CULTURE | 2022/12/30

「その発想はなかった…」常識を覆すアイデアに満ちた2022年発売のゲームたち

2022年ももう師走。社会人の読者諸兄は仕事からも解放され、つかの間の休息を楽しんでいるだろうか。
しかし、こういう休...

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2022年ももう師走。社会人の読者諸兄は仕事からも解放され、つかの間の休息を楽しんでいるだろうか。

しかし、こういう休みに限って意識高いビジネス系メディアとして必ず推奨するのが「インプット」だ。曰く、仕事=アウトプットばかりしているとアイデアがなくなってしまう。だからこそ仕事のない休みには、インプットが必要だ。だから皆さん、本を読みましょう、特にあの経営者の書いた妙に勇ましいタイトルの本を読みましょう。効率的で生産的な年末年始を過ごしましょう!……と、書いてるだけで若干うんざりしてきてしまった。

確かにインプットは重要だ。新鮮なアイデアを仕入れれば、2023年からの仕事にも役立つかもしれない。さりとて、(読書はとても大切だが)あまり「インプット」と気負いすぎても、せっかくの休暇が台無しになってしまう。せっかくの休みだから有意義に過ごしたいけど、かといって正月まで仕事マインドを持ち込みたくない、そう迷う方も多いのではないか?

そこでオススメしたい「インプット」がゲームだ。かつてヨハン・ホイジンガが人間を「遊ぶ存在」と定義したように、人間は遊びから様々なアイデアを生み出してきた。つまりビデオゲームはアイデアの宝庫であり、人によっては本や映像よりも、仕事に役立つ「インプット」になりうるのである。もちろん、遊んでいるだけで十分楽しいので、あまり気負いすぎることなく楽しく余暇を過ごすこともできる。

今回は2022年に発売されたゲームの中から、遊んでいる間思わず「そんなのアリかよ!」と言いたくなるほど、常識を覆すようなアイデアに満ちた作品を紹介したい。さらに年末年始、ネット等のインフラのない実家で過ごす方の事情を鑑み、紹介する3本の内2本は、持ち運びの容易なNintendo Switchでリリースされたゲームから選んでいるので、その点についてもご安心いただきたい。

Jini

ゲームジャーナリスト

note「ゲームゼミ」を中心に、カルチャー視点からビデオゲームを読み解く批評を展開。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」準レギュラー、2020年5月に著書『好きなものを「推す」だけ。』(KADOKAWA)を上梓。
ゲームゼミ

説明書を読むゲーム『TUNIC』

TUNIC 任天堂ストアより

昔、ゲームのパッケージには説明書がついていた。だからゲームを購入した子どもは、ゲームを遊ぶ前にまず説明書に目を通し、操作やヒントについて一通り確認しつつ、ゲームを実際に遊び始め後も、どこかで詰まったらまた説明書を引っ張り出してどこかにヒントがないかを確認する。しかしゲームが大衆化する過程で徐々に遊びやすく、わかりやすくなり、またオンライン販売が主流になると、説明書は徐々に姿を消し、今ではほとんど付属されない。

『TUNIC』はまさに「説明書があった時代」のゲームだ。いわゆるチュートリアルは一切なく、ルールや操作方法について教えてくれない。では一体どのようにして遊べばいいのか、そう途方に暮れているとプレイヤーはあるアイテムを拾うことになる。それは「このゲームの説明書」だ。主人公の操作方法、攻略のヒント、全体のマップ、そういった情報が羅列された「説明書」をゲームの中で拾い、精読していくことで、非常に困難なゲームでありながら攻略できるよう調整されているのが『TUNIC』なのだ。

ここで面白いのは、一度に拾える説明書は多くて2~4ページ程度で、しかもページの間が飛んでいることだ。つまりいきなりすべてのヒントが得られるわけではないし、しかも今よりも遥か先のダンジョンのヒントが突然出てきたりする。さらに本作には謎の独自言語が存在しており、説明書はこの独自言語によって「穴あき」状態になっている。つまり、説明書にはちゃんとヒントが書いてあるが、「今持っていないページ」「独自言語で書かれた行」などの「行間を読む」ことで成立するのだ。

本作は一見すると『ゼルダの伝説』のオマージュに満ちており、実際、見下ろし視点(アイソメトリック)でパズルとアクションに挑む点では、明らかに初期『ゼルダ』を彷彿とさせる。もちろん本作はそれだけでも十分楽しい作品になっただろうが、そこに「ゲームの中で教科書を読む」というギミックを入れることで、全く別の体験を盛り込んでいる。ミニチュア風のビジュアルも可愛らしい。

