EVENT | 2020/10/27

ニューノーマル時代のオンラインスポーツコーチング【連載】Road to 2020 スポーツ×テックがもたらす未来(6)

2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催を契機に、テクノロジーの進化により著しく変化しているスポーツを取り巻く環...

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一過性でないオンラインスポーツコーチング

新型コロナウイルス感染症をきっかけとした「新しい日常」すなわち「ニューノーマル」時代において、時間と空間を超えて指導を受けることができるオンラインスポーツコーチングはより一層必要とされると考えられます。また、今回のようなウイルスによる自粛の時だけでなく、屋外でのスポーツ活動が天候で制限される時や、近くにスポーツコーチがいない地域に住む方々、あるいは天候が理由で屋外でのスポーツ活動が制限される地域に住む方々が自宅にいながらスポーツコーチングを受けることなどに応用ができます。

慶應KPA会員向けオンラインプログラムの実施

このように、オンラインを活用したスポーツトレーニングの必要性が一過性のものでは無いと考えた私たちは、最初のステップとして小学生向けのオンラインコーチングを実際に行い、プログラム全体の設計、オンラインコーチングの動作習得に対する有効性、オンラインコーチに求められる資質といったことを分析・検証しようと考えました。またこの取り組みの成果を慶應KPA内で終わらせることなく、広く世の中に発信することも大切であると考え、慶應KPAの主体であり、プログラム設計と検証を行っている慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科を中心とした慶應義塾の正式な研究活動として準備を進めました。そして、慶應KPAの会員の協力を得て、4週間・8回の研究協力オンライン運動プログラムを5月から小学生約70名を対象に実施しました。

研究協力オンライン運動プログラム(画像提供:慶應キッズパフォーマンスアカデミー)

プログラム全体の設計は、慶應KPAディレクターの神武直彦教授と2019ラグビーW杯日本代表S&Cコーチで慶應KPAプログラムアドバイザーでもある太田千尋氏の協力を得て行いました。具体的には、週2回のオンライン運動プログラムにより自粛期間中の運動不足を解消し、同時にコンディション可視化アプリONE TAP SPORTSを活用して日々の睡眠時間や体調を入力・振り返ることで生活リズムの乱れの改善を目指す取り組みとしました。

ONE TAP SPORTS(画像提供:株式会社ユーフォリア)

更に、全身体力や投げる動作・ボールを操る動作などの運動能力の習得・向上を自宅で達成することも狙いました。参加者同士のコミュニケーションや全体が見える画面による一体感・競争演出、グループ分けができる機能を活用した少人数でのゲームなど、オンラインツールを有効活用することを心掛けました。参加者の成長レベルに応じた内容にするために、1~2年生を対象とした「キッズクラス」、3~4年生を対象とした「ミドルクラス」、5~6年を対象とした「チャレンジクラス」を設け、それぞれのクラスが最大30名程度となるように調整し、コーチの目が行き届く人数で行いました。オンラインコーチングの効果を確認するために、参加者の皆さまに協力いただきながら、4種目の動作をプログラム開始前・プログラム中間・プログラム終了後の3回、動画で撮影いただき、変化を分析しました。スポーツに関する専門的な資格を持つ指導者が動画を毎回解析し、4つの動作それぞれに点数をつけたフィードバックシートを介して参加者に提供しました。

フィードバックシートの例(画像提供:慶應キッズパフォーマンスアカデミー)

その結果、4種目のうち、3種目(スプリントバーピー、ボール8の字回し、ダイアゴナルキャット)については、各動作5つのチェック項目の達成率がプログラム開始前の40%~60%からプログラム終了後には95%まで上昇し、顕著な動作改善が見られました。一方で、投球動作については改善の幅は限定的で、プログラム終了後の全体の達成率は70%前後にとどまりました。比較的単純な動作であった3種目に比べ、投球動作はより複雑な動作であり、動作改善には他の3種目と違ったアプローチが必要ということが分かりました。8回のオンラインコーチングと動画のフィードバックでポイントを学び、保護者と一緒に自主的にトレーニングをした結果、投球動作に明らかな改善が見られた参加者もいました。この写真の例はトレーニング参加直前(上図)と参加直後(下図)の投球動作の様子を撮影したものですが、身体の動きなど大きな改善が見られているのが分かります。

運動能力向上の例(画像提供:慶應キッズパフォーマンスアカデミー)

終了後にはより良いプログラム作成を目指しオンラインアンケートを実施しました。自粛期間中のプログラムだった事もあり、運動不足解消、エネルギー発散の場になり有り難かった、あるいは、家族以外の人と交流があったことが良かった、という声が多くありました。一方で、今回のプログラムだけでは生活リズムが十分改善しなかった、リアルな運動感がもっと欲しい、参加者との競い合いや自己紹介などがもっとあると嬉しいといった今後のプログラム改善につながるフィードバックも数多くいただきました。

港北区小学生向けオンライン運動プログラム

また、地域との連携という点で、SDM研究科と横浜市港北区、そして横浜市立日吉台小学校 は、3年前からタグラグビーの授業を対象にした「スマートスポーツプロジェクト」を実施してきました。これは、授業の中でGPSやドローンを用いて学生の運動能力やチームプレーを定量的に取得分析し、各学生が自己の成長を定量的に理解することでスポーツへの興味や運動能力向上につなげることを目的とした取り組みで、様々な成果が出ています。しかし、今年度は、新型コロナウイルスによる影響により、対面での授業による取り組みは実施できない状況となりました。そこで、日吉台小学校や港北区役所の皆さまと相談し、慶應KPAが開発したオンライン運動プログラムを日吉台小学校の児童を中心とした横浜市港北区にお住まいの小学生の希望者へ提供することにしました。

横浜市港北区と慶應義塾大学での記者発表(抜粋版・画像提供:横浜市・慶應義塾大学)

約80名から申込をいただき、6月から7月にかけて合計4回のオンライン運動プログラムを実施しました。プログラムの基本的な内容は、慶應KPA会員向けに実施したものと同じで、アンケートやウェブアプリケーションを活用した生活リズムの乱れの改善を目指す取り組みも同様に行いました。

これまで述べてきた慶應KPA及び港北区の小学向けオンライン運動プログラムは、参加者数を限定し、リアルタイムコーチングと動画の個別フィードバックの組み合わせにより動作改善を目指す「インタラクティブ」な取り組みであったのに対し、8月には不特定多数の参加者を対象とした「ブロードキャスト」的な取り組みにも挑戦しました。

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