LIFE STYLE | 2020/10/21

コロナ禍でも116兆円を投資!世界を変える欧州グリーン・ディールの本気度【連載】オランダ発スロージャーナリズム(29)

欧州委員会の公式サイトより
10 月半ばの欧州はどっぷり新型コロナ第二波となっています。直近の日本の感染者数は毎日3桁...

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生産者ではなく「生活者」を改革する新ビジネスが続々誕生

ヘレンボーレンの公式サイトより

オランダやその周辺国では、「ヘレンボーレン」という新しい食物の生産システムが急速に広がっています。地域で何人かが集まって共同で土地を準備し、そこで野菜を作ってくれる農家さんを雇うというシステムです。自分たちの食べる野菜は自分たちで作る、というイメージ。もちろん、自分たちでは農作業ができないので、プロの農家を雇う。そして、そのプロの農家と相談しながら、時にボランティアとして、その農場の運営や畑仕事を手伝いながら、自分たちが食べる分の野菜を作っていくというシステムです。

2016年の開始以来、現在オランダ国内には8カ所あり、13カ所で設立準備中。今では隣国ドイツやベルギーにも広がりを見せています。

日本では農家から直接野菜を買う、小さな菜園を借りるということはあっても、なかなか「自分たちで農家を雇う」という発想にはならないのではないでしょうか? これは地域で数十人単位で集まって土地の購入や借入、整備、農家の雇用、栽培品種の設定などなどまで行うので、それ相当の農業知識や経験がないとできることではないのですが、この仕組みでは地域ごとの知見を積極的にシェアしながら、農薬や肥料を使わずに土地そのものへの負担を減らすやり方や、体に優しいオーガニックでの栽培方法、コミュニティとしての豊かさ、などなどサステナブルな手法で実現しています。今、現在ある食の生産方法を含む、食にまつわる全産業の改良を考えた時に、生産者サイドではなく、生活者サイドを変えなければダメだと気づいた創設者が始めた仕組みです。

他のオランダの事例も見てみましょう。次はハーグ市内にある、オフィスとして使用されていたビルを、丸ごと農場にしてしまったという、「The New Farm」、これまたサステナブルな事例です。

こちらはルーフトップ、つまり屋上庭園ならぬ屋上農園を作り、その下階で魚の養殖を行うという、いわゆるアクアポネックスをビル内に実現してしまったというもの。その他の階にも、フードテック、アグリテックなどのスタートアップのインキュベーション施設、コワーキングスペース、キッチンスタジオ、レストラン、フードマーケットなど、食に関係する人たちがこぞって入居しています。

The New Farmの屋上農園。詳しくは第3回「「オランダ版SXSW」ことボーダーセッションと、サステイナブル至上主義になったヨーロッパ」をご覧下さい

5000匹もの食用ティラピアノが浮かぶ養殖場

残念ながら、ルーフトップ庭園とアクアポネックス部分は運営会社のUrban farmersの経営難により、2018年に営業停止してしまいましたが、ここでの知見を活かした次のプロジェクトがすでに動いているそうです。

当然、ルーフトップ農園は再生可能エネルギーを使用し、雨水を利用したアクアポネックスで水資源の循環を行うといった、サステナブルな仕組みを持ったものでした。さらに、これが都市のど真ん中にあったので人々の日常生活の近くにあるということで、食の生産現場への関心を喚起することにも成功。これも生産者ではなく、生活者サイドの意識を変えることに成功したプロジェクトです。

これらは、今回の「欧州グリーン・ディール」発表以前からの取り組みではありますが、ヨーロッパでは、サステナブルと相まって、こうした「食」にまつわる大きな変革が起ころうとしています。

元々は、「食」にはあまり関心がなかったオランダ社会なので、あくまでもサステナブルな観点からこうした取り組みに積極的になり、結果、食べ物のレベルが上がってきているというのが、なかなか面白い現象だなあと感じています。

こちらの「De Kas」は、アムステルダムの都会の真ん中にある農園レストラン。公園内にあるのですが、周りには自家菜園もあり、ここで提供される食べ物は、ほぼ自家製。かつベジタリアン。そして、その日の収穫次第なのでメニューはなし。基本的には当日、お店に行ってからコースを選ぶ仕組みです。すべての料理が見た目も美しい上に、美味しい。ここに来ると、自分がオランダという食にまったく興味のなかった国にいることを忘れてしまいます。

「De Kas」の店内。オランダのサステナブルなレストラン事情は第14回「これもサステナブル?「食の不毛地帯オランダ」のレストランが超絶熱い理由」をご覧下さい

ここも当然オーガニックなのですが、生物多様性豊な土壌で野菜を栽培し、キノコは、コーヒーカスを使用した培養土で栽培したものを利用しています。レストラン自体が、グリーンハウスという温室だったりと、いたる所にサステナブルな仕組みが隠されています。

オランダでは、こうした取り組みがさまざまな場所で芽吹いています。サステナブルの視点で見るのは当然ですが、グリーンディールの視点で見てみると、もしかしたら日本でのビジネスのヒントが見つかるかもしれません。

ともあれ、新型コロナをなんとかしてくれないと、何もできないのですが…。今年2回目のロックダウン中のオランダからでした。


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