CULTURE | 2020/09/24

“宇宙CM”を成し遂げた男が、再び宇宙を目指す理由 高松聡(写真家・アーティスト)【連載】テック×カルチャー 異能なる星々(16)

加速する技術革新を背景に、テクノロジー/カルチャー/ビジネスの垣根を越え、イノベーションへの道を模索する新時代の才能たち...

SHARE

  • twitter
  • facebook
  • はてな
  • line

全人類に向けて、“宇宙から見た地球”の視覚体験を届けたい

(撮影:織田桂子)

――しかしなぜ、そうまでして高松さんは宇宙を目指すのでしょうか。その原動力があるからこそ、異国の地で先行きもわからずにたった一人の境遇でも、諦めずにすべての訓練をやり遂げられたように思います。

高松:諦めなかった理由はシンプルで、宇宙飛行士になりたかったからです。僕の中で宇宙飛行士とは、厳しい訓練を乗り越えた知力、体力、すべてを兼ね備えた人のこと。一方で「宇宙へ行きさえすれば、その人は宇宙飛行士と呼んでいい」という考え方もあります。例えば、来年から始まる宇宙旅行の搭乗者がその例です。でも弾道飛行で宇宙空間を6分だけかすめて戻ってきただけで、果たして宇宙飛行士と呼ぶことができるのか。僕にとって宇宙飛行士とはそうではなく、人生を懸けるべき非常に大きな意味を持った言葉だったのです。

(高松が訓練を受けていた2015年から現在に至るまで、民間人が宇宙へ行く道のりは数十億円を支払ってソユーズ宇宙船に搭乗し、高度約400kmを周回するISSに滞在する方法しかない。一方、宇宙旅行をより身近なものにしようとする計画は、10年以上前から各所で進められてきた。その筆頭株が、ヴァージン・グループの宇宙旅行会社、ヴァージン・ギャラクティック。同社は垂直発射されるロケットではなく、水平飛行する母機からの空中発射によって最高高度約110kmに到達し、翼で滑空しながら帰還する弾道飛行スペースプレーンを開発。商業飛行開始後は年間数百人の搭乗を目指している)

展示風景より、星の街で撮影された宇宙飛行士としてのオフィシャル写真。

――なるほど。一方で、イーロン・マスク率いるスペースX社の「クルードラゴン」に宇宙飛行士が搭乗し、民間の宇宙船として初めてISSとの往還に成功するなど、宇宙開発や宇宙ビジネスは新たな時代を迎えています。今回の展覧会はいわば、こうした企業や各国の宇宙機関に向けた最初のプレゼンでもあるわけですね。しかし……そもそも地上に適応した人類にとって、宇宙空間は生身では生きていくことのできない、いわば“死の世界”です。それなのになぜ、私たちはその危険を冒してまで、宇宙空間を目指すのでしょうか?

高松:それはやはり、フロンティア精神に尽きると思います。なぜ、人類は地球上の至る所に住み、南極や深海へ行くのでしょうか。それは「見たことのないものを見たい」という想いがあるからです。現在、人類は月に到達し、次に火星を目指そうとしています。ただ、どの国の宇宙機関も国民の税金を費やしながら、その先の風景を目にすることができるのはごく限られた宇宙飛行士だけです。僕は、人類のフロンティアは何らかの形で人類全体に提供されるべきだと思います。

だからこそ、このプロジェクトには再び人生を懸けるだけの価値がある。僕自身、すべての始まりは人類が月へ降り立った様子をテレビ中継で目にしたことでした。当時は低画質の画像が精一杯だったけれど、その経験が僕だけでなく、数え切れない程たくさんの人々の人生を変えてきたんです。であれば今度は自分が、自分にしかできない方法でその力を届けたい。だからまずは、僕が行く。すでにヴァージン・ギャラクティック社の宇宙旅行には申し込んでいますが、できれば今度こそISSへ行って、地球の写真を撮影したい。そうすることで、僕に続いてプロの写真家たちが宇宙へ行く道筋を作っていく。そのために、これからの人生を捧げていきたいと思います。


高松聡「FAILURE」
期間:9月4日(金)~27日(日)
時間:11:00~19:00
開催場所:SPACE FILMS GALLERY
入場料:無料
住所:東京都港区北青山3-5-6 青朋ビル2F

prev