CULTURE | 2019/06/21

これもサステナブル?「食の不毛地帯オランダ」のレストランが超絶熱い理由【連載】オランダ発スロージャーナリズム(14)

「Men Impossible」のウェブサイト
過去の連載はこちら

吉田和充(ヨシダ カズミツ)
ニューロマジ...

SHARE

  • twitter
  • facebook
  • はてな
  • line

「Men Impossible」のウェブサイト

過去の連載はこちら

吉田和充(ヨシダ カズミツ)

ニューロマジック アムステルダム Co-funder&CEO/Creative Director

1997年博報堂入社。キャンペーン/CM制作本数400本。イベント、商品開発、企業の海外進出業務や店舗デザインなど入社以来一貫してクリエイティブ担当。ACCグランプリなど受賞歴多数。2016年退社後、家族の教育環境を考えてオランダへ拠点を移す。日本企業のみならず、オランダ企業のクリエイティブディレクションや、日欧横断プロジェクト、Web制作やサービスデザイン業務など多数担当。保育士資格も有する。海外子育てを綴ったブログ「おとよん」は、子育てパパママのみならず学生にも大人気。
http://otoyon.com/

おそらく一度でもオランダにいらっしゃったことのある方にとって、というより、むしろ世界の共通認識として「オランダの食事はマズい」というのがあるかと思います。そうそう、確かに元は質素倹約を良しとするプロテスタントの国でもあり、半分は埋め立てて出来た北海に面する小さな国。だいたい朝食はフルーツ、ランチはサンドウィッチ、夜は適当というのがオランダの定番の食事パターンですから、そもそもこんなところで豊かな食文化も育つわけがない、というのはむしろ普通に納得できるのです。

が、しかししかし今回、筆者は明確に「それは違う!」と断言したいと思います。

というのは、実は今、オランダの外食レストランが非常に熱いのです!しかも、美味しい!のです。

レストランもサステナブルへ

しかしこのレストランや外食産業の盛り上がり方は、日本のそれとは全く違う文脈です。

今回ご紹介する、予約の取れない大人気店「De Kas」。大勢の人で賑わう店内では、最新のアグリテックを用いて野菜の栽培も行なっている。ちなみに、メニューは当日収穫された野菜が中心なので、当日まで中身はわかりません。

確かに、日本の食事のレベルの高さは世界一でしょう。もしかしたら、最近ではシンガポールや上海などが世界一、と言う人もいるかもしれませんが、いずれにせよ、世界トップクラスであるのは間違いありません。

寿司、天ぷら、そば、焼肉などの日本食は当然として、イタリアン、フレンチ、中華などいずれも世界トップレベルの店が日本にはあります。はたまたラーメン、うどん、お好み焼きなどのいわゆるB級グルメも、もはやB級の域を超えています。

こうやって書いているだけでも、「次の帰国時にはあの店に行こう」とか、「あっちの店にも行きたい」などの妄想はどんどん膨らみます。確かに、日本あるいは東京のレストランは間違いなく世界のトップレベルではあるのです。ですが、オランダのレストランが盛り上がっている理由は、こうした世界トップレベルのレストランが競っているベクトルとは、全く違うベクトルの上にあります。

それは、「サステナブル」という価値観に基づいているということです。サステナブルというと、一般的には「地球環境の持続可能な発展」を意味しています。2015年9月の国連サミットで採択された2030年までの国際目標である「SDGs」なんていうのは、聞いたことがある人も多いかもしれません。「SDGs」は「サステナブル・デベロップメント・ゴール」の頭文字を取って並べたものです。

で、この「サステナブル」。日本だと「CSR」(利益追究ではなく企業の社会的責任を果たす活動)の一環として、「取り組む」、または「取り組まないとダメだよね」とか、「とはいえ、何したら良いかわからない」とか、「結局、儲からないからやりにくいなあ」なんてことが一般的かと思います。

しかし、ヨーロッパ、そしてオランダはかなり本気でこれに取り組んでおり、地球環境のために全産業において、これを追求することが大前提となっています。

ということで、「え?レストランがサステナブル?」なんのこっちゃ?と思われるかもしれませんが、オランダにおいては、レストランもサステナブルである必要があります。

それからもう一つ、サステナブルを推進するマインドとして日本とは大きな違いがあります。オランダでは「サステナブルなビジネスは儲かる」という暗黙の共通認識があります。「サステナブルという新しい価値観」は十分、商売のタネになる、と思われているのです。

と、ここは建国以来の根っからの商人国家であるオランダの本領発揮なのですが、レストランもこのベクトルに完全に乗っているのです。

サステナブルなレストランとはなんぞや??

ということで、アムステルダムで盛り上がっている、サステナブルなレストランを少しご紹介しましょう。いずれもオススメのお店ばかりですので、仕事や旅行でアムステルダムに行く時のために、この記事は保存しておいてください(笑)。

まずはアムステルダムの市内にありながらも、周りを広い公園に囲まれていた最高の立地にある農家風レストラン 「De Kas」。レストランの敷地内にある農園や、いわゆるアグリテックを駆使した温室栽培で収穫された野菜を提供しています。究極の地産地消であることからフードマイルを減らすことができ、また最新のアグリテックを駆使した農業は、地球環境への負担もありません。また全てオーガニック栽培しているので、土壌汚染なども一切ありません。

「De Kas」の店内は全面ガラス張りですが、オランダでは「グリーンハウス」と言って、日本でいうところの温室です。まあ、農家そのまま、という感じですね。

健康志向の高まりとも相まって、このサステナブルなレストランは大人気。今ではすっかり予約困難で、多くのアムスっ子の支持を得ています。メニューはダッチフレンチをベースにしており、目にも美しいエジブルフラワーを使ったデザートなどおしゃれで美味しく、さらにオランダらしいフレンドリーなサービスも居心地がよく、ここが「食の不毛地オランダ」だということは、すっかり忘れてしまいます。

