格闘家に「引退」は必要か!?
とはいえ、自分が好きでやっていることを、年齢を理由に辞めなければならない道理はないはずだ。もっといえば、僕は格闘家に「引退」という言葉が用いられることに違和感を覚えている。
単に試合に出場しなくなった状態を指すのであれば、確かに「引退」は存在するのだろう。しかし、試合をしなくなったとしても、その選手は別の勝負を続けているかもしれない。前述したように、政治家や経営者への転身はその好例だ。
何をするにしても、人生は戦いの連続。その意味で、引退という表現は必ずしも適切ではないだろう。
プロボクシングの興行でよく、引退した選手をテンゴングで見送るセレモニーが行なわれるが、これはファンへの最後のご挨拶のほかに、引退する選手自身の小遣い稼ぎの意味合いが強い。後援者やスポンサーからご祝儀を集め、ささやかな退職金とするわけだ。当人の気持ちはきっと、すでに次の勝負へと向かっているに違いない。
これがプロレスとなれば、引退を論じるのはさらに不毛で、何度も引退と復帰を繰り返す選手は珍しくない。皆さんの頭に思い浮かぶ選手は、きっと1人や2人ではないだろう。
年齢的なものなのか僕自身、格闘家としての引き際を聞かれる機会は多いし、自分でもいい歳をして若い選手たちを相手に毎日よくやっていると思う。しかし、それでも迷いがないのは、「人生の棚卸し」を経てプライオリティが確定しているからだ。
緊急事態宣言が解除されたとはいえ、まだまだ外出には不自由を伴う昨今。この期間を単なる窮屈と考えず、自分の中のプライオリティを再確認する時間にあててみてはいかがだろうか。