なぜ日本の企業は、大学名しか見ないのか?
ここで「日本企業は、大学の成績を評価すべし!」といってもあまり意味がありません。というのも、会社が採用したいのは「自社で役に立つ人材」なので、大学の成績と自社での将来の活躍に相関がなければ、大学の成績なんてどうでもいいのです。
一方で、勉強ができること自体は、社内での活躍と相関がある職種も多いでしょう。電気工学や建築、数学や化学などの専門知識は、製造業や建築業のエンジニアや、研究職ですぐに役に立ちます。ですから、理工系の学生は、学部推薦という形で、学校の成績がそのまま就活に役に立ちます。
また、専門的な学問でなくても「長時間机に座って集中できる」「先生が話した内容を理解する」「わからないことがあったら、本やウェブで調べる」といったスキルは、仕事をする上で非常に有用です。
ただ、このような技術があるかどうかは、大学入試の結果でわかります。難関大学に入学をするということは、多かれ少なかれこの技術を持っているわけで、入学した大学を見れば分かってしまうわけです。そのため、企業は大学の成績ではなく、入学した大学の名前を見るのです。
大学時代の私は、ここまで理解して「勉強してもしょうがくなくね?」という結論になりました。私の授業を受けた60%の学生も同じことを考えているのでしょう。
そこで、20年前の私は、こんなことを考えました。
「じゃあ、企業が求めてるのって、どんな人だろう? そのために何をすればいいんだろう」
そのひとつの結論が「お客さんや、会社を幸せにできる人」です。
つまり、仕事の経験をし、それをエントリーシートや面接で話をする、その話す内容が「こんな体験をして、お客さんを満足させました。だから、あなたの会社に入ってからも、お客さんを喜ばせる仕事ができます」になっていれば評価されるだろうと考えたのです。
そのために、私は50種類以上のバイトをして、自分が得意なこととを見つけ、それを元に就職先を見つけました。新宿のバーテンダーから、家庭教師、引っ越し屋、東京ドームの係員、配管工まで、いろんな仕事を経験する中で、自分の特技を見つけられたのが、インターネットサービスプロバイダーのコールセンターの仕事です。
1998年当時、インターネットに接続するのは非常に難しく、Wi-Fiなんてなかったため、パソコンに電話線をつないで、パソコンから電話をかけて…などというややこしいことをしていました。
ちょうど、インターネットが流行り始めた時代で「マルチメディアガー!」みたいにジャパネットたかたとかが煽るもんだから、インターネットがなんだかわからないおじいちゃんとかがパソコンとかを買ってしまい、ネットにつなぎたがる。そんな人たちをサポートするバイトです。
今のように画面共有システムなどないので、すべてを電話で、口答で説明しなくてはなりません。相手は、キーボードを触るのも初めてのおじいちゃんたちです。でも、私はこれが得意だったんです。
いくら説明してもうまく行かず、社員がさじを投げた人が、なぜかバイトの私の所に回ってくる。それで、なぜか私が説明するとネットにつながる。ここで、私は「人に説明する」のが他の人よりも上手いんだということに気付いたのです。
それなら、このスキルを活かした仕事に就こう。ITは好きだったしある程度知識もある。これから伸びることはまちがいない。では、難しいITのことをお客さんに説明する仕事がいいのではないか?
