CULTURE | 2020/11/11

「出産しない育児」の選択の先にある幸せとは?特別養子縁組のリアル

年々少子高齢化が叫ばれる中、昨年ついに過去最低の出生数(86.4万人※)となった日本。
女性の社会進出とともに高齢出産...

SHARE

  • twitter
  • facebook
  • はてな
  • line

養子縁組が成立するまでの長い道のり

セキさんは不妊治療の末に夫の理解を得て、現在、特別養子縁組によって6歳と3歳の2人の子どもを育てている。原体験は、セキさんが海外生活で目の当たりにした、養子を育てるマダムの姿にあったという。

「スウェーデンに住んでいた時、近所のマダムが韓国人の養子を育てていて、その子どもがやがて成長し、『今ではキャスターとしてテレビに出ているのよ』と誇らしそうに子どもの写真を見せてくれました。そのマダムの姿が今の私にとって大きな存在になっています」(セキさん)

では、国内で実際に養子縁組をする場合、どのようなプロセスが必要なのだろうか。セキさんによれば、現在国内には18の国の認可を受けた養子縁組を斡旋する団体があるという。

団体によって条件、ルールが違なり、育ての親の年齢制限があるところもあれば、ないところも。

また、受け入れる側にもさまざまなハードルがある。たとえば、子どもの性別が選べないほか、外国人の子どもでも受け入れる覚悟が必要だという。

さらに育児中のルールもさまざまで、たとえば、両親のいずれかが育児休暇をとって育児に専念する取り決めがある団体もあれば、逆に育児に支障のない範囲であれば仕事を続けてOKとするところもある。

デザイナーとして活躍するセキさん自身、キャリアを中断することは大きなハードルとなり、かなり悩んだという。その後の法改正で、試験養育期間も育児休暇の対象になり、今養子縁組を考えている人にとって非常にいい流れだと語る。

施設によって多少の違いはあれど、およそ上記のような過程を経て特別養子縁組が法的に成立する。(データ作成:セキユリヲ)

特別養子縁組によって待望の子育てがスタート!理想と現実は?

特別養子縁組を経て、セキさん夫妻の元にやって来たのは、生後10日の女の子の赤ちゃん。その時の感動を嬉しそうに後述するセキさん。

「まさに天使が舞い降りたかと思いました。もちろん、毎晩夜泣きするなど大変なことも多々ありましたが、夢にまで見た育児ができるとあって、おむつ替えするにも夫婦で取り合いでしたね(笑)」。

Photo by Shutterstock ※画像はイメージ

さらに意外だったのは、子どもには実の母親がいるということを包み隠さずオープンに話して育てていること。

「自分のルーツを知りたいという思いは人間として自然なこと。誰にでも知る権利があると考えています。“真実告知”と言って、娘にはできるだけ養子縁組のことを隠さずオープンになんでも話すようにしています」(セキさん)

その後、産みの母親との節目での交流も続いているという。このことについて、こみ上げるものを抑えながら語るセキさんの見解が非常に印象的だった。

「長女が1歳になる頃、養子縁組の斡旋団体の計らいで実のお母さんと会う機会を頂戴しました。以来、娘の誕生日ごとにプレゼントをいただくなど、交流が続いています。実のお母さんについては、娘にとっても影で見守ってくれる存在として大変ありがたく、言葉では尽くしきれないほど感謝の気持ちでいっぱいです」

やがてセキさん夫妻は、長女が2歳半になる頃、再び特別養子縁組を通じて生後2カ月になる男の子を迎えることに。しかも、男の子はダウン症だった。

「下の子はダウン症ですが、私はこの子にめぐり会えたことを感謝し、本当によかったと思っています。おかげで障がいのある人たちとの温かいコミュニティに出会えたほか、新しいことを知る機会が増えました。それから2人目を迎えたら夫がこれまで以上に育児に積極的に参加するようになりましたね(笑)」(セキさん)

