官が確認しました。
裁判官「検察官に求刑のね、追徴の確認をしましたので、改めてですけど最後に言いたいことはありますか?」
L被告人「いや、特に」
裁判官「前回と同じということで?」
L被告人「はい」
裁判官「ではこのまま判決を言い渡します。…主文!」
続けて言い渡された判決は、懲役2年2月と罰金200万円。懲役は未決勾留日数100日算入。そして2645万7458円の追徴金。
そして裁判官が判決理由を朗読しました。ザックリとポイントをまとめます。
検察官は「FC2内では1ポイントを1円で購入してポイントで決済することになっており、L被告人は2669万1769ポイントを得ているので全て犯罪収益に当たる」と主張。
弁護人は「ポイントで買い物をする時に手数料がかかり、さらにポイントを商品券に変換し、現金化するため換金ショップに97%で販売しているので手にした現金はもっと少ない。さらに出演女性6人に払ったお金や機材費もかかっている」と主張。
これに対して裁判所としては、「得たポイントで低く買い物しただけ、出演女性に払ったお金や機材のお金は不正利益を得るための支出である」と判断したようです。
さらに、
裁判官「同種前科を有しながら刑務所出所後半年で再犯に至っていること、購入した人しか閲覧は出来ないので閲覧者は限られていたが相当数に上っていて悪質。被告人が言っていたように脅迫された原因があるにせよ、それを脱した後も犯行を続けていて常習性もあり、この種の法を守る気がないと見受けられ、割に合わない行為だと知らしめる必要がある」
と強く非難です。しかし、母親がL被告人の今後の監督を約束する書面を提出していることもあって刑が短くなったようです。
最後に裁判官から短い説諭です。
裁判官「3回目ということになります。次はホントに長くなるので、もう無いように」
L被告人「はい」
裁判官「これで裁判を閉廷します」
と、閉廷した瞬間に傍聴席から(1人だけですが)拍手があり、「セックス最高!」と叫びながら法廷を後にする傍聴人もいました。法廷内は私語禁止なんですけどね…。
傍聴席に座っていた職員が証言台に立っているL被告人の元へ近付き、法廷の奥へと連れて行きました。一旦東京拘置所に行ってから約1年11カ月刑務所ですからね、いろいろ手続きがあるのでしょう。
振り返ってみると、金額に争いはあるもののモザイクをかけずにこういう動画を販売してたのがマズかったわけで、その辺についての被告人質問が無かったのは不思議ですね。
検察官からは撮影技術の高さなどを褒められてたのに今後活かせないとは。本人は法廷でこの業界からは離れると約束しているので、ホントに無名な男に戻るのでしょう。
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