(撮影:松島徹)
加速する技術革新を背景に、テクノロジー/カルチャー/ビジネスの垣根を越え、イノベーションへの道を模索する新時代の才能たち。これまでの常識を打ち破る一発逆転アイデアから、壮大なる社会変革の提言まで。彼らは何故リスクを冒してまで、前例のないゲームチェンジに挑むのか。進化の大爆発のごとく多様なビジョンを開花させ、時代の先端へと躍り出た“異能なる星々”にファインダーを定め、その息吹と人間像を伝える連載インタビュー。
1日平均の乗降者数 約353万人と、世界最大の乗降客数を誇る新宿駅(ギネスブック認定)。その駅前に2020年7月19日、目を見張るようなランドスケープが出現した。ニューヨーク在住の現代アーティスト、松山智一が手がけた「新宿東口駅前広場」。
広場全体がアート作品として成立する前代未聞のパブリックアート・プロジェクトは、いかにして実現したのか。激戦地ニューヨークにて独学でアート表現を始め、バンクシーらが名を連ねる壁画を任されるまでになった異才。建築や都市計画さえも包含し、社会を変えてゆくアートのビジョンが語られる。
聞き手・文:深沢慶太
松山智一(まつやま・ともかず)
undefined
1976年、岐阜県高山市出身。上智大学経済学部を卒業後、2002年にニューヨークへ。プラット・インスティテュート在学中からアート活動を始め、ペインティングを中心に彫刻やインスタレーションも手がける。作品はLACMA(Los Angeles County Museum of Art)やMicrosoftコレクション、ドバイ首長国連邦の王室や銀行Bank of Sharjahのコレクションなどに収蔵。19年10月、ニューヨークを象徴する「バワリー・ミューラル」の壁画を手がけた。明治神宮で12月13日まで開催中の野外彫刻展「天空海闊」でも作品が展示中。
https://matzu.net/
前代未聞、新宿駅東口の広場全体がアーティストの作品に
(撮影:松島徹)
――このたびは、完成おめでとうございます。パブリックアートというと「駅前にモニュメントを立てた」という話が一般的ですが、広場そのものが作品というスケール感に驚かされました。
松山:はい。広場全体のコンセプトと全体監修、中央に立つ彫刻作品のすべてを含めて、ここへ至る道筋を作ってきました。いわば、プロセスも含めた全体が作品になっている。その点では、社会活動家としても知られたアーティストのヨーゼフ・ボイス(1921-86)が言う「社会彫刻」の概念にも通じるものがあるかもしれません。
まず、ここはアートを見る場所ではなく、人々が一休みしたり待ち合わせをしたりする公共スペースです。その機能に対して、アートという言語を最大限に活用したランドマークを作り出すことにより、場所の持つ意味が変わり、周辺の地価も上がる。日本ではアートは無駄な産物のように思われていますが、実はパブリックアートには経済効果やインフラ整備にも通じる力がある。そのビジョンを、具体的な形で示すことができたと思います。
新宿東口駅前広場の全景。
――新宿駅といえば、世界最大の乗降客数を持つ鉄道駅。その駅前広場全体をアーティストが手がけるのは前代未聞のことですが、どうやってその大役を勝ち取ったのでしょうか。
松山:ここはかつて、地下街の換気塔とガラスのピラミッドがあり、ロータリーの中州にあたる立地でした。それをJR東日本とルミネが美化整備するにあたり、アートを主役に文化を創出するという構想を打ち出したのです。自分は過去に展示を行ったご縁からご相談をいただいたのですが、この規模のプロジェクトにアーティストがアイデアレベルから参加できるということで、大変やりがいのあるお話だと感じましたね。広場全体の構想を提案し、打ち合わせを重ねていったのですが、ルミネの森本雄司社長にはニューヨークのスタジオにも来ていただき、その場で「もはや経済大国ではない日本が文化大国を目指す上で、行政ではなく、企業体こそがその役割を担うべきではないでしょうか」とプレゼンをしたところ、深く共感してくださいました。
新宿東口駅前広場。中央に巨大モニュメントが立ち、周囲にはスツールも設けられている。(撮影:松島徹)
ーーとはいえ、視覚的にも聴覚的にも極めてノイズの多い場所だけに、アートが置かれる環境としては非常に難易度が高いように思います。
松山:東京の喧噪の象徴ともいえる環境だけに、単に作品を置く場所として見ればそうかもしれません。でも海外からの目線で見れば、その“新宿らしさ”こそが東京のアイコンになり得るはず。そう考え、地域の方々には憩いのコミュニティスペースとして、国内外から新宿を訪れる方には文化を感じるランドマークとして、ローカルとグローバルの交流が起きる場所を目指していったのです。