そうやって、ソフトウェアベンダーの技術営業やITコンサルタントの仕事を選び、就活をしました。おかげで、就活氷河期ど真ん中でしたが、すんなりたくさんの内定を取ることができました。
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学生にインターンシップが人気な理由
学生時代は、学校に対してお金を払っているので、社会に対して何も影響を与えなくてもだれも文句はいいません。しかし、就職して給料をもらうためには、社会に対していいインパクトを与え、お客さんや上司や同僚に喜んでもらわないといけません。
大学4年間はこの狭間の時期であり、この期間に価値観を変えることができないと、就活で苦戦することになります。
その価値観の変換を効率的に体験する仕組みができないか?ということで、我々が作ったのが、「海外インターンシッププログラム サムライカレープロジェクト」です。
これは、我々が所有しているカンボジアの首都プノンペンのカレー屋で、大学生が経営体験をするプログラムです。
プノンペン市内でマーケティングリサーチを行い、プノンペン大学の学生にヒアリングをし、試作品を作って試食会で改善案をもらい、カンボジア人学生を雇って役割分担をし、実際に販売を行う。
こうやって、企業がやる、マーケティング、製造、人事、営業、会計といった仕事を実際に体験し、カンボジア人を喜ばせたというインパクトを体感し、今後のキャリアをつくっていくわけです。
このプログラムは、年間150人以上(他国のプログラムをあわせると300人以上)が参加する人気プログラムとなっています。参加した学生の多くは「就活に役に立ちそう」という動機でやってくるのですが、帰る時には「人に喜ばれるのは嬉しい」「自分が得意な仕事が見つかった」という感想を持つようになります。
また、このプログラム、母国の言語や文化が通用しない海外でやるからこそ学生にとっての影響が大きくなっているのですが、今は、新型コロナの影響で海外プログラムが催行出来ません。
そのため、「スペイン語のマンガしかないマンガアプリを世界にオンラインでプロモーションする」という、「Global Marketing Online」というプログラムも作りました。
語学学習用のコミュニケーションアプリを使って世界中の人に話をしながら、プロモーションの方法を探していくのですが、メキシコ人のYouTuberに紹介してもらうよう交渉したり、コロンビア人の漫画家にマンガを掲載してもらったりと、めざましい成果をあげています。
こうやって、世界に対してインパクトを与えることができるんだ!ということを体験すると、自分に自信を持ち、人生が楽しくなるのです。
大学の授業で教えて欲しいこと
では、インターンシップだけがベストな教育なのか? 大学の勉強は意味がないのか?というとそういうわけではありません。
大学で学ぶ学問は教養であり、知識であり、価値のあるものです。ただ、それを学ぶのに、年間100万円の授業料はどうなの?という疑問はあります。
前回 、オンライン授業に対する対価が100万円であることに対して、学費返還の署名活動やアメリカでは集団訴訟が起こっていることをお伝えしました。多くの学生が、大学の学費に対して不満を持っていることは確かです。
大学の価値は大きく分けて以下の4つがあります。
1.授業
2.設備(教室や図書館、研究施設など)
3.コミュニティ(ゼミや友達、サークルなど)
4.学位
です。
学校に通えないことにより、1.授業のレベルが下がり、2.設備、3.コミュニティの価値がほぼなくなり、4.学位だけが健在というのが、Withコロナの大学の現状です(ちなみに、4.学位に関しては、学校に通わなくても学位がもらえるということで、コストパフォーマンスが上がってます)。
それゆえに、2・3がなくなった穴埋めに、授業のレベルを上げなくてはならないというのが、今、大学がやらなくてはならないこと。しかし、オンラインの授業しかできないという足かせがあり、それがなかなか上手くいっていません。
ここで、大学教員の方にやって欲しいことが、自分の授業で学ぶコトで、世界にどんなインパクトを与えることができるかということです。
それが学生にとってどんなメリットがあるかも含めて教えられればベストですが、少なくとも、「これを学んだ人は、こんなふうに世界を良くすることができる、誰かを楽しませることができる」ってことを学生に教えてほしいのです。
今の学生は「人の役に立ちたい」と考えている人が思った以上に多いです。しかし、具体的にどのように役に立てるのかがわからずに迷走しています。だから、「こういうことを学んで、こういうことができるようになったら、こうやって人の役に立てる」ということを学ばせてあげてほしいのです。
カンボジア人に意見を聞いて、好まれる製品を開発すれば、カンボジア人の人が喜んでくれて、対価として売上が上がる。メキシコ人に話を聞いて、よく使っているSNSを調べ、そこにマンガアプリの広告を打てば、多くのメキシコ人がマンガを楽しんでくれて、アプリのアクセス数が上がる。
こういう、お客さんと会社を喜ばせることができるという、ストーリーを伝えてほしいのです。
そのために、教員の皆さんには「なんでこの学問を学んでみようと思ったのか?」「学んだことによって、どんないいことがあったのか?」ということを、今一度考えてほしいなと思います。