特別養子縁組のリアルな話

そもそも親と子の血縁にこだわる人も多い中で、夫はかなり養子縁組に対して理解がある方だとセキさんは振り返る。

「うちの夫は養子に関してとても理解がある人ですが、家族のあり方について、もっと若い頃から話していればよかったと実感しています。家族計画に関して、一般的には出産する・しないの2択で語られますが、もっと自然なかたちで社会に第3の選択肢として特別養子縁組があるといいなと思いました」

おじいちゃん・おばあちゃんは、当初は驚いたようだが、日々子どもたちの成長を目の当たりにし、今では孫として受け入れてかわいがってくれる存在となり、とてもいい関係が築けているという。

Photo by Shutterstock ※画像はイメージ

そのほか、ママ友トークの中で、しばし妊娠中の話になることがあり、その時ばかりは養子だということを実感させられる瞬間も。

また、周囲にも養子縁組のことをオープンにしているというセキさんだが、子どもとの日常でちょっと困ってしまったエピソードを話してくれた。

「基本的に娘は、『あなたはどこから来て、こんな素敵な人がママで』という話を聞くのが大好きなのですが、おしゃべりで活発なので、そのまま友達にも言ってしまい、事情が筒抜けになってしまうことも(笑)。今はまだ幼く、素直に受け止めていますが、今後思春期を迎えた時にどう受け止めるのかということは慎重に見ています」(セキさん)

セキさんを含めた養子縁組のコミュニティは歴史がそう長くないこともあり、多くは幼い子どもを抱えるファミリーが中心。それだけに思春期に向けての事柄はこれからの課題だという。

特別養子縁組に対する時代の反応や変化

圧倒的に少数派の特別養子縁組だが、実は今年に入り、少しずつ波が来ている。今年4月には、特別養子縁組による親の負担を軽減させる内容に民法が改正された。

そうした国による特別養子縁組の利用促進の動きがあったほか、10月には養子縁組がテーマの映画『朝が来る』(河瀬直美監督)が公開されて話題になっている。

そして今年8月、セキさんは自身の経験を通じ、特別養子縁組のすばらしさを伝えるために「新しい家族のカタチを考える会」を立ち上げて取材対応や講演活動をスタート。

しかし、不妊治療のその先にある選択肢として特別養子縁組が広がるには、養子を当たり前に受け入れる社会作りが必要だと語るセキさん。そしてまだまだ特別養子縁組に際する過程の長さにハードルがあると指摘する。

「現状だと児童相談所を通しても養子縁組はできますが、道のりが本当に長いのです。それから現行だと戸籍上の親の権限が強すぎて、子どもの実の親御さんが承諾しないと縁組に結びつかず、つらい思いのまま長い間施設にいざるを得ない子どもも多いのです」(セキさん)

一方で、女性がますます社会で活躍する時代にあって、シングルマザーとして里親になることを望むケースも増えているという。これについてセキさんの意見はとても前向きだった。

「夫婦揃っていたとしても、子どもにとってつらい生育環境がある中で、愛情さえあれば基本は大賛成です。実際、そういった相談を受けることもあります」

現在は家族4人で都市生活を送るセキさん一家だが、子どもたちが自然の中でより生き生きと育つよう、上の子が小学生に上がるタイミングで北海道への移住も考えているという。

「日本では養子縁組をあまりオープンにしない傾向がありますが、実感としてみんなが幸せになれるとてもいい制度だということをこれからも育児や活動を通じて、幸せをお裾分けできたらと考えています」(セキさん)


肌感覚として、周囲でなかなか子どもができないという夫婦は意外と多い。

辛く長い不妊治療の末に、血筋にこだわらず特別養子縁組に希望を見出す夫婦が増えることは、なにも不思議ではないと思う。

今回、セキさんファミリーの話を伺って、今は少数派でも、やがて特別養子縁組による親子関係が珍しくなくなる社会もそう遠い話ではないと実感させられた。


新しい家族のカタチを考える会

セルフパートナーシップBOOK

prev