バカバカしいようで大真面目『Shotgun King: The Final Checkmate』 

Shotgun King: The Final Checkmate (Steam)より

主人公はチェスの「キング」。しかし自分の配下は横暴な支配に耐えかねて皆逃げ出してしまった。こうなればキング一人で戦うしかない……ショットガンと共に。

本作は基本的に詰将棋、もとい詰チェスだ。相手はポーン、ビショップ、ナイトなどの駒を使って主人公=キングを捉えにやってくる。一方こちらには何故かショットガンがある。つまり遠距離から一方的に攻撃できるわけだ。よって本作では迫りくる駒たちをショットガンで蹴散らしつつ、キングを撃破することが目的となる。

ここで面白いのが「ショットガン」という点だ。ショットガンは散弾、つまり弾が散らばってしまうので、5~6マス離れてしまうと弾は届かない。代わりに、散らばった弾は複数の敵を同時に攻撃することもできる。だからそこそこの距離を維持しながら、なるべく一度に複数の相手をまとめて攻撃し続けることが、本作攻略での鍵なのだ。仮にショットガンでなく、ピストルやライフルを使うならこのゲームは成立しなかっただろう。

また本作を遊ぶたびに、彼我を強化するカードを手に入れる。例えば、ショットガンの射程や攻撃力を増やす代わりに、相手のポーンが1つ増えたり、ビショップが敵を回復できるようになる具合だ。これはいずれもランダムで、遊びごとに変わったルール・展開を楽しむことができる。1プレイは短いものの、何度でも遊べる設計だ。

このように本作は「ショットガンでチェス盤を荒らす」という極めて破天荒な設計の一方、ショットガンの性質を活かしてバランスを調整したり、ゲームを遊ぶごとに変化する展開を導入することで飽きがこないよう設計している。今までにないアイデアを思いつくのは簡単だが、それをどのようにして作品に落とし込むのか……本作から学べることは多いだろう。

掃除という単調作業から面白さを抽出する『PowerWash Simulator』

PowerWash Simulator より

大晦日といえば大掃除。一年間で積もり積もった汚れに挑むのは骨が折れるが、いざ始めてみると、風呂場のカビを必死になって擦り落としたり、窓をピカピカになるまで拭くことに、案外のめりこんでしまった経験が読者にもあるのではないだろうか。

『PowerWash Simulator』はそんな地道ながら、気づけばのめり込んでいる掃除をそのままゲームにしてしまった作品だ。プレイヤーは清掃業者として、家庭や職場を訪れては高圧洗浄機で汚れを落としていく。そうして稼いだお金を使い、新しいクリーナーや洗剤を購入し、また新たな仕事を請け負う。これをひたすら繰り返す。

本作にはストーリーや演出はなく、パッと見とても地味なゲームだ。ところが、いざ遊び始めると中々に面白い。もう捨てた方がいいのではないかと思うほど汚れた家屋や車が、最終的に新品同様の輝きを取り戻したときにはとても達成感を得られるし、表面の汚れは弱い水圧でサッと落とし、隙間や裏側の汚れは高水圧で一気に落とすなど、道具の使い分けも奥深い。ゲーム内では汚れをどの程度落とせているか表示してくれる一方、具体的にどこが汚れているかまでは教えない絶妙なUIも含め、本作は見事に「掃除」を「遊び」に落とし込むことに成功している。

また本作には友達と一緒に掃除ができるオンラインモードも用意されている。こちらは友達と気楽に雑談でもしながら遊ぶのに最適で、まるで高校生同士でバイトをしているかのような体験ができる。一人では黙々とこなす仕事も、皆でワイワイこなしていいという、この幅広い遊び方も本作の特徴だ。

本作は「掃除」という普遍的な営みから、巧妙なゲームデザインとUI、視覚によってうまく「面白さ」を抽出し、その上で友達と遊ぶオンラインモードによってガラリと雰囲気を変えることで、一見「つまらない」作業を見事「ゲーム」として構築している。

ビデオゲームはアイデアの宝庫だ

今回紹介した作品のうち『TUNIC』『PowerWash Simulator』はNintendo Switchを含めたハードで、『Shotgun King: The Final Checkmate』はPCでプレイできる。また年末年始は多くのプラットフォームで割引セールを行っており、安価で入手することができるだろう。

ゲームはあくまでゲームであり、特に今回紹介した作品についても、社会や経済に対する直接的な学習となるわけではない。しかし、ゲーム=遊びだからこそ思いつくような実に個性的で衝撃的なアイデアに満ちており、「説明書を読むゲーム」にしろ「チェスのキングがショットガンで大暴れするゲーム」にしろ「高水圧洗浄をひたすら楽しむゲーム」にしろ、まさにゲームでなければ体験し得ないような発見に満ちている。

年末年始、休暇だからこそ「インプット」に励むほどの気力はないが、どうせならなにか有意義なことで時間を過ごしたい方には、ぜひこうした作品を遊びつつ新年を穏やかに迎えていただきたい。


Jiniさんによる連載「ゲームジャーナル・クロッシング」はこちら