コース料理の締めは、De Kasで採れたエジブルフラワー付きのアイスクリーム。日本のレストラン顔負けの繊細な味。

次にご紹介するのは、「The Avogado Show」なるレストラン。メニューの中心は名前の通りアボガドです。サンドウィッチやボール(丼)などがあります。この店がなぜサステナブルか?というと、使用されるアボガドが全てオーガニックのハンドメイド、かつフェアトレードである、という点です。ストロー、フォーク、スプーン、そしてテイクアウト用の容器など店内ではプラスチックが完全に排除されています。テイクアウトができる店舗もあり、見た目もオシャレで、美味しい、そして栄養価が高い、さらに安いということで、人気が大爆発。実はこのお店、2016年にアムステルダムでトップ10に入る大型の資金調達をしており、アムステルダムを代表するフードテックのスタートアップでもあります。

看板メニューの一つ。見た目からもヘルシーさが伝わるアボガドボール(丼)ハワイをイメージするボール(Hoki丼など)もヘルシーなイメージを連想させるため流行っている。

そして、オランダのサステナブルなレストランとして忘れてはいけないのは、「InStock」。「食べ物を救う準備はいい?(Are You Ready to Rescue Food?)」というキャッチコピーが示す通り、ここで提供されるメニューの食材は、なんと全て廃棄食品や、売れ残り。オランダ最大手のスーパー、アルバートハインと提携し、売れ残りなどを仕入れて、それを材料に調理したメニューが出されます。これは非常に分かりやすいサステナブルなレストランかと思います。おおよそのメニューは決まっているものの、日によって「今日の一皿」的なメニューもあります。そして、これら全てが「売れ残り」食材を使った料理とは思えない美味しさ。オランダ内に数店舗ありますが、店の作りもどこもオシャレ。筆者も日本からのお客さんを良くお連れします。「サステナブルという価値観を追求したら、オランダのレストランが盛り上がってきまして…」という話をここでさせてもらっています。

「InStock」のウェブサイト

そのほか、アムステルダムには、ベジタリアンやヴィーガン向けのレストランも多くあります。世界中からの移民が多く、宗教的な理由や健康的な理由、志向などの多様性に対応できるレストランが揃っているのです。こうしたベジタリアンや、ヴィーガン向けレストランも、地球資源の持続可能性を高めるという観点からサステナブルなレストランとされることも多いのです。

そこで、最後にとっておきのお店を紹介します。なんとラーメンなのに、完璧なヴィーガン、オーガニック、かつ地産地消というサステナブルなラーメンレストラン、「Men Impossible」。しかもこちらのオーナーシェフは石田さんという日本人。「混ぜ麺」や「つけ麺」のスタイルで、厳密にいうと、日本的なラーメンではないと思う人もいるかもしれませんが、こちらのお店も今やアムスっ子には大人気。むしろ日本人よりも外国人に受け入れられている感さえあります。ヴィーガンとは思えない、パンチの効いた味付けは外国人にも大受け。店はアムステルダムのヨルダンという、オシャレなエリアにあります。こちらも立派なサステナブルなレストランとして、アムステルダムの外食産業を盛り上げている一員。同じ日本人として、ちょっと誇らしくも、嬉しくもあります。

サステナブルは立派なビジネスになる

さて、ここまでいくつかのお店を紹介しましたが、アムステルダムのレストランが盛り上がっている要因は、実は他にもあります。

まずオランダの経済状況として、リーマンショック以降の不景気を完全に脱しており、近年は堅実に経済成長をしています。Brexitの受け皿になっている側面もあり、不動産などもかなり値上がりしています。こうした好景気を背景に、さすがのオランダ人も少し「食」に興味を持ってきた感があります。フードデリバリーが気軽に、容易に利用できる環境も整ってきたこともあるかもしれません。

また地球への環境配慮とともに、健康志向も高まってきており、そうした観点からも「食」、中でも実は「日本食」への興味や注目度も非常に高まっています。

日本食に注目してみると、2017年以降ラーメン屋のオープンも相次ぎました。また、もともとホテルオークラが最初のヨーロッパ拠点としてオープンしていることもあり、オランダ国内の日本食のレベルは、実は非常に高いのです。

「日本食=健康」というイメージも定着しており、ラーメンでさえも「日本食であるからヘルシーだ」という優良誤認もあるほどです。さらに野菜が多い日本食などは、ベジタリアンやヴィーガンにも対応可能で、そうした面からサステナブルというイメージも持たれているようです。

このように、「美食の追求」という王道ではないルートから、オランダのレストランは非常に盛り上がっているのです。

ここで忘れてはいけないのは、良いか悪いかは別として、オランダでは「サステナブルはカネになる」と考えられていることです。もちろん、こうしたことを声高に言うオランダ人はいませんが、根っからの商人であるオランダらしい捉え方だと思えます。実際に、アムステルダム市の資料には、「経済成長と持続可能性を両立する価値観である」と明記されています。個人的には、この辺りの、「転んでもタダでは起きない感」は多いに見習うべき点ではないか?と思っています。

ともあれ、背景はいろいろあるものの、もはやオランダは「食の不毛地」とは呼ばせない!と言いたいところですが、よくよく考えてみると「オランダ料理」というジャンルだけで見ると、いまだに見るべきところはないように思えるのが残念なところではあります。

日本食系のレストランをオープンしたい人で、ある程度お金が準備できる人がいたら、ご連絡ください。バッチリこの文脈に乗ったお店のオープンをお手伝いさせていただきます。


次回の公開は7月15日頃です。

過去の連載はこちら